「これは私ですが、そちらは私ではありません」

イチイ アキラ

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「それで? 何故貴方たちは……その、勘違いを?」

 勘違い。
 それはもう、勘違い。

 そうして話はマリアの不正疑惑に。
 元々は、それが発端のようだし。

 マリアにしてみたら――中の薔子にしてみたら――努力とど根性で医学部まで通った人間である。
 今さらの学園と――思わないのがこの中のひとのすごさだ。部門は違えど、また学ぶことに意義を見いだして。
 学業もまた後の糧となると全力であった。
 今生も努力とど根性の人のまま。

 実際、学園で学んだ歴史や情勢はお客様との話題に大きく役に立ったし、近隣諸国の言語学は本当に身に付けられて良かった。気がつけばいつの間にか外国のお客様増えたし。何勝手にお客様連れてきますのん、女王陛下。いや、口コミありがたいですけども。

 そんな彼女が。
 何故に不正を疑われるのか?

「身分を……とのことですが、私も男爵家ですが?」
 一応なりにも貴族であるから王宮に入れたのもあり。女王陛下に面会どころか御身を整体ポキポキッとしてしまったり。
「う……」
 ハロルド王子にすがりついていたメアリー嬢は、マリアが「マリアローズ」ではなく、「マリア・ローゼン」であることを本当に知らなかったらしい。

 彼女は化粧品などには全く興味がないタイプであったのだ。

 《ローゼン》も年々有名になってきているが、やはり顧客は高位貴族や裕福な商人の奥方などになっていた。
 本来は女性誰彼関わらずを目標にしているマリアは、もう少し稼いだら気軽に庶民にも門をくぐってもらいやすい商品開発や店舗を出すつもりではある。しかしまだ学生として学ぶことを優先だ。

 メアリー嬢は地が良かった。可愛らしいと誰もがうなずくだろう。
 そんな方には、やはり不必要な店かしらと、そんなこともマリアは内心で思いながら。お疲れなときにマッサージはどうかしら。美容に興味無かったら、今開発中のアロマキャンドル何かはどうかしら。

「だって、だって……そうでもなきゃおかしいと思って……」
 メアリー嬢は、一度勇気を出してマリアに尋ねたことがあるそうで。
 たまたまマリアが図書室に本を借りに来たことがあり、その時、図書委員であったメアリー嬢は見てしまったのだという。
「あ……確か学年一位の、めちゃくちゃ美人なひと……」
 メアリー嬢はその時はそれくらいしかマリアを知らなかった。
 だからこの美人が学年一位になるために、どんな本を読んでいるのかなと気になって、返却本を戻す振りをして――マリアの手元の紙には!


 高位お貴族様のお名前に――それらに謎の金額が書かれている!?


 その中に、学園長の家名もあった。
「だ、だから、マリアローズ……いえ、マリアさまが、偉いお貴族さまにお金を渡して……いるのだとばかり」

 近くで固まって震えていたら、さすがにマリアも気がついた。図書委員さん、お疲れさまです……と、言いかけ、マリアはメアリー嬢がその紙にギョッとしていることに気がついた。
「その紙は……いえ、金額は……」
 しかし、マリアはメアリーを見ることで視界に入った時計に。その時間に、慌てて「内緒にしてください」と言ってきた。そして図書室を飛び出してしまった。
 マリアの慌てた様子に、メアリー嬢は逆にやましい事があるのではと勘違いをし。それはもしや脅しなのでは、と……。
 よりによって彼女が悩んで顔色を悪くして……学園の藤棚の影でガクブルと消沈しているところに通りかかってしまったのが、ハロルド王子であった。

 そして始まる大誤解。

 はじめはハロルドを王子様相手と恐れ多いと、メアリー嬢もそちらにもガクブルしていたのだが。
 ハロルドは聞いて行くうちに、元々勘違いしている婚約者をさらに勘違いしていき。
 不正は正さねばならない。それが婚約者の、そして王子である自分の役目だと使命感に、燃えた。そしてメアリー嬢にも勇気を出して欲しいと……なり。
 「あの美人さん、王子さまの婚約者さまなのぉ!?」と、メアリー嬢もまた勘違いに巻き込まれ。学年一位は知っていたけども。まさかまさか、彼女がマリアローズ様だなんて。
 マリア・ローゼンをマリアローズだと彼女も聞き間違いを。だって王子様がそう言ってるのだから、と……。

「だ、だから……私は勇気を出して……」


 今ココ。


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