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㉙お茶会-1-
しおりを挟むエレオノーラから出迎えられた後、客室に通されたシュルツベルク親子。
両家の両親が話し合った結果、互いに家を継ぐ立場ではないのでその辺りは二人に任せるという事にした。
要は平民というか、世間一般の恋人同士のように好きな時に会って愛を育めばいいのだ。
但し、紗雪には貴族令嬢としての教育が待っているが──・・・。
話し合いを終えた後、お見合いの席の当事者よろしく、紗雪はレイモンドと二人で庭園に咲く夏の花々を眺めながらコーヒーを楽しんでいた。
レイモンドが跡取りだったら妻としての心得やロードクロイツ家の家風に馴染むように教わったりするのだろうが、彼は三男で本人も官職に就くつもりはない。
そういう柵がないというのは精神的に楽である。
「レイモンド・・・さんってやっぱり貴族子息なのね」
ロードクロイツ家の当主になる立場でもないのに、平民として生きようとしているのに、妻となる自分を貴族の娘にしようとする辺りレイモンドもまた体面を重んじる貴族なのだと紗雪は感じていた。
「紗雪の元の世界には貴族・・・華族は存在しないが皇族は存在するとお祖母様から聞いた事がある」
華族が存在しないのであれば、男性皇族に嫁ぐ女性は異国の王女なのか?
或いは皇族の女性を正妃にするのか?
皇女が降嫁する時、婿になる男性は異国の王子なのか?
或いは皇族の男性なのか?
その辺りは美奈子から聞いた事がないレイモンドが紗雪に尋ねる。
「皇族の妃となる女性は旧華族から迎え、皇女の降嫁先は名家や旧家だったらしいけど、現代の日本は昔と比べて自由になったから男性皇族は一般人女性を妃に迎えているし、皇女はサラリーマンや公務員といった一般人男性に嫁いでいるの」
「旧華族の養子や養女にならずに!?」
「ええ」
自力で生きるしかない貴族の三男坊である自分ですら、紗雪が迷い人という事もあるが彼女を貴族の養女にした上で妻にしようとしているのに、日本では何の後見もない形で皇族と結婚するという事実にレイモンドは信じられないと言わんばかりに驚いてしまう。
「結婚って当人同士の気持ちが大事だと言われているけど、結局は家同士の契約なのよ」
「そうだな。だが、俺達の場合は両親に認めて貰っているから当人同士の気持ちを尊重した結婚になる・・・のか?」
「そう、なるのよね。それを考えたら政略結婚をしないで済む私達って恵まれているわね」
(あっ・・・異世界人である私をキルシュブリューテ王国に留めておく為にレイモンド、さんと結婚させようとしているし、貴族の養女にさせた辺りは政略と言えない事もないのか)
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男性・女性を問わず、好きな人と一緒になりたいという夢が叶えられる自分達は、かなり幸運な立場にあるのではないだろうか。
「レイモンド・・・さん」
「紗雪・・・?その、俺は紗雪の事を紗雪と呼んでいるから、俺の事はレイモンドさんではなく・・・レイモンドと呼んで、くれないか?」
俺も好きな人から・・・紗雪からはレイモンドと呼ばれたいんだ・・・
紗雪の事を呼び捨てにしたいと告白した時のように、自分の事を呼び捨てにして欲しいと希うレイモンドの顔は赤く染まっていた。
「レ、レイモンド・・・」
元の世界では男性と話す機会はあっても付き合った事はなかったし、異性では弟以外を呼び捨てにした事がなかった紗雪は恥ずかしさで顔を真っ赤にしながらも婚約者の名前を口にする。
(な、何!?この可愛い生き物!!)
女性の結婚適齢期が十六歳からなのか、二十歳になれば既に結婚しているだけではなく子供がいるというのがキルシュブリューテ王国の一般常識だ。
そんな彼女達と比べたら男性慣れしていない紗雪は初心の部類に入る。
「紗雪・・・」
(彼女にとって俺が最初で最後の・・・)
男を知らない天女を自分の色に染めるという行為に興奮を覚えたレイモンドが腕を伸ばして紗雪を引き寄せる。
「レイモンド・・・」
そんな男の想いに応えるかのように紗雪もレイモンドの背中に腕を回す。
「紗雪殿!レイモンド!」
「実は二人にお願いが!」
「サユキ!実はな、面白い事が「あなた!二人にとって今から頼む事は面白いものじゃないのよ!」
互いの温もりを感じている紗雪とレイモンドが居る部屋に誰かがやって来た。
その誰かとは言うまでもなく、ロードクロイツ家の当主であるランスロットと夫人であるエレオノーラ、そして紗雪の養父母であるアルバートとロスワイゼだ。
「「「「「「!!」」」」」」
気まずくなってしまったのか、六人は苦笑いを浮かべるしか出来ないでいる。
「・・・・・・二人の時間を邪魔して悪かった」
「・・・・・・時間をおいて出直してくるわね」
「・・・・・・婚約したとはいえ、娘に手ぇ出すんじゃねぇぞ?」
「・・・・・・二十歳になっても未婚だからって焦っちゃ駄目よ?」
愛想笑いを浮かべながら、侯爵夫妻と伯爵夫妻は二人が居る部屋から去って行く。
「紗雪・・・」
「レイモンド・・・」
ランスロット達が立ち去った後、顔を見合わせた二人は乾いた声で笑うしかなかった。
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