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1章
34話
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あれから、何日かに1度、必ず贈られてくる花束。
次第に花束は部屋いっぱいになってしまい、最初の頃の花束は乾燥させて保存していたが、最近は押し花用にとキラ様に選んで貰い、残りは新しいものと入れ替えている。
「ティア様、お花が」
キラ様の声に、無意識に溜め息を吐いてしまう。
花束が来たと言うことは、今日もまたレイジュは来ないと言うこと。
「ありがとうございます…」
私は笑顔で受け取れただろうか。
その時に、何処からか鐘の音がした。
弔いの鐘…誰か身分の高い方が亡くなったのだろう。
「ティア様、もう…少し暖かくなったら、外を歩きましょうか…」
「…キラ様、ゆっくりしてください、私の事はいいですから」
キラ様に何があったのかはわからないが、声が一瞬変わった。
あの鐘と何か関わりがあるのだろう。
「何かあれば呼びますから…ね?」
「わかり、ました…」
頭を下げたキラ様がゆっくりと退出していくのを聞きながら私は息を吐き出した。
レイジュは、亡くなった方に近しい方でそれで忙しかったのかもしれない。
例えば一緒に仕事をしている…とか。
だから逢いにきてくれなかったのだろう。
これでまた少しして落ち着いたら…来てくれるだろうか。
私はそっと手を組んで祈りを捧げた。
どうか良い旅を。
☆☆☆☆☆☆☆
それから、入ってきた情報は、この国の王様が亡くなったそうだ。
私は特に何かある訳ではないため、周囲と同様食事の量を減らしてキラ様が用意してくれた服に着替えて喪に服す。
そして、その喪が開けるのとほぼ同時に2回めの点眼がやってきた。
「ティア様、宜しいですかな?」
ホウアン様の声に瞳を開くと、ぼんやりたが物の形が見える。
少し回復はしているのだろう。
「前よりは物の形が見えますので」
「そうですか、それは良かった…ではそのままでいてくだされ」
眼球が一瞬冷たくなり、薬剤が触れた。
「では、これで…ゆっくりと静養してくだされ」
「ホウアンさま、ありがとうございました」
ぽんと肩に置かれた手。
今日もレイジュはいない。
もう、ずっとずっと逢っていない。
声だけでもいい。
来て欲しい…そう思いながら目を閉じた。
次第に花束は部屋いっぱいになってしまい、最初の頃の花束は乾燥させて保存していたが、最近は押し花用にとキラ様に選んで貰い、残りは新しいものと入れ替えている。
「ティア様、お花が」
キラ様の声に、無意識に溜め息を吐いてしまう。
花束が来たと言うことは、今日もまたレイジュは来ないと言うこと。
「ありがとうございます…」
私は笑顔で受け取れただろうか。
その時に、何処からか鐘の音がした。
弔いの鐘…誰か身分の高い方が亡くなったのだろう。
「ティア様、もう…少し暖かくなったら、外を歩きましょうか…」
「…キラ様、ゆっくりしてください、私の事はいいですから」
キラ様に何があったのかはわからないが、声が一瞬変わった。
あの鐘と何か関わりがあるのだろう。
「何かあれば呼びますから…ね?」
「わかり、ました…」
頭を下げたキラ様がゆっくりと退出していくのを聞きながら私は息を吐き出した。
レイジュは、亡くなった方に近しい方でそれで忙しかったのかもしれない。
例えば一緒に仕事をしている…とか。
だから逢いにきてくれなかったのだろう。
これでまた少しして落ち着いたら…来てくれるだろうか。
私はそっと手を組んで祈りを捧げた。
どうか良い旅を。
☆☆☆☆☆☆☆
それから、入ってきた情報は、この国の王様が亡くなったそうだ。
私は特に何かある訳ではないため、周囲と同様食事の量を減らしてキラ様が用意してくれた服に着替えて喪に服す。
そして、その喪が開けるのとほぼ同時に2回めの点眼がやってきた。
「ティア様、宜しいですかな?」
ホウアン様の声に瞳を開くと、ぼんやりたが物の形が見える。
少し回復はしているのだろう。
「前よりは物の形が見えますので」
「そうですか、それは良かった…ではそのままでいてくだされ」
眼球が一瞬冷たくなり、薬剤が触れた。
「では、これで…ゆっくりと静養してくだされ」
「ホウアンさま、ありがとうございました」
ぽんと肩に置かれた手。
今日もレイジュはいない。
もう、ずっとずっと逢っていない。
声だけでもいい。
来て欲しい…そう思いながら目を閉じた。
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