461 / 465
閑話9.リュミエル-5-
しおりを挟む「お父様、あの男は勘違いしておりますわ」
「シルヴィアの言う通り、あの男は我が家を、シルヴィアを見下しております!」
ホワイトオーキッド公爵家の居間ではアシュレイとシャノン、二人の娘であるシルヴィアが顔を合わせて何やら話し合っていた。
本来であればホワイトオーキッド公爵家の跡継ぎとして育つはずだった長男のヴァルター。
そのヴァルターをクラリッサの婿として差し出さなければならなくなったのも、自国か他国の王族か高位貴族に嫁がせるはずだったシルヴィアがホワイトオーキッド公爵家の跡取りになってしまったのも、全ては愛妾を母とするリュミエルだけの為だという事実に四人は王家の傍若無人な振る舞いに腸が煮えくり返っていたのだ。
ヴァルターが王女の婿になったのも、シルヴィアが次期公爵になったのも、我が子可愛さによる王命なのだから余計に性質が悪い。
「あの男・・・何を考えているのでしょうね?」
同性であるアシュレイであればリュミエルの考えが分かるのではないのか?
そう思ったシルヴィアは父に対して疑問をぶつける。
「恐らくだが・・・我が家の乗っ取りであろうな」
「爵位も何の肩書を持たぬ、しかも入り婿。入り婿は一家の当主になれないのに、ですか・・・?」
「まさかとは思いますが・・・あなたはあの男の思惑通りにホワイトオーキッド公爵家を明け渡すつもりではないでしょうね!?」
「お父様!?」
夕食時にリュミエルが発した『我が公爵家』に対して何も反論しなかった事に対して、ホワイトオーキッド公爵家を乗っ取ろうとしているのに何一つ手を打っていないアシュレイにシャノンとシルヴィアが怒りを向けた。
「まさか!」
先祖から受け継いだホワイトオーキッド公爵家を赤の他人に渡すつもりなどないアシュレイは、実はリュミエルを婿に迎えて───否、王命でシルヴィアの婿として迎え入れるように命じられてから今日まで当家直属の密偵を使って動向を見張っているのだと、怒り狂っている妻と娘に打ち明ける。
「密偵の報告によると、どうやらあの男はマリグリッド様に想いを寄せているらしい。だがマリグリッド様は父王の側室という立場にある」
「父王の側室に想いを寄せているとは・・・」
「怖いもの知らずと言いますか・・・。ですがマリグリッド様はあの男の生母である愛妾に顔立ちだけではなく雰囲気と立ち居振る舞い・・・何もかもが瓜二つですわね」
シャノンとシルヴィアは、儚い雰囲気を持つ玲瓏なマリグリッドの姿を思い浮かべる。
「そもそもマリグリッド様には確か許婚がおられたはず・・・」
「十二年前、あの男の母親である愛妾に瓜二つという噂を聞き付けた陛下が、無理やりお二人を王命で引き離した上でマリグリッド様を側室として迎え入れたのだ・・・」
「マリグリッド様と愛妾が双子と言ってもいいくらいに似ているからでしょうか?あの男とマリグリッド様はまるで親子のように見えますわね」
「お母様。マリグリッド様とあの男は十くらい年齢が離れているのではなかったでしょうか?」
シルヴィアの言う通り、二人の年の差は十しか離れていない。だから親子より姉と弟という表現がしっくりくるのかも知れない。
「そうだ。あの男とマリグリッド様は十しか離れていない。しかもマリグリッド様は陛下と居る時よりも、あの男と共に居る時の方の笑みの種類が異なるらしい・・・」
後宮に住むマリグリッドの侍女として放っているホワイトオーキッド公爵家の密偵の一人の話によると、マリグリッドを見ている時のリュミエルの瞳には熱が籠っている、らしい。
その熱は母を求める子供のものではなく一人の男としての情愛のものであり、マリグリッドの方もリュミエルに対して満更ではないとの事だ。
「それってつまり・・・」
リュミエルはマリグリッドと一線を越えようとしている?
シャノンとシルヴィアは余りの気持ち悪さに思わず身体を震わせる。
「あの男がマリグリッド様に想いをぶつけるのも、マリグリッド様があの男の想いに応えるのも時間の問題かも知れぬな・・・」
しかも厄介な事にリュミエルはマリグリッドにそっくりな女性を妾として迎えるべく、伯爵家から男爵家のみならず平民にまで目を向けて捜しているのだと、恐怖で体を震わせている妻子に更なる事実を話す。
「お父様。陛下はこの事をご存じなのでしょうか?」
「さぁ?何故、我等が陛下に教えなければならぬのだ?」
我が子可愛さに目が眩んでいる愚王に教える義理も義務もないのだと、アシュレイは切り捨てる。
「シャノン、シルヴィア。どうやら我等がロータスサファイア王国を捨てる日も近いようだ・・・」
「「!!」」
アシュレイの一言にシャノンとシルヴィアは緊張した面持ちで居住まいを正す。
──・・・
──・・・
公爵の言葉に覚悟を決めた二人は頷く。
2
あなたにおすすめの小説
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
本物の聖女なら本気出してみろと言われたので本気出したら国が滅びました(笑
リオール
恋愛
タイトルが完全なネタバレ(苦笑
勢いで書きました。
何でも許せるかた向け。
ギャグテイストで始まりシリアスに終わります。
恋愛の甘さは皆無です。
全7話。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
好感度0になるまで終われません。
チョコパイ
恋愛
土屋千鶴子(享年98歳)
子供や孫、ひ孫に囲まれての大往生。
愛され続けて4度目の転生。
そろそろ……愛されるのに疲れたのですが…
登場人物の好感度0にならない限り終わらない溺愛の日々。
5度目の転生先は娘が遊んでいた乙女ゲームの世界。
いつもと違う展開に今度こそ永久の眠りにつける。
そう信じ、好きなことを、好きなようにやりたい放題…
自覚なし愛され公女と執着一途皇太子のすれ違いラブロマンス。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
世界の現実は、理不尽で残酷だ――平等など存在しない
鷹 綾
恋愛
「学園内は、身分に関係なく平等であるべきです」
その“正義”が、王国を崩しかけた。
王太子ルイスは、貴族学院で平民出身の聖女マリアがいじめられたと信じ、
婚約者である公爵令嬢アリエノール・ダキテーヌを断罪し、婚約破棄を宣言する。
だが――
たとえそれが事実であったとしても、
それは婚約破棄の正当な理由にはならなかった。
貴族社会において、婚約とは恋愛ではない。
それは契約であり、権力であり、国家の均衡そのものだ。
「世界は、残酷で不平等なのです」
その現実を理解しないまま振るわれた“善意の正義”は、
王太子の廃嫡、聖女の幽閉、王家と公爵家の決定的な断絶を招く。
婚約破棄は恋愛劇では終わらない。
それは、国家が牙を剥く瞬間だ。
本作は、
「いじめられたという事実があっても、それは免罪符にはならない」
「平等を信じた者が、最も残酷な結末に辿り着く」
そんな現実を、徹底して描く。
――これは、ざまぁではない。
誰も救われない、残酷な現実の物語である。
※本作は中世ヨーロッパをモデルにしたフィクションです。
学園制度・男女共学などは史実とは異なりますが、
権力構造と政治的判断の冷酷さを重視して描いています。
---
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる