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「あなたのために頑張ったんじゃあないです」
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しおりを挟む王太子殿下の裏働きもあった夜会から。
「逃した魚は大っきかったぞぅ、て見せつけてやるつもりが……思ったより大ダメージ与えてしまった……」
そのために外交方面が進路の生徒たちを夜会に招き。ちゃんと外交のための夜会の空気を吸って、経験にしてくれた生徒もいたから、どちらの目論見も成功もしているのだけれど。
けれども思っていた以上の効果でもあったらしい。
「彼、別に髪の色で差別するようなやつじゃあなかったみたいなんだけどなぁ……」
「……落ちてしまったそうで」
試験結果の報告が王太子のところにも。
セオドアもうなずいた。
リーシャが泣いた日から、彼も裏取りした。
本当にそんな「色」で差別をするような人間を、大事な外交でこの国の「顔」にするわけには行かなかったから。
自分たちの時代に、そんな人間は不必要だから。
けれども。
普段の人間関係は悪くない。友人には恵まれているようだし、何より優秀だった。
フランター伯爵、決して見る目がなかったわけではなかった。
ただ、ジェイラスが――チャンスを掴むのが下手で、残念だっただけ。
つまりは、リーシャ限定だった。
拗らせたんだなぁ。
話題が上手く作れなかったんだろうなぁ。
だが、しかし。
「婚約者に駄目だろ」
その点だけで、王太子殿下の評価は低い。同じくセオドアも。
だからセオドアはリーシャの後押しをした。婚約解消の方面で。
フランター伯爵が解消に大きく天秤を傾けたのには、彼らの動きもあったのであった。リーシャが上手く話ができなければ、ジェイラスの優秀さを惜しんでフランター伯爵が婚約を継続させるかも、だった。
もしかしたら結婚したら態度が変わるかもしれない、と。
ジェイラスはそんなフランター伯爵の空気を薄っすら察したのかも。
だからこそのあの現実逃避か。
「でも、嫌だよねぇ……リーシャ嬢がずっと暗い顔してるのは」
「そんな顔する彼女を気にする婚約者たちが、また暗い顔するのを許せない……ですね?」
「わかるようになってきたね、セオドアも?」
そう、それまで大事な婚約者の友人を悲しませるのは許せなかったので。
結婚するまで数年。それだって貴重な時間だ。自分たちには大事な学生時代で、青春だ。
「婚約者を悲しませるのは駄目だよねぇ」
それは巡り巡って自分たちの婚約者も、だ。
それに髪色のことを持ち出されたら、王太子の愛しい婚約者も金髪ではない。それをもしも気にしたりされたら。
そうしたらジェイラスは王太子から嫌われどうなっていたか。
どんなところに配属され、どんな末路だったろうか。
これはまたギリギリ紙一重で彼は救われたのではないだろうかと、薄っすらとセオドアは背中が寒くなった。
不要を切り捨てるのも上に立つものの役目。
側近の様子に気が付かない王太子は――気が付いても、にっこりと微笑みを浮かべた。
「好きな子には好きって、素直になるのも大事だって、改めて思うよ」
しかし優秀であったのは認める。
婚約解消もなったことだし、試験に受かったらそれなりの希望の職場に近いところに配属してやろうとは考えていたのだが。
「……メンタルが持たなかったんですかね」
「かわいそ」
故郷で遊ばせておく――引きこもりさせるのは勿体ない。
そう思っていたら。
「でもかわいそうだからどこか良いところに就職斡旋してあげようと思ったら、さ」
ジェイラス、本当に友人に恵まれていた。
「辺境伯の次男からスカウトされて、甥っ子さんの家庭教師に就職したって。休んでても学園の卒業資格、ギリギリ取れて良かったね」
ジェイラスの友人の中には、ディーラー家の主家である辺境伯家の息子もいた。
同じ次男同士でまた同じく優秀な兄がいたり、そんなところも気もあったという。
次男の彼は親や兄たちに自分が留年もしなかったのはジェイラスのおかげだと、以前より何かと伝えており。
前向きなジェイラスを見ていたおかげで、彼もぐれたりしないで、優秀な兄の影と腐らずにいられたのだと。
フランター家との繋ぎが無くなったのにディーラー家にお咎めがなかったのは、そうしたところもあったのだろう。
「辺境伯の長男のご子息……ああ、確か六歳ですね。家庭教師をちょうど探し始める時期ですね」
優秀なセオドアはそうした把握もすごい。レトラン領の管理は信頼ある義両親にお任せできるため、王太子の補佐の仕事に能力を全振りできているのもあり。ありがとうございます。お義父さんお義母さん。
辺境伯家は少しばかり脳筋だから。そんなところに頭脳方面は大丈夫だろうかと少しばかり心配したが。
たしかに始めは馴染むまで苦労したそうだ。メンタルもまだまだ回復していなくて。
けれども後にジェイラスが辺境伯子息より大きな魚を釣り上げたりして、尊敬もされ始めていると良い報告をもらった。
意外とたくましく、上手くやれているようだ。
国の護りの辺境伯の次代が優秀に越したことはない。近隣諸国の言葉や、外交力も確かだったジェイラスは、家庭教師から側近へと、長く辺境伯家に仕えることとなった。
それは本当は大好きな故郷を護ることもでき。
ある意味、希望していた仕事に就けたことにもなった。
「素直になるのも大事て、教えてくれているんじゃない?」
「ですね」
そうした大事なことを、未来へと。
「それに、チャンスを掴むのが上手かった奴がいましたし」
「ああ、彼ね。おんなじように田舎育ちだったのに、何が違ったんだろうね」
それはやはり運としか言いようがないなと、セオドアは口には出さなかった。
あの日、あのタイミングで彼を連れ帰ったのは自分であるし。彼女があの日に親友に打ち明ける決意をしたのはまた偶然。
偶然と偶然が重なったから運――運命というのではないだろうか。
呼ばれて飛び出てした王太子殿下は話を聞いて。夜会にジェイラスが来れるよう裏で動いていました。(書かなくても解っていただけていたと思うけれども)
捨てる神あれば拾う神あり…て、なったら良いなぁ、と常々思います。
ジェイラスくん、初恋は実らないをしっかりと。良い教師となったでしょう。
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