お飾りの私を愛することのなかった貴方と、不器用な貴方を見ることのなかった私

歌川ピロシキ

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本編

P11 生まれ変わった日々

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 このところ、時間が過ぎるのが早く感じます。それもこれもプルクラ様とお友達になれてから。

 ご一緒に教会にお祈りに行ってはバザーの準備をしたり、貧民街への施しをご用意したり。あるいは孤児院を訪れて子供たちにお菓子を差し入れたり。
 恵まれない憐れな人々に手を差し伸べ、救いを与える日々は、毎日がとても楽しくて新しい発見に満ちあふれ、充実しております。

 あの爽やかな初夏の日に、アイリスの咲き乱れる外宮の庭園でプルクラ様と巡り合ってから、わたくしの世界はがらりと変わりました。
 これも創世女神イシュチェル様のお導きに違いありません。
 この世界を創りたもうた月虹女神イシュチェル様からいただいた、この素晴らしい運命に心からの感謝を捧げなくては。

 教会にうかがうと、そのつど司祭様や侍祭様が丁寧に応対してくださいます。そして奉仕活動ではどのようなお手伝いをすればよろしいのか、わたくしの人柄や能力に合わせた役割をわかりやすく丁寧にお話し下さるのです。
 手先が不器用なわたくしは手芸品もお菓子作りも参加しづらいので、皆様が寄付してくださる売り物を受け取って記録する係になりました。
 皆さま着なくなったドレスや宝石類、本や食器など、さまざまなものを寄付してくださいます。人によっては買ったばかりのほとんど手をつけていないものまで、貧しい人々の助けにするために寄付してくださるのです。
 こういったものの売り上げが、恵まれない方々を救う資金になるのかと思うと感慨深いですわ。

 奉仕活動を「地味でまともに人から相手にしてもらえない偽善者が他人様の気を惹くために行う善人アピール」だと思いこみ、篤志家とくしかのみなさまを心の中で蔑んでいた過去のわたくしを叱り飛ばしたい気分でございます。

 孤児院に参りますと、子供達にお菓子を渡した後、いつもプルクラ様は大切なお話があるとおっしゃって院長の私室にいらっしゃいます。それから長い間、院長様と何かのお話合いをしておられるのです。

 お話の間、わたくしは侍女と共に子供達と取り残されてしまい、手持無沙汰。
 でも、ここの施設の子供たちは厳しく躾けられていて、大人に言いつけられた事は必ず素直に守るので、不快な思いをすることはございません。

 むしろ子供なりにわたくしを一生懸命もてなしてくれるので、ともに遊んでいると時間のたつのを忘れてしまうこともしばしばでございます。

 ここの孤児院にいる子供たちはみんな可愛らしく美しいお顔をしていて、お行儀も良く賢そうな子供達です。
 それなのにたまたま貧しく生まれ付いたがためにこのような孤児の身の上になってしまうとは、なんともあわれなものでございますね。

 今も「お部屋で静かに本を読んでいなさい」という言いつけを守って、それぞれ黙って本を読んでいる姿のなんと愛らしいことか。
 上質な綿であつらえた揃いの紺色のお洋服を着ていて、仕立ての良い衣装が愛らしさが引き立せております。

「こうしゃくふじん、おちゃとおかしをおもちしましょうか?」

「おつかれではありませんか?おやすみになるならマッサージをいたします」

 先を争うようにしてわたくしを精一杯もてなそうとする姿は愛らしくもいじらしく、まるで天使のよう。健気な子供たちと触れ合う時間が、今のわたくしにとっては何よりの癒しとなっているのでございます。

 旦那様からうかがったお話では、よその孤児院では子供達も騒がしく聞き分けがないものだし、お洋服も寄付された着古しの小汚いものしかないところが多いのだそう。
 一般的な孤児院というものは、今にも崩れ落ちそうな薄汚い建物で、下品で無作法な子供たちが継ぎのあたったボロをまとってみっともなく走り回り、ぎゃあぎゃあ騒ぎ立ててはろくでもないイタズラをするものなのだというお話をうかがって、わたくしは気が遠くなりそうでした。

 それにひきかえ、こちらの孤児院の子供たちはみな清潔でお行儀も訊き分けも良く、みな天使のように愛らしいのです。きっとここは特別に恵まれた施設なのでございましょう。
 プルクラ様がお連れ下さった施設が、巷に溢れかえる下賤げせんな孤児院のような汚らわしい場所でなくて、本当に良かったです。

 プルクラ様とお出かけする日は旦那様も早くご帰宅されます。
 そして、夫婦二人の晩餐ばんさんの席で、その日はどのように過ごしたのか、プルクラ様はどのような事をおっしゃって何をなさっていたのか、他にはどのような方がいらっしゃったのか、こと細かに聞いてくださるのです。

 旦那様がわたくしにこんなにも興味を持って寄り添って下さった事が未だかつてあったでしょうか?
 わたくしはアナトリオを産んで以来、久しぶりに心満たされる日々を送って、幸せを心から噛みしめておりました。

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