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⑭その頃の聖女-4-
しおりを挟む「つまり、アイスクリームとジェラートは牛の乳をベースに作る冷たくて甘いお菓子なのね?」
「そ、そうです・・・」
口で説明するよりも実際に食べて貰った方が早いと思った紗雪は、以前にネットショップで購入した後でレイモンドの家にある冷凍室に保存しておいた業務用のバニラアイスとミルクジェラートを取り出すとディッシャーで掬ったそれ等を器に盛り付ける。
「黄色味を帯びている氷菓がアイスクリームで、白い氷菓がジェラートなのだな?」
バニラの甘い香りの誘惑に勝てないのか、ランスロットとエレオノーラはバニラアイスをスプーンで掬い口に運ぶ。
((!!))
「甘くて濃厚でクリーミーで・・・滑らかな舌触りが何とも言えないわ」
口の中で溶けていくバニラアイスの食感にエレオノーラは感動せずにはいられない。
「私はジェラートというのが気に入ったな」
同じ甘い氷菓でもバニラアイスは濃厚。ジェラートは口当たりがさっぱりとしている。
「紗雪殿、キルシュブリューテ王国の食材だけでアイスクリームとジェラートを作る事は出来ないのか?」
「アイスクリームかジェラートを使ったデザートやスイーツをお茶会で出したいのだけど・・・無理かしら?」
「それは・・・随分と難しい注文ですね」
アイスクリームの材料は、牛乳・生クリーム・砂糖・バニラビーンズかバニラエッセンス・卵黄、ジェラートの材料は牛乳・生クリーム・砂糖・バニラビーンズかバニラエッセンスである。
生クリームを使わなくても作れるが、アイスクリーム独特の柔らかく滑らかな舌触りにならず、シャリシャリとした食感になるのは否めない。
小学生の時に生クリームを使わずにアイスクリームを作ったのだが、これってアイスクリームではなくシャーベットだと思ってしまった事を思い出す。
「ロードクロイツ侯爵。ロードクロイツでは生クリームを作っていないですよね?」
「いや。作っているが、高級食材の一つだ」
ランスロットの一言に紗雪の顔が難しくなる。
生クリームを作るには搾りたての乳を軽く加熱した後、そのまま放置。次の日には表面に白い塊が浮かんでくる。それが生クリームだ。
この方法では大量に生クリームを作る事が出来ない。
多く作れないからこそ、手間と時間がかかる生クリームは高級品であり、それを使ったデザートや料理は王侯貴族しか口に出来なかったりする。
個人や家庭で楽しむ分であれば、ネットショップで売っている手動の遠心分離機を使えば生クリームを作れるのだが、現代日本のように数百円で買えるようにするには、まずは牛乳と乳製品の生産に力を入れて貰わないといけない。
その辺りはランスロットとエレオノーラの仕事だろう。
「ねぇ、レイモンドさん。ロードクロイツの主な産業って何なの?」
キルシュブリューテ王国が多種族国家だという事は知っていても、主要都市が何をメインにしているのか知らない紗雪がレイモンドに尋ねる。
「ロードクロイツの?主な産業は農業と酪農だな」
「という事は、小麦といった穀物だけではなくチーズやバターといった乳製品を生産しているの?」
「ああ」
「でも、生クリームは高級・・・」
「紗雪殿、何を悩んでいるのだ?」
「実はね・・・」
聖女こと茉莉花が雪を食べているのを見て、アイスクリームを一日だけ屋台で売る事を思いついたのだと話す。
「どのくらいの値段で売ろうとしていたの?」
「一個二ブロンズ」
「「「安い!安過ぎる!!」」」
だから、手作りではなくネットショップで購入した業務用のアイスクリームにしようとしていたのだと、紗雪はレイモンド親子に言い返した。
「日本では適正な価格だと思うけど、ロードクロイツでは最低でも十シルバ以上で売らないと納得しないわよ?」
何せ、生クリーム自体が高級食材ですもの
「そうなのよね」
明治時代のアイスクリームには生クリームを使っていなかったが、それでも二十一世紀の値段に換算して約八千円以上で売っていたらしい事を思い出す。
「サユキさん、貴女は何をしようとしているのかしら?」
「レイモンドさんの夢・・・ロードクロイツの食文化の発展に協力したいと思っているのですよ」
ネットショップで売っている食材を使えば簡単だろう。
しかし、それは本当の意味でロードクロイツの発展へと繋がるのだろうか?
地元の食材を使う事で食文化が根付いた結果、新しい調理法と料理が生まれ、そして発展していく。
それが紗雪の考えだ。
「ウィスティリア王国では冷蔵庫が二十ゴルド以上出さないと買えない高級な魔道具の一つですが、キルシュブリューテ王国では安いものでは四十シルバを出せば買えますよね?それって、つまり領主。いや、この場合は国になるのかしら?が主導となって冷蔵庫の製作に力を入れたからこそ平民でも手が届く値段になった・・・」
「冷蔵庫と同じように、領主が手を貸す事で生クリームをはじめとする乳製品の生産を安定させたいのだな?」
「それもありますが、職人の育成と言えばいいのでしょうか」
料理の発展は一つの文化が花開くだけではなく、豊かさの象徴でもある。
それを次代へと伝える担い手が居なければ、キルシュブリューテ王国の食文化は現状のままで留まる可能性が高いのだ。
「後は、卵・砂糖・塩・胡椒・植物油の供給の安定と、生クリームとバターを作る魔道具を発明してくれると嬉しいです」
食材の生産が安定すれば和食は難しいが、洋食やアイスクリームといったスイーツの発展が日本並みになる可能性があるとロードクロイツ夫妻を前に紗雪は語る。
「確かに食材と調味料の供給が安定して、料理人が育てば洋食に分類される料理とデザートの発展が望めるか・・・」
俺はオムライスやドリアのように米を使った料理だけではなく、味噌と醤油を使った料理も気に入っているから、それ等も広めたいんだよな~
だが、味噌と醤油の原料となる大豆と米を栽培していないので、こればかりは仕方がないとレイモンドは諦める。
「レイモンドさん、米・味噌・醤油を使った料理は私達が個人的に楽しむものにすればい「「紗雪殿(サユキさん)?レイモンド?オムライスって何?ドリアって何?」」
「父上・・・母上・・・」
((こ、恐い・・・))
食べ物が絡むと、人間はここまで変わるのか
二人の形相と迫力に負けてしまい思わず涙目になってしまった紗雪とレイモンドがgkbr状態で抱き合いながら、オムライスとドリアが何なのかを話すのだった。
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