お飾りの私を愛することのなかった貴方と、不器用な貴方を見ることのなかった私

歌川ピロシキ

文字の大きさ
52 / 94
本編

D15 付き合いきれない

しおりを挟む
 朝、温かなものに包まれて、とても幸せな気分で目が覚めた。心なしか身体が軽い。
 目をあけるとエリィの腕の中だった。なんとなく気持ち良くて彼の胸に頬を摺り寄せる。子供みたいだな、とちょっと苦笑すると、ちょうど覚醒かくせいしたエリィと目が合った。

「おはよう、エリィ。夕べはおかげですごくよく眠れたよ」

 本当に、夕べの身体の重さが嘘みたい。
 やっぱりエリィと一緒にいると心だけじゃなくて身体も軽くなるみたい。彼と一緒にくっついて眠った後は、消耗した生命力が明らかに回復している。彼は治癒魔法の類は使えないはずなんだけど……とても不思議なはずなんだけど、すごく自然な事に思えてしまうのは何故なんだろう。

 そのまま一緒に起き出して軽く朝の運動をして、汗を拭いて、トリオとちょっと散歩をして。
 早めに制服に着替えて書斎でパトリツァ夫人を待った。

 登庁時間が迫る中、だいぶ僕たちを待たせて現れたパトリツァ夫人は、どこの夜会に行くの?ってくらいきっちり着飾っている。そりゃ待たされるわけだ。
 ……それにしても、ゆうべ僕のこと襲ってエリィを怒らせたのに、なんで僕が見立てたドレス着てくるかな……ちょっと神経を疑ってしまう。
 もしかして、それ見繕ったのが僕だってすっかり忘れてるのかな??

「随分と遅かったな。我々は朝の食事も鍛錬も済ませて身を清めた後だが」

 ああダメだ、エリィ最初っから頭に血が上っている。
 まぁ、出勤前にさんざん待たされた上に、現れた夫人の格好が格好だからね。僕だって一瞬「喧嘩売ってるの?」って思ったもの。

「ちょっと、エリィ……最初から喧嘩腰はダメ。おはようございます、パトリツァ夫人。朝からお呼び立てして申し訳ありません」

 何とか宥めたけれども、二人とも相当ヒートアップしているようで、感情的な言葉の応酬が続く。
 ……うん、そりゃ阿婆擦あばずれ呼ばわりはさすがに僕もかちんと来たけどさ。よりによって愛人作りまくるだけじゃ飽き足らずに児童買春に走った人が言う台詞じゃないよね。
 だいたい、僕は幼少時に巻き込まれた犯罪はともかく、自分の意思で他人と性的な関係を持ったことはないよ? 少なくとも下半身の欲求に従って生きている夫人よりは身持ちは良いつもりだ。

「エリィ、言い方。パトリツァ夫人、不快な思いをさせてしまったのは私の不徳の致すところで、申し訳ありませんでした。しかし、私はあくまでタシトゥルヌ侯爵の補佐官として、政務のお手伝いに伺っているだけです。業務を円滑に行うため私室までご用意いただいておりますが、この家の使用人ではございませんので、誤解のなきよう。エリィ、これでいいね?」

 仕方がないので僕が要点だけ話してとりなしたんだけど……
 エリィはコメカミのあたりがぴくぴくしているし、夫人は夫人で逆上して、僕がこの家を乗っ取るつもりだとか喚いてる。
 エリィが相手にしないもんだから使用人たちに訴えてるけど……そりゃ誰も相手にしないよね。
 エリィはエリィで、夫人に愛称で呼ばれてさらにヒートアップしてるし……これではお話にならない。いや、気持ちはわかるんだけどさ。

「お言葉ですが夫人、私がアナトリオ様のお相手をするのも、お子様があなたに懐かないのも、貴女が母親としての義務をすべて放棄しておられるからです。この年齢の幼子には家族の愛情が必要不可欠です。私がアナトリオ様と関わるのがお嫌なら、ご自身がお子様と向き合うべきでしょう。孤児院で縁もゆかりもない子供と遊んで楽しむのは貴女の勝手ですが、我が子を放置して良い事にはなりません。しばらく外出を控えてご自身の生活やご家族とのかかわりを見つめ直されてはいかがです?」

 もう登庁時間だし、いい加減このにらみ合いに付き合うのも嫌になったので、さっさと話をまとめて切り上げてしまった。結局、僕のこと襲った件についてもうやむやになっちゃったけど、さすがにこれだけエリィが怒ってるのを見ればもう手を出しては来ない……よね?
 あ~あ、せっかくいい気分で目覚めて、トリオも可愛くて、とってもいい朝だったのに、もう台無し。

「我々はもう登庁の時間なのでもう行きますが、今日一日このところの自分の言動を振り返って反省してください」

 付き合いきれない気分だったのはエリィも同じだったようで、冷たく言い置くとさっさと書斎を出てしまった。もちろん僕もすぐ後に続く。

 執事が閉めた扉の向こうから、甲高い獣のようなヒステリックな叫び声が聞こえたが、気にせず馬車に乗り込んで登庁した。
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

ため息ひとつ――王宮に散る花びらのように

柴田はつみ
恋愛
「離縁を、お願いしたいのです」 笑顔で、震えずに、エレナはそう言った。 夫は言葉を失った。泣いてくれれば、怒ってくれれば、まだ受け止め方があった。しかしあの静けさは、エレナがもう十分に泣き終わった後の顔だと、ヴィクトルにはわかった。 幼なじみと結ばれた三年間。すれ違いは静かに始まり、深紅のドレスの令嬢によって加速した。ため息を飲み込み、完璧な微笑みを保ち続けた公爵夫人が、最後に選んだのは――。 王宮に散る花びらのような、夫婦の崩壊と再生の物語。

七年目の裏切り 〜赴任先の夫から届く愛の手紙は、愛人の代筆でした〜

恋せよ恋
恋愛
「君は僕の最愛だ。もう二度と、君を危険に晒したくない」 命懸けの出産後、涙を流して私を抱きしめた夫ジュリアン。 その言葉通り、彼は「私を大切にするため」に夜の営みを断った。 私は、女としての寂しさを「愛されている誇り」に変え、 隣国へ赴任した夫を信じて二人の子供と家を守り続けていた。 毎週届く、情熱的な愛の手紙。タイプライターで綴られた その愛の言葉を、私は宝物のように抱きしめていた。 ……しかし、その手紙は「裏切り」だった。 夫が異国の地で、愛人と肌を重ねながら綴らせていた「偽りの愛」。 身分を隠して夫の赴任先の隣国へと向かった私が見たのは……。 果たして、貞淑な妻・メラニアが選んだ結論は……。 子供たちのため結婚生活の継続か、それとも……。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

結婚して5年、冷たい夫に離縁を申し立てたらみんなに止められています。

真田どんぐり
恋愛
ー5年前、ストレイ伯爵家の美しい令嬢、アルヴィラ・ストレイはアレンベル侯爵家の侯爵、ダリウス・アレンベルと結婚してアルヴィラ・アレンベルへとなった。 親同士に決められた政略結婚だったが、アルヴィラは旦那様とちゃんと愛し合ってやっていこうと決意していたのに……。 そんな決意を打ち砕くかのように旦那様の態度はずっと冷たかった。 (しかも私にだけ!!) 社交界に行っても、使用人の前でもどんな時でも冷たい態度を取られた私は周りの噂の恰好の的。 最初こそ我慢していたが、ある日、偶然旦那様とその幼馴染の不倫疑惑を耳にする。 (((こんな仕打ち、あんまりよーー!!))) 旦那様の態度にとうとう耐えられなくなった私は、ついに離縁を決意したーーーー。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
【3月中――完結!】 積み上がった伏線の回収目前!! 夫にも子どもにも、私は選ばれなかった。 長年の裏切りを抱え、離縁状を置いて家を出た――。 待っていたのは、凍てつく絶望。 けれど同時に、それは残酷な運命の扉が開く瞬間でもあった。 「夫は愛人と生きればいい。  今さら縋られても、裏切ったあなたを許す力など残っていない」 それでも私は誓う―― 「子どもたちの心だけは、必ず取り戻す」 歪で、完全な幸福――それとも、破滅。 “石”に翻弄された者たちの、狂おしい物語。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

処理中です...