カフェ・ユグドラシル

白雪の雫

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74.友、来たる-5-

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 シェリルと共にラヴィアンローズに行ってロザリアと会う事を紗雪から聞いたアルバート、ロスワイゼ、アルベリッヒは驚きで目が点になってしまったが、考えてみたら養女となった女は戦う術を身に付けているだけではなく、何と言っても料理の腕は確かだ。

 どれくらいラヴィアンローズに滞在するのか分からないが、シュルツベルクから片道で二日かかる旅に出ても問題ないだろうと判断したアルバートは、ロザリアの都合を聞いた上であればと前置きをした上で紗雪に許可を出す。

 ロザリアからラヴィアンローズ家訪問の許可を得る事が出来た次の日に紗雪とシェリルを乗せた馬車はラヴィアンローズへに向かって走る。

 道中で紗雪とシェリルを乗せた馬車がオークやコカトリスといった魔物が襲うのだが、二人にとってオークやコカトリスは食べられる魔物、冒険者ギルドに売れば金になるという認識でしかない。

「肉ーーーっ!」

「金ーーーっ!」





『魔物に辱められるくらいなら私は誇り高い死を選ぶ!』

『〇〇様、助けて下さってありがとうございます。お礼と言っては何ですが、是非私達を貴方様の妻にして下さいませ♡』

『妻が無理でしたらハーレムの一員でも構いませんわ♡』





 異世界と言えば、瞳にハートマークを浮かべながら神様から貰ったチートで活躍した異世界人に対する台詞を現地の女性が口にするのが定番だったりするのだが、実戦経験がある(紗雪に至っては転生すらできないように魔物と化した人間を霊剣・蜉蝣で完全消滅させた事もある)二人が口にするはずなどなく、肉と金を合言葉に紗雪とシェリルは自分達が乗っている馬車を襲ってくる魔物を退治していったのだ。

 二人で魔物を狩りつつ馬車を走らせているうちに、遂に目的地であるラヴィアンローズへと到着した。

「ようこそお越し下さいました!」

 紗雪とシェリルを出迎えたのはダミアンの妻であるロザリアだ。

 ラヴィアンローズ家の家令の一人に案内されるまま、二人はロザリアの後に続く。

 三人は客間のソファーに腰を下ろす。

「ロザリア様、お聞きしてもよろしいでしょうか?バーミリオンリリー辺境伯がラヴィアンローズ侯爵夫妻に自分の娘を嫁がせたいと頭を下げたとの事ですが、実際はそうではないですよね?」

「はい。このような事をお話しするのは恥ずかしいのですが・・・。実はラヴィアンローズ家は負債を抱えておりまして、金策と引き換えに私を嫁がせるようにラヴィアンローズ侯爵夫妻が私の父と祖父に頭を下げて頼んだのです」

 先々代のラヴィアンローズ侯爵に恩があった祖父は、孫であるロザリアを夫となったダミアンが誰よりも重んじそして正妻として丁重に扱う事を条件にラヴィアンローズ侯爵夫妻が抱えている負債を一括で払っただけではなく、現在は孫娘の為に金銭面で婚家を援助しているのだ。

「バーミリオンリリー辺境伯は退治した魔物の肉に羽や角、鱗や爪等を武器防具として加工したり、素材として売り捌いたり、魔獣を調教したり、調教した魔獣に車を牽かせたり、魔獣に仕込んだ芸をサーカスで披露する事で金銭を得ているからバーミリオンリリーは栄えている・・・」

 それなのに何故、バーミリオンリリー辺境伯がラヴィアンローズ侯爵夫妻に頭を下げてまでロザリア殿を嫁がせたとダミアンが言ったのだろうか?と疑問を口にしたシェリルに、ラヴィアンローズが持ち直したのは自分達の力なのだと侯爵夫妻が見栄を張っており、それを息子のダミアンが真に受けているのだろうと紗雪が話す。

「それに・・・ロザリア様はラヴィアンローズ家の当主夫妻と夫君のみならず夫君が囲っている二人の情婦、そして使用人達から軽く見られています」

 その証拠がロザリアと客人である自分達に対してラヴィアンローズ家の使用人がお茶の一つも振る舞っていない事を紗雪が指摘する。

「客人に対する振る舞いに関してはどうでもよろしいのですが、まずはロザリア様「次期侯爵である僕ちゃんではなく野蛮な田舎者の元を訪れるとは・・・。これだから田舎者の友人共は礼儀知らずで困る!」

「「本当。次期侯爵であるダミアン様に対して無礼ですわ!!これだから田舎者は!!!」」

 しかも一人は男女ではありませんか!!!

 そんな三人が居る客間に乙女ゲームに出てくる攻略対象者みたいにハイレベルなイケメンの金髪碧眼、これまた乙女ゲームに出てくるヒロインのように庇護欲をそそる小柄で天真爛漫な雰囲気を纏っている可愛らしい顔立ちをしている二人の女がやって来た。

 言うまでもなく男はラヴィアンローズ侯爵の息子であるダミアン、女の方はダミアンの情婦であるユリアナとカトリナである。

(ぼ、僕ちゃんという一人称を使う人って初めて見たわ。それに情婦の二人・・・)

 ダミアンが人前で一人称である『僕ちゃん』を使った事に紗雪は思わず吹き出してしまいそうになってしまったのだが、しかしそこは昔取った杵柄というより篁の血がそうさせたと言えばいいのだろうか。

(成る程・・・。僕ちゃんは情婦の二人が懐妊している事をロザリア様に告げに来たのね)

 古の頃は帝や貴族の行動を占いで決めさせていたフィクサー、それこそ精神的支配者だったと言ってもいい陰陽師の血を引いている紗雪は表情を変える事なく冷静に三人を霊視する。

(でもお腹の子供の父親は・・・。僕ちゃんは自分の両親に情婦達が懐妊した事を伝えていないのね)

「喜べ田舎者!僕ちゃんが唯一愛するユリアナとカトリナが懐妊した!田舎者の癖に金だけはあるから産まれてくる僕ちゃんの子供達を育てる為の金を出させてやる!!!」

(えっ?ラヴィアンローズ家の負債のみならず使用人達の給料もバーミリオンリリー家が出しているのよ?それなのに孫でもない子供の出産と子育ての為の費用をバーミリオンリリー家に出させる?僕ちゃんは何馬鹿な事を言っているのかしら?)

「それはおめでとうございます。それでしたらダミアン様は愛する二人の女性と産まれてくる子供達の為に一刻も早くロザリア様と離縁するべきですわ」

 紗雪としては色々とツッコミを入れたいところだったが、名前だけとはいえロザリアを托卵で産まれてくる子供達の母親にしたくないという思いでダミアンに離縁を勧める。

「ダミアン様は名目上とはいえ、ご自分が【田舎者】と蔑んでいる御方を産まれてくる子供達の母親にしてもよろしいのですか?」

 それって偉大なご先祖様が築き上げてきた名門ラヴィアンローズ家の名を穢してしまう行為に繋がりませんこと?

 情婦とはいえ男爵家の令嬢を母とした方が御子達の名誉にもよろしいかと存じますわ

「サユキ殿!?」

「シェリル!」

 紗雪に何か言おうとするシェリルをロザリアが視線で制す。

(・・・っ!)

「ダミアン様、今はユリアナ様とカトリナ様にとって一番大事な時期。ちょっとしたショックで子供が流れてしまう事もありますので安定期、いえ、御子様方が無事にお生まれになるまでお二人が懐妊した事を誰にも告げない方がよろしいですわ」

「そ、そうなのか?」

 嘘と真実を交えつつ、紗雪はダミアンに妊娠初期は何をすればいいか?を教えたり、離縁についての申請書類はこっちの方で用意する事を伝えるとシェリルとロザリアを伴って屋敷を出て行くのだった。











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