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15話

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「ニクス団長……よろしいでしょうか」
王宮から戻ってきて少し、ぼんやりとソファーで考え事をしている最中にふと掛かった声で意識を戻す。
「ラーサティアか、入れ」
その声でわかってしまう。
声を掛けると静かに扉を開いた。
「失礼します」
いつもよりも静かで元気のない声。
「どうした、何か急ぎの……!」
顔を上げるとつかつかと寄ってきたラーサティアが、いきなり床の上に膝を突いた。
「ニクス様、どうしてですか?」
硬い声に少しだけ震えが交じる。
「ラーサティア、どうした話があるなら座ってくれ……」
「どうか、思い直してください。退役などと……貴方は私の目標なのに……」
顔を上げたラーサティアの瞳からは一筋涙が溢れ落ちた。
「父上から伺いました、退役を希望されていると……それがあの病の事なら……私が何としても治療方法を見付けます。ニクス様の手足となって働きますから騎士を辞するなどと仰らないでください……」
悲痛な訴えに苦笑を浮かべると、俺はソファーから立ち上がりラーサティアの前に同じように膝を突いた。
それに驚いたのかラーサティアは目を見開く。
「ラーサティア、そんなに慌てることはない……」
同じ視線の高さになりながら、俺はラーサティアの手を取った。
「ラーサティアが以前言ったように、この病は思い人と結ばれる事で完治をするのかもしれない。最近、花を吐く理由がわかったからな。だが、俺はそれを告げるつもりは無いんだ……相手は……っは」
こぽりと吐いた花。
「……っ、下がれ、見ていて気持ちいいものでは……っあ……」
「ニクス様……!」
ラーサティアの叫びに静かにとそれを制す。
収まらない吐き気に立ち上がり、できるだけふらつかないようにと洗面所へと向かう。
口許を押さえる手の内からは花が溢れ床を汚した。
「帰れ、ラーサティア。俺は大丈夫だ……」
止めどなく溢れ出る花はきっとラーサティアがいるからだろう。
こんな失態を見せたくは無いのだ。
だから、騎士団長を辞して上司と部下では無くなったときに思いを伝えてから去ろうと想っていたのに。
「大丈夫ではありません!お慕いをしている方が辛そうなのは、見ているこちらも辛いのです……どなたですか、ニクス様の想い人は、私が……私が此処へ連れて来ますから!」
ラーサティアの悲痛な叫びに、下げていた頭を上げた。
今、何と言った?
ラーサティアは、何を口にした。
振り向きラーサティアの顔を見た瞬間、すうっと吐き気が消えていく。
俯きこちらを見ないように顔を背けたラーサティアだったが、そっと俺の服の裾に触れていた。
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