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閑話9.リュミエル-4-
しおりを挟む(やはりマリグリッド様に似た娘は居なかったか・・・)
夕食時
従僕に案内されるまま食堂に向かっているリュミエルは無言を貫いているが、心の中では愚痴を零していた。
平民にマリグリットを思わせる娘が居るかも知れないと期待していたリュミエルは昼時の平民街を歩き回ったのだが───想い人に似ている娘が見つからなかったのでリュミエルは公爵家に戻ってから不機嫌だったのだ。
「婿殿」
次期公爵の婿がそんな事を思っているなど露ほどにも思っていない従僕はリュミエルを席に案内すると椅子を引いた。
リュミエルが席に着いたからといってすぐに料理が運ばれてくる訳ではない。
ホワイトオーキッド公爵夫妻が食堂に到着し、二人が席に着いてから給仕達が料理を運んでくるのだ。
(私は王子なのだぞ!!)
シルヴィアとの初夜を終えた次の日の朝
王子である自分が席に着いた地点で料理を運んでこないホワイトオーキッド公爵家に仕える給仕達にリュミエルはその事を伝えたのだが、彼等の答えは一貫していた。
『私が席に着いたのだ。早く朝食を運んで来るが良い』
『当主と奥方様が席に着かぬと料理を用意せぬのが当家の決まりでございます』
『王宮のみならず他の貴族家でもそのような仕来たりとなっております』
『もしかして王宮ではリュミエル殿が望めば好きな時に食事が用意されていたのですか?』
『王家が食事の決まりを無視するとは・・・信じられませぬな』
と、どこか人を馬鹿にしたような態度でリュミエルにホワイトオーキッド公爵家の仕来たりを伝えたのだ。
尚、家長とその妻が揃ってから料理が運ばれてくるのはホワイトオーキッド公爵家だけではなく、貴族家であれば当然の事であったりする。
(私が公爵となった暁にはお前達をクビにしてやる!!!)
王子でありながら公爵家の令嬢の婿になるしかなかった自分を馬鹿にされたと感じたリュミエルが、従僕に対して鬱屈した思いを抱えつつ心の中で復讐を誓っている最中、公爵夫妻が食堂の中央にあるテーブルまで歩いてきた。
二人が席に着いたのを見届けた給仕達がパンを盛り付けている籠、前菜であるハムと野菜のマリネ、スープ、メインディッシュの肉料理置いていく。
食事前の祈りを捧げた後、公爵一家は夕食に手を付け始める。
リュミエルは籠に盛り付けてあるパンを手にして食べやすい大きさに千切ると口に放り込んだ。
(んっ?パンが柔らかい・・・ような?)
自分が子供の頃から、そして公爵家の婿になってから食べているパンが柔らかい事に気が付いたリュミエルが首を傾げる。
「お父様?私の勘違いなのかも知れないのですが…夕食のパンは製パン用の小麦粉の甘味も感じますし、バターやジャムを塗って食べられるくらいに柔らかいですわ」
外側の生地はパリッとしているのに、中は絹のようにしっとりとして、雲のようにという表現が相応しいと思ってしまうふわっとした食感だ。
「そうだな・・・」
(他国の者からパン作りの技術を教わった、のか?)
スープに浸さないと食べられないレベルではないものの───平民が口にするパンと比べたら柔らかい。
それでも噛み応えがあるパンが、そのままでも食べられるという娘の言葉に疑問を抱いたホワイトオーキッド公爵ことアシュレイは給仕の一人に尋ねる。
「それは酵母とやらのおかげですわ」
パンを作る時に欠かせない酵母のレシピを商業ギルドから買ったのだと、公爵夫人ことシャノンがアシュレイの問いに答える。
「義父上、酵母のレシピを考案した者を我が公爵家の料理人として雇う事にしましょう!」
宗主国であるインペラトーレ帝国の料理の見た目は華やかで豪勢だがデザート類は甘過ぎるし、メインディッシュは裕福である事を証明するかのように香辛料を大量に使っているので味覚が麻痺してしまうレベルだ。
だが酵母を作った者を雇えば、ホワイトオーキッド公爵家の料理のレベルは遥かに飛躍するだろう。
『ホワイトオーキッド公爵家の料理は他の追随を許さぬレベルで、ロータスサファイア王国一である』
そのような噂が広まればインペラトーレ帝国の皇帝はホワイトオーキッド公爵家に興味を持つはずだ。
(そしてホワイトオーキッド公爵家の料理を振舞えば、皇帝の胃袋を掴めば、皇女を私の元に降嫁させようとするはず・・・)
皇女を妃に迎えるとなればシルヴィアとの離縁は避けられない。
幸いと言えばいいのかどうか分からないが、リュミエルはシルヴィアを嫌っているので彼女との離縁については問題ない。
マリグリッドに瓜二つな二人の妾をどうするか?
(皇女が『子供を産めば体型が崩れるから産みたくない』というタイプであれば、マリグリッド様に瓜二つの少女を妾として別邸に囲えるのだが・・・)
こればかりは皇女がそのような性格をしている女性である事を神に祈るしかない。
「婿殿、ホワイトオーキッド公爵家の家政はシャノンが仕切っている。故に婿殿が我が家の人事について口を挟むのを控えて貰おう」
何か苛立つ事があったのだろうか。
(・・・・・・・・・・・・)
(・・・・・・・・・・・・)
(・・・・・・・・・・・・)
アシュレイのみならずシャノンとシルヴィアが顔を顰めながら料理を口に運んでいる姿を訝しく思いながらも、リュミエルもまた味覚が麻痺するレベルで香辛料を使っている料理を口に運ぶのだった。
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