「これは私ですが、そちらは私ではありません」

イチイ アキラ

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 ……あー……。
 ……ああー。

 その場にいる皆がため息をついた。
「マリア、図書室で何を?」
 メアリー嬢の勘違いはそこからだ。フェリシア王女の問いかけに、マリアはしばらく記憶を遡り……あ、と思い出した。

「迎えの馬車が遅れたから、図書室で本を借りながら次のご予約のお客様のコースの確認していたことがございました」

 その日は学園の連休前で、マリアが保養地の支店に直々に向かうことになっていて。そちらでの空き時間に読む本を借りに図書室に。
 保養地の支店は一見さんお断りであり、出資者である方――まあ、女王陛下のポケットマネーだ――により本店よりも高級嗜好なお店であり。
 そう、正しくは保養地に向かう女王陛下にマリアがお供することになっていて。
 女王陛下も学業は大事であると、マリアが学園に入学してからはそちらを優先してくださって。ご予約を毎週末にしているのも、それを考えてくださったことだったらしく。
 たまに国家、国際業務などの前日に呼び出されるのは緊急処置で仕方なく。その分スペシャルに。施術もお値段も。

 まさかの女王陛下の馬車待ちであったと聞いて――ああ、なるほどと、娘で事情を知るフェリシア王女は頷いた。
 彼女から軽くぼかして皆に説明が。
 聞いて皆さまが再びため息をつくのは仕方なく。

「学園長のは……結婚記念日に、日頃の感謝として奥さまに、学園長のお小遣いからフルコースをプレゼント、でした」

 しかも一泊二日の温泉付。夫婦二人旅で。
 学園長も王族に連なる方で。ここは王立学園でもあるからして。
 ひっそりと明かされた学園長の奥さまへの愛情を皆は、フェリシア王女の直々の御下知で口にしないことを誓わされた。それは顧客のプライバシーだからとマリアが自分の冤罪の為でも明かせないとしていたためで。

 しかしながら、生徒たちの学園長への高感度がこの日から爆上がりしたのは、別の良いお話。



 だからメアリー嬢へ、マリアは秘密にしてほしいとお願いしたわけで。
 迎えの馬車の時間になっていたから慌てていたのであり。

 マリアはすっかりと、その数週間前のことを忘れていたのであった。



 そもそもそんな勘違いをされているだなんて。
 まったくもって。


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