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本編
C22 弱者の刃
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パトリツァ夫人とプルクラ、エスピーアが仕掛けた安っぽい罠にあえてはまってやり、襲撃者を次々に退けたところまでは良かったのだが、最後の最後でパトリツァ夫人がやらかしてくれた。
エスピーアがナイフをかざして襲いかかってくるのとタイミングを合わせて背後からしがみつき、僕の動きを封じたのだ。
おかげでナイフは僕の腹へと深々と吸い込まれ……エスピーアはあっさり倒したものの、ナイフに塗られたとんでもない量の毒が全身に回ってしまった。
ぐらぐらと揺れる視界の中、まだぎゃあぎゃあ喚きながらのたうちまわるエスピーアと、僕の苦しむ姿を見て狂喜乱舞するパトリツァ夫人の醜い姿が見える。実に滑稽な女だ。
美貌と、遊び人どもからの人気しか誇れるものがなく、努力を厭い、能力のある人を妬んで蔑んで貶めようといつも必死の惨めな女。
自らには何一つ誇れるものがないからこそ、甘い言葉を囁く好き者どもの言葉を鵜呑みにして、自分がいかに醜く惨めな存在か理解できない。いや、理解しようとしない。
だからエリィが自分にベタ惚れして求婚してきたと思い込むことができたんだろうけど。
君が彼に娶ってもらえたのは、エリィが僕と一緒に暮らすための条件として、国王にお前のお守りを命じられたからに他ならない。
かわいそうな人だと思って色々なところを見ないようにしてきたけれども、本当は心の奥底で嫌悪し軽蔑してしまっていた。人を憎んだり蔑んだりしてはいけないのに。
自分たちの殺害計画がいかに知的で完璧なものか声高に自慢しているけど、ここには侍女や護衛もいる。そして騒ぎを聞きつけて遠巻きに見ている野次馬の一般市民だっているんだ。
後で彼らが証言したら、もう申し開きのしようがなくなるのだという事がわかっているのだろうか。
どこまでも愚かで醜悪で惨めな女だ。
この女は、僕を最初に搾取し蹂躙した義母と同じ。誰かに称賛され、求められ、傅かれなければ自分を保てない弱い人。
そのくせ空っぽの中身を努力で埋めようなんて考えない。だから安易に他者を搾取して、その空白を埋めようとするんだ。
とりあえず、朦朧とした意識で既に流れた血液を代償に、肝機能を上げて解毒にかかるが、いったん体外に出した血液では効率が悪く、代償が足りない。咄嗟に手足の爪も代償にしたが、それでも足りずに流れる血液とともに、僕の生命が零れていくのを感じる。
治癒魔法を使うための代償がもう自分の生命しかない。これでは傷をふさいだり毒を分解できたとしても、生命そのものを失って死ぬしかない。
ああ、まただ。失われた臓器を、切断された四肢を、治してくれと請われて治癒魔法を使うたびに感じてきたあの独特の感覚。
ごっそりと、僕の生命が僕から零れ落ちていく。
この生命が全て零れ落ちたら僕は死ぬ。このまま死ぬわけにはいかない。
僕が死ぬこと自体はどうでもいいけど、僕が死んだらエリィが悲しむ。
それだけは何とかして避けなければ。
なんだか急速に、今まで感じた事もない激しく熱い感情が込み上げてきた。たぶん、これは怒りと憎悪だ。
いつもいつもこいつらの欲しがるものは取るに足らないどうでも良いものばかりで、だから僕はいちいち意に介することなく適当に与えてきた。
一歳児よりも聞き分けなく、犬猫よりも分別もない、自分の思い通りになるまで、ただひたすらにぎゃあぎゃあ泣きわめくだけの連中に、えんえんと付き合きあわされるのはどうにも鬱陶しかったから。
どうせ欲しいものが手に入るまではみっともなく喚き散らす癖に、差し出してやればすぐに例も言わずにどこかに行ってしまうのだ。さっさとくれてやった方がまだ楽だ。
でも、こいつらはその取るに足らないどうでも良いものを手に入れるために、僕の大切な、たったひとつの、自分の生命よりも大切なものを、その価値もわからず壊そうとしている。絶対に赦さない。
どんな手を使ってでも報復し、己の罪を思い知らせてやる。
とにかくあらゆる手段を用いて生き延びる可能性を探らなければ。
エスピーアがナイフをかざして襲いかかってくるのとタイミングを合わせて背後からしがみつき、僕の動きを封じたのだ。
おかげでナイフは僕の腹へと深々と吸い込まれ……エスピーアはあっさり倒したものの、ナイフに塗られたとんでもない量の毒が全身に回ってしまった。
ぐらぐらと揺れる視界の中、まだぎゃあぎゃあ喚きながらのたうちまわるエスピーアと、僕の苦しむ姿を見て狂喜乱舞するパトリツァ夫人の醜い姿が見える。実に滑稽な女だ。
美貌と、遊び人どもからの人気しか誇れるものがなく、努力を厭い、能力のある人を妬んで蔑んで貶めようといつも必死の惨めな女。
自らには何一つ誇れるものがないからこそ、甘い言葉を囁く好き者どもの言葉を鵜呑みにして、自分がいかに醜く惨めな存在か理解できない。いや、理解しようとしない。
だからエリィが自分にベタ惚れして求婚してきたと思い込むことができたんだろうけど。
君が彼に娶ってもらえたのは、エリィが僕と一緒に暮らすための条件として、国王にお前のお守りを命じられたからに他ならない。
かわいそうな人だと思って色々なところを見ないようにしてきたけれども、本当は心の奥底で嫌悪し軽蔑してしまっていた。人を憎んだり蔑んだりしてはいけないのに。
自分たちの殺害計画がいかに知的で完璧なものか声高に自慢しているけど、ここには侍女や護衛もいる。そして騒ぎを聞きつけて遠巻きに見ている野次馬の一般市民だっているんだ。
後で彼らが証言したら、もう申し開きのしようがなくなるのだという事がわかっているのだろうか。
どこまでも愚かで醜悪で惨めな女だ。
この女は、僕を最初に搾取し蹂躙した義母と同じ。誰かに称賛され、求められ、傅かれなければ自分を保てない弱い人。
そのくせ空っぽの中身を努力で埋めようなんて考えない。だから安易に他者を搾取して、その空白を埋めようとするんだ。
とりあえず、朦朧とした意識で既に流れた血液を代償に、肝機能を上げて解毒にかかるが、いったん体外に出した血液では効率が悪く、代償が足りない。咄嗟に手足の爪も代償にしたが、それでも足りずに流れる血液とともに、僕の生命が零れていくのを感じる。
治癒魔法を使うための代償がもう自分の生命しかない。これでは傷をふさいだり毒を分解できたとしても、生命そのものを失って死ぬしかない。
ああ、まただ。失われた臓器を、切断された四肢を、治してくれと請われて治癒魔法を使うたびに感じてきたあの独特の感覚。
ごっそりと、僕の生命が僕から零れ落ちていく。
この生命が全て零れ落ちたら僕は死ぬ。このまま死ぬわけにはいかない。
僕が死ぬこと自体はどうでもいいけど、僕が死んだらエリィが悲しむ。
それだけは何とかして避けなければ。
なんだか急速に、今まで感じた事もない激しく熱い感情が込み上げてきた。たぶん、これは怒りと憎悪だ。
いつもいつもこいつらの欲しがるものは取るに足らないどうでも良いものばかりで、だから僕はいちいち意に介することなく適当に与えてきた。
一歳児よりも聞き分けなく、犬猫よりも分別もない、自分の思い通りになるまで、ただひたすらにぎゃあぎゃあ泣きわめくだけの連中に、えんえんと付き合きあわされるのはどうにも鬱陶しかったから。
どうせ欲しいものが手に入るまではみっともなく喚き散らす癖に、差し出してやればすぐに例も言わずにどこかに行ってしまうのだ。さっさとくれてやった方がまだ楽だ。
でも、こいつらはその取るに足らないどうでも良いものを手に入れるために、僕の大切な、たったひとつの、自分の生命よりも大切なものを、その価値もわからず壊そうとしている。絶対に赦さない。
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とにかくあらゆる手段を用いて生き延びる可能性を探らなければ。
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