元英雄、無職に堕ちて騎士に成る

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1章 波乱の五日間

8話 新しい仲間

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無事ではないが夜が明けて、街が騒がしくなり、目が覚めた。
昨日は結局、窓の割れた部屋で寝た。
とりあえず屋根があるだけマシだった、そう自分に言い聞かせながら着替えを済ませる。
「よし、行くか。」
俺は待っているであろう護衛の元へ向かった。

門の前に着くとそこにはすでに待っていた。
近くまで来てわかったが、2人はよく似ていて、見た目は15歳にも満たない・・・
「え、アマトとミタマか!」
「遅かったね。大人なのに。」
「大人だから遅いんだよ。」
昨日会った時とは違い、ミタマは可愛らしい服を着ていて女の子と一目で分かった。
アマトも街にいる少年と変わらない。
服装でこんなにも変わるのかと驚きつつ、2人に疑問をぶつける。
「えっと、2人はなんでここに。」
「カインは今、困ってるって聞いた。」
「護衛が欲しいって聞いた。だから来た。」
にこやかに答える2人を見ていると、少し心が痛む。
「あ、そういえばロイルさんが呼んでた。」
「できるだけ早く来て欲しいって。」
もう少しゆっくりしていたかったがそうもいかないらしい。
「分かった。街で遊んでてもいいけど、どうする?」
「「連いていく。」」
2人の即答に笑いつつ、俺は駆け足で城の中へ向かった。

城に入ると昨日と同じくロイルさんが出迎えてくれた。
昨日と違うのは後ろに10人の騎士を連れているところだ。
「お待ちしていました。陛下がお呼びです。」
ロイルさんはそう言うと騎士たちに合図を送り、俺たちを囲む。
「ではついてきてください。」
何をされるか不安だが、周りの騎士から殺意などは感じない。
感じるのは連れてきた2人のとてつもない警戒心だ。
「2人とも大丈夫だ。誰も襲うつもりはない。」
「・・・分かった。」
「カインが言うなら。」
そう言いつつも2人の警戒心が収まることはなく、謁見の間まで来てしまった。
そんな2人を見てもロイルさんは何も気にする様子もなく、
「あのあたりまで進んでください。」
とそのまま入ることになった。
中に入ると、奥の玉座にリタリー陛下、その右には護衛騎士と思われる美女、左には文官らしき男が立っている。
どちらもかなり若く見える。
俺はロイルさんが指定したところまで進むとすぐに跪いた。
後ろにいた2人もサッとしゃがんだ。跪いてくれ。
陛下が口を開く。
「そう畏まらないでくれ。そうだな、まずはこの2人を紹介だな。」
そういうと、陛下は騎士の方に顔を向ける。
「この者はラオン。我が護衛騎士団の団長にして、この国一の剣士だ。」
紹介されたラオンさんが軽く会釈した。強くて綺麗って最強だと思う。
次に文官を見る。
「こちらはメデン。戦後、とある戦地の復興を成し遂げた元地方役人だ。何かあったら頼るといい。」
ここまで話すとメデンさんはそっと俺に近づき、一枚の紙を渡してくる。
「君は昨日の様子を見てわかっているだろうが私はツルに冷たく接している。だがそれは、ツルのことが嫌いだからではない。ツルを新しい王になると警戒している家族たちから守るためだ。」
陛下がため息をつく。
「私は家族を失いたくも罰したくもない。君が護衛を完璧にこなせば、少なくとも犯人に余地を与えられる。これは私のわがままだ。どうかこのわがままを叶えてほしい。」
そしてそのまま陛下は王座から降りると、頭を下げた。
「な、頭を上げてください!」
「陛下、何をしているんですか!」
「おやめください!」
そんな様子を見た俺たちは慌てて止めに入る。しかし、
「私は父として頼んでいる。お願いだ。」
こんなにお願いされては断れない。
「わかりました。なので早く顔をあげてください。」
「礼を言う。ただ何か優遇することはできない。申し訳ない。」
「いえ、雇っていただいているだけで私は幸せです。陛下がお気になさることではありません。」
そういうと陛下は少し困ったように笑い、王座に戻った。
「先ほど渡した紙は容疑者リストです。近づく際はお気をつけください。」
「わかりました。メデンさん。」
「もっと気楽に話してください。呼び捨てで構いません。」
「私も呼び捨てで構わない。何かあったら頼ってくれ。そのために紹介されたのだからな。」
「わかった。ラオン、メデンありがとう。」
将来有望な2人に応援されて、俺たちは謁見の間を退出した。

俺たちは謁見の間を出た後、そのまま城を出た。
「ねぇ、ツル様に挨拶しなくていいの。」
「もしかしてカイン、信用ないの。」
「違う。次会うのは仲間が集まってからなのさ。だから今日は2人のしたいことをやろう。」
俺の言葉に2人の目が輝く。
「私、ぱんけーきっていうの食べたい!」
「僕ははんばーぐ食べたい!」
「お腹減ってたのか。よし、行くか。」

この日は一日中3人で遊びまわった。
日が暮れるまで遊んだ後、宿に帰ると2人はすぐに寝てしまった。
俺も疲れていたのでバドルの約束を忘れ、寝た。
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