「これは私ですが、そちらは私ではありません」

イチイ アキラ

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 謎が解ければ――メアリー嬢がハロルド王子の腕にすがりついていたのは、本当に恐怖感からであり。
 ガクブルと震えていたのは、心底からで。

 ちなみに。
 ハロルド王子は正義感から。
 メアリー嬢は恐怖感から。

 恋愛感情は互いにこれっぽっちも。

 ハロルド王子はそもそも面喰いであるとも判明している。メアリー嬢も可愛らしい方だが、マリアの美人度の方が哀しいかな、かなり。

 美を皆さまにもたらす生きた見本となるよう、マリア自身も己の美には気を使っているわけで。製品の確認も兼ねて。自分で使ってこそ安全性も胸をはれるもの。

 図書室にて恋愛小説を愛読していた周りの傍観者たちはワクワクしていたのだが、「そういえば、婚約破棄は宣言しても、代わりに……とは仰らなかったわ」と。
 
 そうして謎がさらに解ければ……。
「いや、メアリー嬢のは? 命の危険は……?」
 まだ謎が残っていた。
 花瓶や階段、馬車は――。


 ――それは、彼女のドジっ娘属性だと。


 騒ぎを聞いて駆けつけてきた彼女のお姉さんから判明した。

「申しわけありません! うちの妹、本当に周りをよく見ていなくて! あわてんぼうだし、勘違いに、思い込みもひどいほうで……!」

 でしょうね?
 妹を王子から剥がして頭を下げさせるお姉さんに、皆して頷いた。大変ですね。

 花瓶は不運であろうが。偶然だった。なんてタイミングだろうか。
 不注意で落とした生徒も後日判明し、謝罪となった。割れた花瓶を拾いに行った時には、恐怖から逃げていたメアリー嬢の姿がなかったせいで、謝罪が遅れたことをその生徒も気にしていたらしく。

「まず家族に相談なさい!」
「だって大貴族さまに脅されたと思ったんだもん! お姉ちゃんにも迷惑かけちゃいけないと思ったんだもんん!」

 それでたまたま出会った「王子」という、虎の威を借りたのだが――それがただの虎の血を引くだけの子猫であったとは。

 姉を巻き込みたくない。
 今なら自分一人で済む、と。
 それはまた家族愛、家族思いであっただろうか。

 彼女は心底からマリアに謝罪した。またそのおっちょこちょいぶりに、怒るに怒れなくなったマリアもいて。そもそも、金額が書かれた紙を見られたマリアの不注意もあり。この後、予約帖の改善点となった。

 マリアは本当に許すからと、姉妹に微笑みを。「ごめんなさいしなさい!」とお姉さんに拳骨落とされたメアリー嬢が気の毒で……いや、拳骨が本当に痛そうで。
 それもまた、愛の拳骨。

 本当に大事な家族故に。

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