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2章

6話

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すり鉢状の建物の中を俺を抱き上げたままカミーユはふらつきもせずゆっくりとした足取りで誰も居ない方向に階段を上がっていく。
男ひとりを抱き上げて動じないのは凄いなと思いながらちらりと見やる先の横顔は、彫りの深いイケメンという部類だった。
日本人とは全く違う顔のは仕方ない。どう見てもカミーユは外国人のような顔立ちなのだ。
同じ男なのに何でこんなにも差があるのだろう。
理不尽だと思いながらも俺は暴れることなく大人しく運ばれていく。
建物の外に出た瞬間、その眩しさに目が眩んだ。
建物の中はそう言えば電球の明るさではなく少し薄暗かったなと、今更ながら思う。
「うわぁ……」
息の詰まる室内から太陽のある外へ出て詰まっていた息を吐くと、眼前に建つ建物に声を上げた。
仕事場があった都内のビル群とはまた違う巨大な建物。
それは、縦にではなく横へと大きいのだった。
「なんだ、これ……」
白亜の宮殿ではあるが、何だろうアラブの宮殿とも違う不思議な形の建物が並んでいた。
「フィナシェの王宮だが?」
「王宮って……」
「王が住む場所だ」
そうカミーユが言い、その王宮に向かって歩き出す。
白い石畳が続く道。
王が住む場所。その意味は……考えたくないけれど、まさかと思いながらちらりとカミーユを見る。
「カミーユ、まさかそこに住んでるとか言わないよな?」
俺を抱き上げているカミーユが王族なのだろうか。
いや、これだけ素晴らしい体躯なのだから何か身体を鍛えているスポーツ選手とか?
「そこには住んでいない」
それを聞いて少しだけホッとした。
まさか。このイケメンが王様ならば随分と若い王様だと思う。
しかも、こんなに簡単に王様を見られるなんて日本ではあり得ない事なのだから。
「翡翠宮へ行く」
「ひすい?」
「あぁ、ここの王宮には様々な名前が付いていて、主に宝石の名前だな」
カミーユが歩くと、皆が脇へ逸れて頭を下げる。
やはり地位の高い人なのだろうと確信する。
道の分岐を難なく曲がり同じような建物を見ながら、何処をどう歩いているのか全くわからなくなったが石畳から渡り廊下、そして建物に入り漸く着いたのは白亜の壁に美しく緑の蔦が描かれた一軒家だった。
一軒家と言っても、実家と同じくらいの広さだろうか。
あの王宮の大きさからすれば豆粒のような大きさなのだけれど、それでもそれなりに広い建物だった。
「ミオリには此所に住んで貰いたい」
「俺に?」
用意してやったじゃなくて、住んで貰いたい? 何で?
不思議なカミーユの言い回しに俺は首を傾げた。
「でも、ここは王宮の一部だろ?そんなところに俺を住まわせちゃダメだろうが」
美味しい話には裏がある。
それは今まで生きてきた中で重々わかっていることなのだ。
と言うか、俺はこの国へトリップしてきたのだろう。あまりにも早い展開と自然な流れで気にしていなかったけれど。
その辺りも確認しなきゃと俺はカミーユの腕を叩いた。
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