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㉜エビマヨのホットサンド-5-
しおりを挟む王宮の厨房を取り仕切る総料理長及び料理人達が見守る中、二人が作っているのはエビマヨのホットサンドだった。
本当はエビマヨを単品で出したかったのだが、冷蔵ボックスがあるにも関わらず生で卵を口に入れる事に不安を感じているキルシュブリューテ人への配慮である。
『レ、レイモンド様?海老にかける塩と胡椒ですが、これだけでいいんですか?』
『ああ。大量のスパイスを使ってしまったら海老の風味を殺してしまうし、何より・・・自分が作った料理を食べてくれる人の事を考えていない』
『それって・・・どういう事ですか!?』
自分達は国王一家の腹を満たす為に日々、料理を作っているのだ。
料理人としてのプライドを傷つけられたと感じた総料理長が、侯爵子息にして高ランク冒険者でもあるレイモンドに突っかかる。
『例えば・・・君の家族の一人、奥方は甘い料理が苦手だとしよう。君はその人に対して甘い料理を出すのか?』
『いえ、出しません!』
『そういう事だ。確かに陛下は甘いデザートが好きだから君達は砂糖や蜂蜜を大量に使ったクッキーやタルトを作っていたのだろう。だが、極端に甘過ぎるとそれは苦痛以外の何者でもない・・・』
それでもディートヘルムが何も言わずに料理人達が作ったデザートを食していたのは、彼等が自分の為に作っている事を分かっているからだ。
或いは──・・・
(陛下は、諦めていた?)
料理とは腹を満たす為、生きる為に作り、そして食べるものである。
しかし、それが食べる人を苦しめているのであれば本末転倒だ。
『メインディッシュが腹を満たす為だとすれば、目で楽しみ疲れた身体と心を癒す為にあるのがデザートだと、俺はそう思っている』
『・・・・・・・・・・・・』
レイモンドが何を言いたいのかを察した総料理長は口を噤む。
『まぁ、俺がその考えに至るようになったのは、俺の料理の師匠とでも言うべき紗雪のおかげだがな』
『サユキ嬢の?っていうか、師匠!?』
『ああ』
自分がこうして料理を作るようになったのは紗雪の故郷の料理を広めたいという事もあるが、自分の料理を食べた彼女の喜ぶ顔が見たい。
何より、キルシュブリューテ王国を第二の故郷と思って欲しいからなのだと、レイモンドが総料理長に己の思いを打ち明ける。
『食べてくれる人の喜ぶ顔・・・』
自分は料理を作る形で国王一家を支えてきたという自負が総料理長にはあった。
だが、本当にそうだったのか?
もしかしたら、己のプライドを満たす為だったのではないだろうか?
『甘さを控えたケーキやクッキーが食べたい』『辛くない豚肉が食べたい』とディートヘルムが何度も言っているにも関わらず、大量の香辛料を使う=贅沢という考えに凝り固まっていた自分は慣例通りの料理やデザートを作って来た。
(・・・・・・・・・・・・)
『総料理長。これ、美味しいですよ』
レイモンドの言葉に思うところがあるのか、考え込んでいた総料理長に料理人の一人が、エビマヨのホットサンドを手渡す。
(異世界の料理って・・・美味いのか?いや、不味いの間違いだろ!?)
受け取った総料理長は、自分の手にあるホットサンドをじぃ~っと見つめる。
総料理長は屋台で売っている、ジャガイモを油で揚げただけのフライドポテトを研究という意味で食べた事があるのだが、中まで火を通す為に揚げ過ぎたのか外側は焦げていたし、固いところもあるという代物だった。
これくらいであれば自分の方が遥かに美味く作れるという自負がある彼は、異世界の料理に対して懐疑的になっている。
侯爵子息のレイモンドが作ったという事もあるので、総料理長はホットサンドを食べてみた。
(!!)
『・・・う、美味い』
火を通した事でパリッと香ばしくなっている田舎パン
いい塩梅に下味が付いているプリッとした食感の海老
溶けたチーズ
そしてマヨネーズというソースのコク
それ等が一つになったホットサンドという料理はスパイスが強くないし、海老という食材の風味と食感が活きている。
何と言っても自分が今まで食べてきたどんな料理よりも、作って来た料理よりも遥かに美味なものであった。
(あれ?)
『何で?何で泣いているんだ?』
自分でも気付かぬうちに泣いている事に気が付いた総料理長は、誰かを思って作った料理はこんなにも美味しく心を震わせるものなのかと、涙を流しながらエビマヨのホットサンドを食べていく。
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