カフェ・ユグドラシル

白雪の雫

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⑪豚の角煮-6-

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 ウィスティリア王国による聖女召喚に巻き込まれた事

 性女・・・ではなく聖女の茉莉花を虐めたという濡れ衣を被せられて国外追放された事

 キルシュブリューテ王国で卸しの商人をしている事

 レイモンドに異世界の料理を教えていた事

 昼食時と夕食時になると、美奈子とランスロットが集りに来る事





 紗雪から全てを聞いたエレオノーラは、自分には内緒で異世界の美味しい料理を食べていたという事実に腹を立てたものの、食事時になれば夫が家を空けていた理由に納得していた。

 浮気ではなかったのでホッとしたとも言う。

 「レイモンド、サユキさん。二人共、お義母様とランスロットが食事を集りに来て困っているのよね?」

 いっその事、料理店を開いた方が早いのではないかしら?

 紗雪がレイモンドに教えたという豚の角煮はエレオノーラにとって初めて口にした料理であったが、普段の自分達が食べている料理と比べ物にならないレベルで美味しかった。

 あの料理は六シルバ、いや、七シルバ。それ以上のお金を払っても食べたいくらいだ。

 「しかも、店舗探しから内装工事だけではなく調理器具の準備に備品の購入、開店の手続きといったものまでランスロットとお義母様がしてくれるのでしょ?」

 そもそも二人の我が儘から紗雪とレイモンドに店を開かせようとしているのである。

 責任を取る形ではないが、ロードクロイツ侯爵家が後見人になるのだから毎月赤字になっても問題はないとエレオノーラは断言する。

 「侯爵夫人はそう仰いますけど、毎月赤字なんて経営者として失格以外の何者でもありません」

 それに、自分は元の世界に戻る事を諦めた訳ではない。

 異世界の人間を召喚する術があるのだから、送還する術があるはず。

 今はレイモンドが言うように寄り道をしているだけだが、自分の最終目的は元の世界に戻る事なのだから店の経営なんか出来ないと、エレオノーラの言い分を一刀両断する。

 「・・・ねぇ、サユキさん。貴女がどこまでお義母様から聞いたのか知らないけど、迷い人や召喚した異世界人は元の世界に戻れないわ」

 何故なら、その者達はフリューリングの食物を口にしているからよ

 エレオノーラは、登場人物は違えどフリューリングに存在する世界各国には、異界の食べ物を口にした人間がそこの住人になる神話や伝説がある事を紗雪に教える。

「!!」

 邪神・サマエル討伐の道中にフリューリングの食べ物を口にした二年以上前から、自分は元の世界に戻る事が出来なくなっていたという事実に、黄泉戸喫よもつへぐいに似た理が働いている可能性に気が付かなかった己の迂闊さに紗雪の身体は震えていた。

 (もしかしたら、ネットショップというスキルは、私がフリューリングの食物を口にしない為のものだった・・・?)

 だが、このスキルはサセコな茉莉花の前で使うには非常に危険な代物でもあったのだ。

 社長令嬢として我が儘に育ち、サマエルを倒した手柄を平気で奪った彼女の事。

 ネットショップの有用性に気が付いた茉莉花は何としても紗雪を自分の手元に置こうとしただろう。

 「・・・・・・どう足掻いても私は元の世界に戻れないという訳か」





 知らなかったとはいえ、フリューリングの食物を口にしてしまった己に対して腹を立てればいいのか

 己の愚かさを笑えばいいのか

 聖女召喚という名の拉致を行ったウィスティリア王国に対して怒りをぶつければいいのか





 怒り・悲しみ・苛立ち

 「紗雪殿・・・」

 己の胸の中に渦巻く負の感情をどのようにすればいいのか分からなくなったのかも知れない。

 自分の代で篁の使命を果たす事が出来なくなったという無念と悔しさからなのかも知れない。

 或いは労わるように自分の名前を口にするレイモンドの優しい声に絆されてしまったのかも知れない。





 紗雪の頬に涙が伝い落ちる──・・・。






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