カフェ・ユグドラシル

白雪の雫

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56.お子様ランチ-11-

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 殻と背ワタを取り除いた海老に塩、ジャガイモで作った片栗粉を塗して軽く揉んだ後、レイモンドはそれを水で洗っていた。

 これは海老の汚れと臭さを取り除く為だ。

 水で洗った海老の水気を取った後、油で揚げた時に海老が丸くならないようにする為に腹部に切り込みを入れる。

 海老に塩と胡椒を振って置いている間に、エビフライの為に卵を溶いたり、冷蔵ボックスから取り出したハンバーグのタネの形を整えて焼いたり、小さく切って火を通した鶏肉と玉ねぎが入っているフライパンにご飯とトマトケチャップを加えてチキンライスを作ったりと忙しなく動いていた。

 塩を振った事で余分な水分と臭みが取り除けた海老に薄く小麦粉を塗し、卵液、パン粉を塗すと熱した油が入っているフライパンで揚げていく。

 「紗雪、お子様ランチとキャベツとベーコンのクリームパスタが出来たから持って行ってくれ」

 「はい」

 レイモンドから料理が出来た事を聞いた紗雪は、テーブルに座っているルーク一家の元へと運ぶ。

 「お待たせしました。お子様ランチとキャベツとベーコンのクリームパスタです」

 紗雪が注文した料理をテーブルの上に並べていく。

 「これが・・・」

 「これが本当のお子様ランチだったのね・・・」

 大きな海老、茶色いソースがかかったハンバーグ、オレンジ色のチキンライス、鮮やかな緑と赤が瑞々しいサラダ、あの時飲んだ甘くて塩気が感じたコーンポタージュスープ、舌の上で溶けるくらいに柔らかくて甘い香りがするプリン───。

 幼い頃から憧れていた料理にルークとトレーシーは感動の声を上げる。

 食事前の祈りを捧げたルーク一家は、自分達が注文した料理を口に運んでいった。

 「お、美味しい~」

 揚げ立ての海老はプリッとしていて、下味の塩と胡椒がいいアクセントとなって口の中で後を引いているからなのか食が進む。

 添えているレモンを絞って出てきた果汁をエビフライにかけると、油っぽさが消えてさっぱりとして食べ易くなる。

 「これがチキンライスって奴か」

 「何か可愛い盛り付けだね」

 お子様ランチとは読んで字のごとく子供向けの料理で、小さな子供が目で見て楽しめるように盛り付けているし、大人向けの料理と違って量が少ない。

 子供向けの料理を本来であればルーク達は頼めないし、大人になった今では物足りないと感じる。そして、彼等の注文を聞いたママさんも『大人は注文できない料理』として断る事が出来たはずだ。

 「あ、ありがとう。兄ちゃん・・・」

 二十二年前、バロニス村からやって来た自分達親子の為に賄いを作ってくれた時に交わした約束を覚えてくれていた事が嬉しいのか、ルークの瞳からは涙が溢れてくる。

 「パパ、どうしたの?どこか痛いの?」

 「・・・・・・痛くないよ。お子様ランチが美味しいから・・・パパは感動して泣いているんだよ」

 「美味しいものを食べているのに泣いているパパって変なの」

 ルークの言葉の意味が理解出来ない娘のエレノアは、只々不思議そうに父の顔を見つめている。

 「エレノア・・・お前にも分かる日が来るよ」

 今は分からなくてもいいと、娘の頭を撫でながらルークは肉のコクと野菜の旨味が溶け込んでいるデミグラスソースがかかっているハンバーグを食べ進めていく。

 (兄ちゃん・・・。お子様ランチ、とても美味しかったです・・・)

 「ママさん、兄ちゃん・・・ではなく料理長?店長?お子様ランチを作ってくれた料理人と話がしたいのですが・・・」

 二十二年前に食べる事が出来なかったお子様ランチを食べ終えたルークは、別のテーブルで注文を聞いていた紗雪にレイモンドを呼んで欲しいと頼む。

 「はい。少々お待ち下さい」

 霊視でルークが何を言いたいのかを知った紗雪はレイモンドを呼びに厨房へと向かった。

 「お待たせしました」

 暫くすると、ルーク達が座るテーブルにレイモンドがやって来た。

 (に、兄ちゃん・・・?何て言うか・・・若い!)

 初めて会った時のレイモンドが何歳なのか分からないが、あの時から二十二年経っているのだから少なく見積もっても四十代半ばから五十に近い年齢であるはずだ。

 どう見ても三十代としか思えないレイモンドの姿にルークは少しの間、二の句が継げないでいたが何とか我を取り戻す。

 「に、兄ちゃん!・・・あの時の約束通り、お子様ランチを食べに来ました!」

 頭を下げて礼を告げたルークは、レイモンドにキャベツとベーコンのクリームパスタと娘が食べたお子様ランチの代金を払ってから三十ブロンズが入っている革袋を渡す。

 「兄ちゃんが作ったお子様ランチ・・・とても美味しかったです!!」

 だから、その・・・また、兄ちゃんが作った料理を食べに来てもいいですか?

 「勿論です。またのお越しをお待ちしております」











※レイモンドが実年齢より若く見えるのは、紗雪の血を舐め取ったからです。天女の血が肉体の老いを遅くしているといった感じですかね。あと、紗雪の食事管理もありますし、レイモンド自身も身体を鍛えています。
二人の子供達は己の見聞を広める意味で冒険者になっていますが、時間がある時は店の手伝いをしています。
紗雪の力を受け継いだのはクローヴィスで、人には見えない四大精霊を具現化できるレベル。最強の精霊使いって奴になるのでしょうか。
舞台が日本だったら、紗雪の次にクローヴィスが霊剣・蜉蝣の使い手として妖怪退治をするはずでした。
人間離れしている霊力(紗雪と同等)を見込まれたクローヴィスは四大精霊と契約しています。
三兄妹が使う魔法は陰陽道の理論と組み合わせたもので、フリューリングでは一般的に使われている魔法と比べて威力が高かったりします。
クローヴィスの場合は魔法ではなく陰陽道の理論と精霊の力を組み合わせた精霊魔法って感じかな?
後にレオルナードは父の跡を継いで準男爵にして二代目店長、クローヴィスはシュルツベルクでアジアンテイストと言えばいいのかオリエンタルと言えばいいのか、ロードクロイツとは異なった趣向のカフェ・ユグドラシルをオープンさせ、レスティーナは王都で騎士と結ばれます。








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