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14話

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あの夜から確かにラーサティアの事を考えると、花を吐くことが多くなった。
本当に?
俺がラーサティアを?
「本気だろうか……」
信じられないしどうしてそうなった。
「……職権乱用になるよな」
あくまでも、俺はラーサティアの上司になる。
ラーサティアが王族だとしても、ラーサティアが騎士である以上上司と部下の立ち位置は変わらない。
「まぁ、言わなければどうと言うことはないのだから、このまま……」
花を吐くことを気取られずに何とか退役できればいいがと、日々を過ごしながらふと、副官であるヒューイに溢した。
年明けで退役をしたいと。
スタンピードが起こるのは、毎年冬の最中。
厳冬であるその時ほど大きな綻びができるのだ。
それを防いで後に退役をすると。
ヒューイは青ざめ、困ったようにあたふたしはじめた。
言葉にしてしまえば気持ちは直ぐに固まった。
机の中から羊皮紙を取り出すと、其処に退職届を書き込む。
一身上の都合だ。
王に渡さねばならないと、謁見の段取りを組み日時をうかがう。
すると、直ぐに王から謁見の許可を受けた。
身嗜みを整えて王宮へと向かう。
歩き慣れた場所だ。
「ニクス騎士団長様がいらっしゃいました」
通されたのは執務室。
謁見と言うほど仰々しくはない場所だった。
「ニクスです」
「入りなさい」
扉の向こうから声がして、両脇に控えた騎士がゆっくりと扉を開けた。
「陛下、ご無沙汰しております」
「息災だったか」
40歳半ばを過ぎた優しげな風貌の王は、広い机に向かっていた。
「で、話は書簡の件か?」
「御意」
「一身上とあるが?」
「はい、それ以上でもそれ以下でも、ございません」
「詳しく話せ」
王は机に肘をつき、溜め息を吐いた。
「何か理由があることはわかったが、言ってくれねばわからぬし、そなたの元だからラーサティアを預けたのだ」
確かにラーサティアの事を頼むと言われて、最終的にはその入団を決めたのは自分なのだがラーサティアを放り出して退役をすることは間違っている?
「病が見付かりまして……」
「何のだ?」
「花吐き病と、呼ばれるものです」
隠しても仕方ないと何度か頭の中で回答を反芻するも俺は素直にそう答えた。
「……そうか」
王は静かに目を伏せた。
「ラーサティアは知っているのか?」
「はい、私の花吐き病に気付いたのはラーサティア様だけです。ある日吐いているのに気づかれまして……」
「そうか……だが、この辞表は受け取れん。スタンピードにはお前の力が無ければ耐えられぬ」
「ですから、スタンピード後に……」
「ニクス、スタンピード後に必要ならば受理をする、その時にまた考えてくれ」
突き返された書簡を受け取り、俺はそっとその場を辞した。
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