29 / 44
第29話 足元見ながら地下に降りよう。(こっち見んな。
「ん? そなたらは護衛で来たことがあるのだろう?」
キュロスが首をかしげる。私もひっそりと荷物の上でかしげる。
「いえ、我々は神殿の、先ほどの門のところまでしか……」
隊長が言う。神殿の中に入ったことはない。特に彼は亡き王たちの時代からお供をしているが、その頃も神殿の中には入れなかった。
地下神殿だとは知っていたらしいけど。まぁ、建物みたら解るか。
「神殿には王家と、森の守人たちしか入れぬしきたりと……」
神殿だものね。
神様のお社には神主さんだけが入れる場所もありますわな。
エリナさんはそれに微笑みを浮かべて、首を横に。
「いいのです。もう、今回が最後でしょうから、皆さんに最後まで共をしていただきたいわ」
「しかし、最後だからこそ、心置きなくなさりたいのでは……?」
キュロスもそれなりに気をつかっているのか。わざわざ追放地から冒険者を雇って来るほど、大事な思い出なのでは、と……。
けれどそれに再び、エリナさんは首を横に。
「いいえ、だからこそ……それに、ひとりでは、少し怖くて……」
神殿は地下だし、年々手入れされなくて傷んできているし。
そう言われて、隊長たちはなんだか少しほっとしている。
昨今はエリナさんしか入れなくて、外で待つ間は不安だったそうだ。
王族とはいえ、女の子ひとりでこのような地下に潜らせるのは、警護としてもあるけど、人間の良心が不安だったろうな。
そういうことなら皆で行こうとなった。
でも三人ほど、何かあった時のためにお外に残るよう指示した隊長。私もその方が良いと思う。口には出さないけど。
地震大国の日本育ちな感覚残っているからね。地下に何かあったときに外に連絡できるってかなり大きい。
そんなこんなで、地下に降りた。
階段が明るいおかげでそれほど怖くなくてほっとしつつ。
実はホラーゲームとかは苦手なんだよね。
エリナさんが先導し、ロザリーさんがその後ろに続く。そのまた後ろを兵士たちとキュロスが進む。
うん、やっぱりたまーに「何だろう? あれ……」な視線を感じる。
私に。
荷物の上にいるから、ロザリーさんが先に行くとどうしても視線に入るもんな。
こっち見なくていいんやで。足元見ろよぅ。
そんなこんなオーラが私から出ていたのか、誰にも尋ねられることなく、階段も終わった。
そんなに長い階段でもなかったのもある。
建物の三階もないくらいかしら。
振り返れば兵士たちの向こうに、明るい出口も見えてほっとする。
「着きました」
たどり着いた階段の下にもまた扉があり、エリナさんが手を触れるとまた指輪が光って、ゆっくりと開いていった。
空気が吸い込まれるような感覚に、一年ぶりの換気なのだと感じた。
「……おお」
誰かが声をだした。
扉の中は広い。
壁にまた巨木の根が張りだしていたけど、むしろ根が壁だ。
根の……。
ふと、日本の物語の、根の国なんて言葉を思い出しちゃう。
いや、色々諸説あって、単純に地下にあるとはいえないし、入り口も海にあるとかなお話もあるし。
……今の状況じゃ連想しない方が良いな。
そう思うのも、地下にあったのは神殿とかにあるような、神様を象ったものが何もなかったから。
奥に祭壇と、床に不思議な紋様が彫られているくらい。
あ、床は石造りだ。なるほど、根っこ防止かな?
石のおかげで紋様がずれることがないようにしてあるのか。
だけど入ったら怖いと感じたのを申し訳なく思った。
一年ぶりに解錠されたとは思えないきれいな空気。淀んだ気配や、埃っぽくもない。
何より、地下だというのに暗くないんた。
壁の灯りも根っこ越しでも不思議と明るい。
代々、大切にされたのも納得。
森の最奥の聖域――てところだろうか。
「ここが神殿ですか?」
私と同じような気持ちなのか、ロザリーさんが聞いてくれた。
「はい。何もなくてびっくりされたでしょう?」
エリナさんの表情は苦笑気味。
キュロスや兵士たちも、何もなかったことに「なぁんだ」て空気を出している。拍子抜けというか、緊張がほぐれたというか。
これが王家が大事にしていた森の神殿だとは、と。
金銀財宝とか、そういうのがあるのかと、ちょっと期待した罰当たり顔しているのもいるね。むしろ何もなくて良かったですな。
「しかし、本当に何もないのですな……」
キュロスもエリナさんの言葉に頷いた。
それにエリナさんはますます苦笑する。
「あら、貴方がそんなことをいうなんて。我が国の成り立ちを学んでいるでしょう」
「は? いえ、我が国は……あ」
キュロスは言われた言葉にハッとした。兵士たちの中にもそんな顔をしたものも。
「この国の始まりは、森」
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する
namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。
転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。
しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。
凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。
詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。
それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。
「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」
前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。
痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。
そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。
これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。
断罪現場に遭遇したので悪役令嬢を擁護してみました
ララ
恋愛
3話完結です。
大好きなゲーム世界のモブですらない人に転生した主人公。
それでも直接この目でゲームの世界を見たくてゲームの舞台に留学する。
そこで見たのはまさにゲームの世界。
主人公も攻略対象も悪役令嬢も揃っている。
そしてゲームは終盤へ。
最後のイベントといえば断罪。
悪役令嬢が断罪されてハッピーエンド。
でもおかしいじゃない?
このゲームは悪役令嬢が大したこともしていないのに断罪されてしまう。
ゲームとしてなら多少無理のある設定でも楽しめたけど現実でもこうなるとねぇ。
納得いかない。
それなら私が悪役令嬢を擁護してもいいかしら?
《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?
桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。
だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。
「もう!どうしてなのよ!!」
クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!?
天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?
転生後はゆっくりと
衣更月
ファンタジー
貧しい集落で生まれたリリは、生まれた瞬間から前世の記憶があった。
日本人特有の”配慮”に徹した赤ん坊を演じていたことで、両親から距離を置かれた挙句、村人からも「不気味な子」として敬遠されることに…。
そして、5才の誕生日に遠くの町に捨てられた。
でも、リリは悲観しない。
前世の知識チートは出来ないけど、大人メンタルで堅実に。
目指すは憧れのスローライフが出来るほど、ほどほどの守銭奴としてリリは異世界人として順応していく。
全25話(予定)