お飾りの私を愛することのなかった貴方と、不器用な貴方を見ることのなかった私

歌川ピロシキ

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本編

E14 生まれ変わった妻とおかしな友人

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 ティコス男爵家のプルクラ嬢とよく出歩くようになったパトリツァ。
 毎日よほど充実しているようで、以前のようにすぐに癇癪を起こすようなこともなくなり、人が変わったように朗らかで穏やかになったのだが……
 やはり色々とおかしいだろう。

 教会のバザーや炊き出しにはさほどおかしな点はないような気がする。
 ……一度こっそり見に行った時に何か妙な違和感があったような気がしない訳ではないんだが。
 まぁ、そこまでおかしな印象はなかった。
 少なくとも俺はその場でどこがおかしいと指摘できるほどの異常を見つける事はできなかった。

 問題は孤児院だ。
 パトリツァの話を聞いていると、とても孤児院とは思えない。
 孤児院なんてどこも小汚くて、行儀の悪い子供がせわしなく走りまわっているものだ。まともに大人から躾や教育を受けさせてもらえる環境にはなかった子がほとんどだから、無作法で乱暴なものが多い。
 いろいろと厳しい環境で生きてきた結果、病気や怪我で目立つ傷跡のある子も珍しくない。みんなあちこち傷だらけでみすぼらしくて、下品で乱暴で大人に対して猜疑心さいぎしんをむき出しにしている。
 それが当たり前だし、その責任は子供たち自身ではなく彼らをそんな境遇においてしまっている我々大人……特に社会を支えるはずの貴族にある。
 だからこそ、そういった心身の傷や病を乗り越えさせて、一人で生きて行けるような教育を与えてやれるようにするのが我々貴族の務めノブリスオブリージュの一つであるのだが。

 それなのに、パトリツァの知る孤児院は小綺麗で、子供たちはおちついていて礼儀正しく、綺麗なお仕着せを着ていて、大人には決して逆らわないらしい。
 乱暴な子や悪戯をする子は一人としておらず、みなとても美しい容姿をしているとか。それどころか子供なりに健気に来訪者をもてなそうと一生懸命はげんでいるという。
 ……それは本当に孤児院か?
 どう考えてもおかしすぎる。

 しかし、パトリツァがあまりに毎日充実した様子で、嬉しそうに恵まれない人々への奉仕のすばらしさを語るので、なかなかに禁止しづらいものがある。
 貧しい者たちを蔑み、派手に着飾り宝石を見せびらかすことで自己顕示欲を満たそうとしていたパトリツァが、多少の傲慢さはあるものの、苦しい環境にある者に何かをしてやりたいと思えるようになったのであれば、頭から否定してはいけないと思うのだ。

 もっとまともな犯罪とは無縁の友人を作ってやるのが一番良いのはわかっている。
 しかし、パトリツァの今までの行状が酷すぎる上、未だに高位貴族として振舞えるだけのマナーも教養もまったく身についていない。勉強するようにうるさく言うと逆上して暴れるだけ。
 侯爵家の名を出していくら頼み込んでも、まともなご婦人ならば誰もまともに相手にしようとしないだろう。
 かつては俺から見て「まっとう」な貴婦人を紹介しようともしたのだが、彼女らはパトリツァに言わせれば「退屈で頭の悪い腹黒偽善者」なのだそうで、そんな人間と付き合えば自分まで下らないゴミのような存在に成り下がると反発して、耳を覆いたくなるような罵詈雑言を並べられた。
 これでは当分はまともに社交界で友人を作ることは難しいだろう。

 どうしたものかと思い悩みながら、他にはどんな人物が出入りしているのか、どんな事をしたのか、できるだけ詳しく聞き出す事しかできていない。
 そのおかげでまた関与が疑わしい貴族や商人の洗い出しもできたので、それはそれで良いのだが……
 孤児院に行った時は、くれぐれも一人で子供たちの対応をしないようにとだけ言い聞かせ、当分の間は様子を見るようにする。
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