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39話

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「ニクス様、体調が悪いのでしょう……私は歩けますから無理をなさらずに」

ラーサティアはそう言ってくれるが、そのくらいどうと言うことはない。

「気にするな、大丈夫だ。蜂蜜も買いたいからその店も……」
「いえ、ニクス様早く帰りたいのです」

ラーサティアの好む蜂蜜も購入したいと思っていたのだが、実はラーサティアの体調が良くないのかもしれない。
無理はさせたくないとそっとラーサティアを抱き上げた。

「辛くないか?馬車を借りてもいいが」

少しでも早く帰るならとそう提案すると、ラーサティアはこ,,ztくりと頷いた。
帰路の途中にある貸出馬車の店に寄り、馬車を手配すると小さくても設備の良い馬車を用意してくれるのは、俺が騎士団長だったときに軍馬の面倒をみていてくれた老人が引退をして今は貸出馬車の店をやっていたからで、もちろんラーサティアの事も知っている。
従業員だろうか、若い青年が御者を勤めてくれるため、馬車を返却に行かなくていいのも助かるのだ。

「悪いな」
「いえ、できるだけ揺らさずに向かいますので」

ラーサティアが病人だと思っているのだろう、青年はそう言うと並んで乗り込んだ俺達の膝に柔らかく暖かな毛布を掛けてくれた。

「サティ、大丈夫か?」

先程からほぼ何も話さなくなったラーサティア。
いつもなら軟らかな優しい笑顔を見せてくれるのだが、今は少し表情が強張っている。
大丈夫だろうか、やはり不安になってしまう俺に気付いたのか、揺れから守るためにラーサティアの腰に回していた俺の左手のシャツの袖口をそっと掴む。

「ニクス様……着いたら……」

何かを訴えるような表情で見上げてくるラーサティアは、言葉を最後まで紡がずに目を伏せた。

「着いたら?」

その先の言葉が気になりといかけたが、ラーサティアはそっとその身体を持たれ掛けてきて、するりと重ねられた掌と絡まる指先。
少しだけ力の入った指。
ラーサティアも意思表示が苦手だったのを思い出す。

「着くまで少し休め……寝てもいい」

眠りに落ちるまでにはきっと着いてしまうだろうが。
少し遠回りをするよりは、早く自宅の寝台で眠らせてやろうと思いながらゆっくり動く街並みに目をやる。
貴族の乗るような屋根の着いた馬車ではないが、晴れた日には気持ち良く乗れる。
これからもう少ししたら、寒くなるため幌馬車くらいは必要かと俺は少し考える。
馬と馬車があれば、2人で出掛けるのも楽しいだろう。
そう思いながら自宅までの道のりを帰路につくのだった
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