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㊸甘くて冷たい豆乳粥-6-
しおりを挟む「大豆、米、砂糖を買ったのはいいけど、これで何を作るつもりなの?」
次の日の朝
市場で買い物をした紗雪とレイモンド、養父のアルバートは宿屋ではなく船の厨房に居た。三人が厨房に居る理由は、ダークエルフの長に出すバニラを使ったデザートを作る為だ。
「紗雪。今から甘くて冷たい粥を二種類作るから、豆乳の作り方が書いている本とバニラビーンズを買ってくれないか?」
「え?二種類の冷たい粥?」
「炊いた米から煮込んだ粥と、生米から煮込んだ粥だ」
冷たい粥とバニラビーンズがどう結びつくのか分からないが、レイモンドに考えがあっての事だろう。
紗雪はネットショップで本とバニラビーンズを購入した。
「まずは豆乳を作らないといけないのだが・・・」
「レイモンド。豆乳だけど、まずは流水で洗った大豆を一晩・・・冬だったら十五~六時間だけどプルメリア島は常夏だから十時間くらいになるのかな?水に浸けないといけないのですって」
それから水に浸けて膨れた大豆をミキサーで攪拌。それを煮込むのだと、本に目を通した紗雪がレイモンドに教える。
今回は牛乳と山羊乳が使えないから、大豆から乳を作るしかないのだ。
「大豆から乳を作るって随分と手間がかかるのだな・・・」
牛や山羊から搾った乳しか知らなかったアルバートは感心の色を含んだ声を上げて驚く。
(手作りの豆乳ってどんな味がするのかしら?)
紗雪は豆乳を飲んだ事があるが、スーパーで購入したものであって自分で大豆から作った形ではない。
レイモンドは紗雪が持っている本に書かれている通りに流水で洗った大豆を水に浸ける。
「夕方まで時間があるな。サユキ、その間にキルシュブリューテ王国でのマナー違反を教えたいのだが」
アルバートが言っているマナー違反とは、貴族社会におけるものである。
「紗雪にとっての常識が・・・いや、キルシュブリューテ王国の平民にとっての常識が貴族社会では非常識と映る事があるんだ」
紗雪は平民として生きて行く事が決まっているが、今の彼女は貴族令嬢だ。
一国の王であるディートヘルムと謁見したように、他家の貴族令嬢と顔を合わせる機会があるのかも知れない。
(恥をかきたくないものね・・・)
商業ギルドで会ったマスミは、公爵夫人であるにも関わらず貴族としての在り方と考えが身に付いていないというのが紗雪の第一印象だった。
日本で女子高生をしていた頃、王国の平民であれば問題ないと思うし、状況を見てマスミは公爵夫人として振る舞っているのだろう。
だが、マスミの中に女子高生だった頃の考えがある限り、何らかの形でそれが出てきてしまう事がある。
結果、自分だけではなく家の、ひいては国の名誉を傷つけてしまうのだ。
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