私のマジカルノベル

@kitunetuki12

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第二十五魔法;思い出の道しるべ

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 目を開くと闇が広がっていた。見たことは無いけど、どこか深海と似ている気がする。​

「私の名前はリズミール。魔生物学部よ。よろしくね、チャミス。」​

綺麗な声が頭の中で響く。周りを見ても、声の主の代わりに闇が存在していた。​

「前髪が少し出てるよ。」​

憎たらしい声が頭の中で暴れまわる。やっぱり周りには闇しか存在していない。​

「あなたから魔力をもらいながら、”あの”魔法を使うわ。」​

頼もしい声。この声に沢山助けてもらった気がする。​

「リーフェアス・ティリン・サースイレンダー。」​

意味が分からない長文。でも、知っている気もする。​

「おい!生きてるのか?」​

「起きて」みたいに言うな!とツッコみたい。​

「詳しくは、二年のアンに聞いてみなさい。」​

アンって誰だっけ?このセリフを言ったのも誰だっけ?​

「とにかく、カルト、お姉さんに私が会いたがってること、伝えといてね。」​

自分の声がする。こんなこと、言ってたっけ?​

「ねぇ、皆で帰らない?」​

また自分の声。誰に向かって言ってるんだろう。​

「あなたがチャミスさんか?」​

新しい声…。​

「確か…大聖堂にこの世界の弱みがあるとか言ってました。」​

誰が?​

「この扉を開けると、魔力消去装置が発動して魔力が消える。」 ​

この声とともに、断片的な映像が脳内を過る。赤毛の少年が何か叫んでいる。金髪の少女の顔は青ざめている。​

「うち、来るかい?」​

映像が切り替わる。路地で…おばさんに話しかけられた。​

「息子も同じよ。ヒツジと同じ場所にいたわ。ちなみに、あだ名はキツネよ。」​

小さなおいしそうな匂いのする店で誰かの話を聞いた。​

「こちらこそ!リスちゃんもバイバイ!」​

笑顔が素敵な人に言われた気がする。​

「ええ、そうねぇ…この店の看板のミルフィーユを二つお願い。」​

緊張しながらこの声を聞いた気がする。でも、どこか楽しかった。​

「ローメリー・モジング。」​

この一言…。この一言の後から、一切映像が頭の中を走らない。​

「チャミス!」​

体が引っ張られる感覚を覚えた。でも、どうして?​

「バメリーモ・メリーン。」​

その一言とともに、闇が消え去った。辺りが明るく、温かく輝く。​

「チャミス!」​

「お前、もし魔法界思い出さなかったら転部の話はどうなる?」​

「チャミス、早く起きやがれ!」​

後ろの方向から、複数人の声がする。フラフープのような出口があった。出口の先は、光で良く見えなかったから、何があるのかは分からない。でも…良さそうな場所だと感じる。​

「り、リス!」​

「へぇ~。リスちゃんか。可愛ーいー!」​

「お客様、あまり箱が揺れないよう気を付けてお持ちください。あと、合計五百円です。」​

光り輝く出口の反対側に、もう一つの出口が現れた。胸が高鳴る。​

「うぅ…。」​

何か大切なものを忘れている気がする。何だろう?何が大切な物なんだ?物なの?気持ちなの?​人?建物?何?

「チャミス!」​

「リス!」​

名を呼ばれる。私はチャミス?それともリス?どっちなの?​

「うぐ…。」​

もう少しで全てが分かりそうな気がする。でも、それは何なの?チャミスについて分かるの?リスについて知れるの?どっちも知ることができるの?​…違う。私はチャミスだけどリスなんだ。私はチャミスだけどリスなんだ!​

「私はチャミス…。」​

一番初めに見つけた出口の方を見て呟く。​

「でも、私はリス…。」​

もう一つの出口を見て言う。​

「私は…。」​

そのとき、断片的な映像が一気に頭を駆け巡る。​

「みなさん、いえ、第62期生の新入生たち、まずは本校への合格おめでとうございます。」​

「驚いた?私、記憶だけを武器にして魔力を磨いてきたの。」​

「トに濁点が付いてなかったよ。」 ​

「では、さっそくやってみましょう。」​

「あら、目が覚めたの?」​

「黒髪の者達が生み出した魔法のことです。」​

「ええ。私は平気よ。それより、リズミールこそ大丈夫なの?」​

「司会進行役は、お前じゃなくて俺が良くないか?」​

「フッ。だろう?古代の魔術…これこそ魔法の源!」​

「オプード・アザン!」​

「フフフ…見つけた…。やっと!」​

「よし、名前がないままだと不便だから、リスにしよ!」​

「さぁ、行きましょうか。」​

「扉の前にバリケードを作らない限り、自分で設計していいよ。」​

「お疲れ様!」​

「チャミスは…もう、呼び捨てもしてくれないんだね。」​

私はチャミスで…リスで…。友達がいて…リスというあだ名をもらって…。​

「ねぇカルト、リズミールの瞳の色って綺麗だと思わない?」​

あの日は夕日に向かって歩いていた。金髪の子と分かれ道で分かれた後のことだった。​

「リズミールは”あの”魔法に興味ある?」​

アン先輩に言われて、リズミールとカルトを呼びに行ったときに聞いた。大聖堂へもう一度向かって歩いているときだった。多分、この時の私は”チャミス”だったんだ。​

「おばさんの店のケーキはおいしいの?」​

おばさんの店に向かう間、聞いたことだ。少し曇っていた日だった。​

「金瀬さんと朝野さんは仲が良いの?」​

交番からの帰り道、おばさん…金瀬さんに聞いたことだった。​

私は魔法を使っていたんだ。私はケーキ屋で働いていたんだ。私は…魔法界と人間界で生きていたんだ!​

「私は、魔法界で生活していた。」​

「チャミス!」​

魔法界へとつながる出口に足が傾く。​

「私は、人間界で思い出も作った。」​

「リス!」​

人間界へとつながる出口にも足が向く。足が魔法界へも人間界へも傾く。​

「チャミス!」​

「リス!」​

……………選べない。どちらかの出口を選べば、必ず誰かに会えなくなる気がする。​

「なら、もうずっとここに居ようかな?」​

誰かと再会する代わりに誰かを失うぐらいなら、もうここにずっといようかな。​

「チャミス!」​

「リス!」​

相変わらず誰かが呼び掛けてくる。いや、この声はきっとリズミールとカルトと金瀬さんだな。…懐かしい。もう一度会いたい。どちらにも、もう一度会いたい。​

「リズミール!」​

自分の声が反響する。​

「カルト!」​

脳内でも声が反響する。​

「金瀬さん…。」​

声が弱まってしまい、反響はしなかった。そのかわり、白鳥の鳴き声が聞こえた。​

ピュー…​

ピューピュー​

ピュヒューヒュピュー​

ピュヒュー​

ピューーー​

これはいつ聞いた音なんだろう?思い出せない。たった今聞いた音なのか、ずっと前に聞いた音なのか。分からない。でも、この白鳥の声のような、風の吹く音色のような音は一つの出口をさしていた。​

魔法界への出口ではない。人間界への出口でもない。二つの出口の真ん中にある、小さな穴を指していた。​良く見ないと分からない程の、か弱い光を放つ出口だった。でも、この出口が一番、私には輝いて見えた。​

「くっ!」​

穴に手をかける。そして、幅を広げようとしたが、うんともすんとも言わない。​

「グぐぐ!」​

微動だにしない。​

「開け…開けぇ!」​

ほとんど叫びに近い声で言っていた。でも、いくら叫ぼうが怒鳴ろうが開く気配はなかった。どうやったら幅を広げられるのだろうか…。​

_________________________________​

おぷーど・あざん​

_________________________________​

一瞬、おぷーど・あざんという魔法が思いついた。でも、効くのかな?…考えるより魔法書読むが易し!​

「おぷーど・あざん!」​

全身に何かが駆け巡る気がした。…でも、幅は広がらない。​

「おぷーど・あざん!」​

効かない。やっぱり、無理なのかな…。​

「おぷーど・あざん!」​

なんで。​

「おぷーど・あざん!」​

どうして!​

「おぷーど・あざん!」​

開いてよ!​

「オプード・アザン!」​

さっきとは違う感覚が体の中を走る。気持ちいい。爽快感を味わっているうちに、穴の幅が広がる。穴の中には、今まで見てきたことが無い程の光が詰まっていた。​

「チャミス!」​

「リス!」​

「みんな!」​

みんな、ここにいるのかもしれない。いや、絶対そうだ!確信を胸に、光へ飛び込む。​光は優しくって、温かかった。
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