カフェ・ユグドラシル

白雪の雫

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⑭その頃の聖女-3-

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 『エドワード様ぁ~♡ギルバード様ぁ~♡』





 「・・・この女、凄いわね~」

 王家や有力貴族主催のお茶会やサロンに出席する時、自分も侯爵夫人としての外交的な笑みを浮かべるが、侍女達に対して向けていたものとは大きく異なり、エドワードとギルバードの前で茉莉花が浮かべているのは男に媚を売る下級娼婦そのものの笑みだった。

 男の前ではコロッと態度を変える茉莉花に、エレオノーラは思わず感心した声を上げる。

 『マリカ殿、今日は暑いですから氷菓を用意しました』

 庭園を彩る花々を愛でながらテラスで冷たいものを口にするのも風情があると思ったのだろうか。

 エドワードの侍女達が三人の前に雪を盛った器を置いていく。

 きゃあ~♡

 『茉莉花、嬉しい~♡』

 (氷菓って・・・単にどこかで保存していた雪に砂糖水をかけただけじゃねぇか!)

 せめて、果物と練乳をトッピングしたものを出しなさいよ!!

 これが自分に仕える侍女であれば鞭で躾けるのだが、彼女達の主はエドワードだ。

 しかも、自分に夢中になっているエドワードとギルバードの目で暴力を振るう訳にもいかないので、ここは我慢だと言わんばかりにグッと堪える。

 『『マリカ殿』』

 今の自分は邪神を倒した英雄にして、優しくて慈悲深い清楚可憐な聖女なのだ。

 あ~ん♡

 自分にそう言い聞かせた茉莉花は、エドワードとギルバードがスプーンで掬った氷菓を口に運ぶ。

 (不味っ!こんなものを有難がっているこいつ等の神経が理解出来ないわ!これだから、異世界は遅れているのよ!!)

 『美味しい♡』

 心の中では日本よりも遅れている異世界人を見下しているのだが、相手は自分の虜になっている二人の男だからなのか、茉莉花は愛想笑いを浮かべていた。

 『エドワード様!』

 『ギルバード様!』

 氷菓を食べて寛いでいる三人の元にやって来た二人が声を掛ける。

 一人は緩やかに波打つ蜂蜜色の髪を、もう一人は緑色の髪を持つ女性だった。

 『スカーレット・・・』

 『リーナ・・・』

 二人の女性───シーラとオリビアと入れ替わるように新たな婚約者となった彼女達の顔を見た途端、エドワードとギルバードが露骨に嫌な顔を向ける。

 『聖女様の世界ではどうなのか存じませんが、婚約者でもない殿方達を侍らせる行為はウィスティリア王国では認められていません!』

 『そのような女性を、ウィスティリア王国では売女と呼んでいます!』

 淑女というのは、陰となり日向となり殿方を支える存在で、貞淑である事を常に心掛けて──・・・

 『スカーレット』『リーナ』と呼ばれた女性達が茉莉花にウィスティリア王国の貴族女性としての心得を懇切丁寧に説いていくのだが、自分よりも美人で尚且つ女性らしい体型をしている彼女達の説教に気分を悪くした茉莉花は『酷い!スカーレット様とリーナ様がぁ、あたしを虐めるのぉ~!!』と、涙を流しながらエドワードとギルバードに縋りついて助けを求める。

 『スカーレット!リーナ嬢!我等はただ純粋に氷菓を楽しんでいただけだ!!』

 『それを咎めるとは、淑女としてあるまじき行為だな!!』

 折角の楽しい一時に水を差されてしまった事で機嫌を損ねてしまった三人はテラスから去って行く。










◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆










 「聖女のに騙されるとは・・・ウィスティリア王国の王太子って人を見る目がないのね」

 あんな馬鹿が次期国王だなんて、ウィスティリア王国に未来はないわね

 うんうん

 茉莉花が流していた涙は嘘泣きである事を見破っていたエレオノーラの台詞に、ランスロットとレイモンドが腕を組みながら頷く。

 「あのような演技に騙されるからこそ、優秀なシーラ公爵令嬢とオリビア伯爵令嬢が二人の婚約者として選ばれたのでしょうね」

 シーラとオリビアが脳内お花畑な二人の男と婚約破棄をしたらしいという事実に紗雪は安堵の息を漏らすと同時に、スカーレットとリーナという新たな犠牲者を生んでしまった事に頭を悩ませる。

 「紗雪殿、貴女のおかげで聖女が禄でもない女性である事がよ~く分かった。エレオノーラが言っていたように以後のロードクロイツは、迷い人と召喚された異世界人に関しては今までの制度を見直す。それだけではなく、身体検査をした上で保護する事を陛下に進言するとしよう」

 現に茉莉花の腰に赤子の霊が取り憑いていたのだ。

 という事は、元の世界での茉莉花は他人が大切にしているものを奪い取っていただけではなく、見た目では判断できなかったが性病に罹っているというのも恐らく事実なのだろう。

 もし、茉莉花のような人間が迷い人として現れていたら、今頃ロードクロイツはどうなっていたか──・・・。

 考えただけでもぞっとする。

 ぱんっ!

 「難しい話はこれくらいにして、私達も冷たいデザートを楽しむとしましょうよ」

 雪を食べている三人を見ているうちに、何だか氷菓を食べたい気分になってしまった美奈子が自分の希望を告げる。

 「紗雪さん、貴女のネットショップを使えばアイスクリームとジェラートを買えるのでしょ?」

 「え、ええ・・・。でも、ネットショップ「紗雪殿!」

 三人にばれたら最後。

 冷凍室にある自分達のアイスクリームとジェラートが食べ尽くされるのが目に見えている。

 言葉を続けようとする紗雪をレイモンドが必死になって止めようとしていた。

 「「レイモンド?アイスクリームって何?ジェラートって何?」」

 さては・・・お前は父に内緒でアイスクリームとジェラートとやらを食べていたのだな?

 アイスクリームとジェラートが何なのか分からないが、夏になれば蜂蜜や果実水、果物をトッピングしている雪や削った氷、凍らせて削った果実水や牛乳よりも美味しそうな食べ物なのだ!

 そうに違いない!

 いや、そうに決まっている!と訴えている勘に従ったランスロットとエレオノーラが青筋を立てながらレイモンドに詰め寄る。

 「父上・・・母上・・・」

 (こ、恐い・・・)

 二人の形相と迫力に負けてしまったレイモンドが涙目になりながら、アイスクリームとジェラートが何なのかを話すのだった。






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