173 / 465
㊸甘くて冷たい豆乳粥-7-
しおりを挟む十時間後
おっ?
「水に浸けていた大豆が膨らんでいるな」
ボウルに入っている小さくて丸い大豆が楕円形になっている事にアルバートが声を上げる。
「次はミキサーで大豆を攪拌するのだったな。紗雪、手伝ってくれるか?」
「ええ」
レイモンドの言葉に従い、紗雪が大豆と水、カップを用意する。
「レイモンド。大豆と同じ重さの水がいるのだけど、ミキサーに入れる大豆二カップに対して水は一カップ。それを何回か繰り返すって書いているわ」
確かに水を吸収した事で膨らんでいる大豆を一度で攪拌するのは無理な話だ。
本に書かれている通りに紗雪が用意した二カップ分の大豆と一カップ分の水をミキサーに入れて攪拌する事、数回。
「紗雪、次はどうするんだ?」
「次はミキサーに入っている生呉・・・大豆の液を生呉と言うのですって。それを鍋の底が焦げないように煮込んだら清潔な布巾で濾すって書いているわ」
紗雪に言われた通り、レイモンドが生呉と、水に浸けて膨らんだ大豆と同じ量だけ用意した水の残りを鍋に移すとコンロに火を点けて温めていく。
レイモンドが生呉を温めている間の紗雪はというと、水が入っている鍋に入れた米をパスタの要領で茹でていた。
木べらで鍋の底が焦げないように掻き混ぜつつ、沸騰してきたら噴きこぼれないように弱火で温めていく事、十分。
「炊いた大豆を布巾で濾したら豆乳の出来上がりよ」
生呉を温めていた間に紗雪が用意した布巾で大豆を濾していくと、布巾からは豆乳が鍋に落ちていく。
へぇ~っ・・・
「これが大豆で作った乳って奴か」
鍋にある出来立ての豆乳を目にしたアルバートが味見をしたいと二人に頼む。
「私も出来立ての豆乳ってどんな味なのか知らないのよね」
「じゃあ、飲んでみるか」
レイモンドが小さめのカップに豆乳を注ぐと、アルバートと紗雪に渡す。
「「「・・・・・・」」」
「豆乳って飲みにくいとばかり思っていたのに、この豆乳は飲みやすいわ」
「大豆そのものの味を感じると言えばいいのか・・・」
「昨日の粥は食べる事が出来たのだが、これだけだと・・・。砂糖や蜂蜜、或いは果物を混ぜたら俺のような初心者でも飲めるのかも知れないな」
牛乳とは異なる風味の豆乳を口にした三人の感想はそれぞれだった。
「なぁ、サユキ。布巾に残ったそれ・・・大豆の搾りかす?になるのか?使い道はないのか?」
「そうですね・・・。日本では総菜やお菓子作り、家畜の餌に使っています」
おからは食物繊維が豊富ですから、お通じが良くなりますしダイエットにも効果的ですよ
「豆乳を使ったデザート・・・クッキーとケーキは紗雪に教えて貰って作った事があるけど、おからでデザートとディッシュを作った事はないな」
「おからを使ったディッシュとデザートって女が喜ぶんじゃねぇのか?」
「はい。キルシュブリューテ王国に戻ったらお養母様達に試食をお願いするつもりです。ですが、今はレイモンドが言っていた冷たくて甘いお粥を作る方が先です」
「作ると言っても、豆乳に米を入れて煮込むだけなのだがな」
紗雪が用意した二種類の米を、バニラビーンズと砂糖を豆乳がそれぞれ入っている鍋に入れて煮込んでいく。
2
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。
SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない?
その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。
ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。
せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。
こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。
主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから
渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。
朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。
「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」
「いや、理不尽!」
初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。
「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」
※※※
専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり)
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。
樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。
ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。
国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。
「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」
聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~
白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。
王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。
彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。
#表紙絵は、もふ様に描いていただきました。
#エブリスタにて連載しました。
地味令嬢を見下した元婚約者へ──あなたの国、今日滅びますわよ
タマ マコト
ファンタジー
王都の片隅にある古びた礼拝堂で、静かに祈りと針仕事を続ける地味な令嬢イザベラ・レーン。
灰色の瞳、色褪せたドレス、目立たない声――誰もが彼女を“無害な聖女気取り”と笑った。
だが彼女の指先は、ただ布を縫っていたのではない。祈りの糸に、前世の記憶と古代詠唱を縫い込んでいた。
ある夜、王都の大広間で開かれた舞踏会。
婚約者アルトゥールは、人々の前で冷たく告げる――「君には何の価値もない」。
嘲笑の中で、イザベラはただ微笑んでいた。
その瞳の奥で、何かが静かに目覚めたことを、誰も気づかないまま。
翌朝、追放の命が下る。
砂埃舞う道を進みながら、彼女は古びた巻物の一節を指でなぞる。
――“真実を映す者、偽りを滅ぼす”
彼女は祈る。けれど、その祈りはもう神へのものではなかった。
地味令嬢と呼ばれた女が、国そのものに裁きを下す最初の一歩を踏み出す。
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる