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しおりを挟むそもそも、である。
「ハロルド、貴方にまだ婚約者はいないわ」
「……え?」
「マリアローズ嬢にも、失礼よ……」
フェリシアは美しい金髪をお疲れ気味にかきあげた。
ちなみにフェリシアもマリアの顧客であり。
次期女王として施術を受けて、日々その美を高め維持している。
そう。
ハロルドの発言の許しがたきこと。
一つはクリストバル公爵家のマリアローズを婚約者と誤解していたこと。
そして。
己を王太子と。
「王太子はわたくしよ?」
そう。王太子はこのフェリシア王女なのだ。
「え? だ、だって、王子は私で……私しか王子はいないじゃないですか?」
現在、王家に子供は二人。フェリシアとハロルドだ。確かに王子は彼しかいない。が。
「この国は別に、男しか王位につけないわけではないわ」
そもそも今現在も、女王陛下の御代であるのだから。
女王陛下には男子のご兄弟はおられず、降嫁された妹御だけ。だから王位につかれたのだと、そう誤解しているものも多い。息子も思っていた。
「確かに男が優先されるけれど……」
女では出産など、もろもろリスクもあろうから。
だがそれを抜きにしても。
「だって貴方、試験で何位?」
ハロルドの名前は、この貼り出された中には――無い。
「そもそも、王太子としての仕事をしたことがあって?」
「……え?」
彼女は察した。
弟はやはり駄目だ。彼は疑問に、すら――王子として与えられた業務量を、王太子としてのと勘違いしているようでは。
「貴方、すでに何年も前から王位レースから外されていたのよ?」
そう。女王陛下もまた優秀だったからだ。
フェリシアは王位につくべきと、すでに周囲からも支持を受けていた。
降嫁された妹御の息子なども王位継承権はあるが、彼らにしても従姉妹の優秀さに脱帽し、今やその配下となる道を選んでいる。水面下では王配レースが始まっていたりもするのは、また、別の話。
「王位、レースなんて……いつから……」
そんなのが始まっていたなんてしらないとハロルドが青い顔で首を横に。
だからお前は駄目なのよと、フェリシア王女もまた、首を横に。ため息とともに。
「そんなの、産まれたときから。這って歩き始めたときからに決まっているじゃない」
この世に産まれたときから――母の胎内から、それはすでに始まっていたのだ。
「そ、そんなの、そんなの知らない……」
「知らないではすまされない。それがわたくしたち……王族よ?」
己で気付け! 悟れ!
たとえ王太子としての教育係がついていなくとも。ちゃんとした教師はいたし、学園にも通っているのだから。
母である女王の背を見るのが子の役目。見て、学ぶことが。
構ってもらうことを雛鳥のように口を開けて待つのは、違う。平民の、ただの貴族ならば許されるかもだが――駄目なのだ。
己たちは王族だから。
それに彼は別段、王子として放置されていたわけではない。放置されたなどと戯けた甘えをいうつもりなら、フェリシアはこの場で弟を完全に見限っていた。
何度も、噛み締める。己たちは王族だ。
そのために人々により贅を与えられる、役目。食事や衣服、暮らしに贅沢を許されているのは、それに溺れることなく国を治めることも、また役目。金を使うことは経済や流行をまわす役目でもあるが。
贅とは――贄でもある。
その背に――いや、この首に何千何万もの人間の命がかかっている。
いざ何かしらあれば、この首一つ引き換えに、この国のすべての命を護るべき覚悟を。
それが出来ているから――フェリシアが、王太子なのだ。
次の女王なのだ。
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