泣き虫姫と変態王子の恋物語

山田 ぽち太郎

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【2話目】行き遅れ37歳は一人で闊歩する

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我が社の受付嬢は私とエリカちゃんの2人。
お昼休憩は1人ずつ交代でとる。

就業中は私語厳禁。
これは私のモットー。
だから、エリカちゃんは始業前のあの出来事を、私に問いただす事が出来ずにヤキモキしていたに違いない。
それでも私の教えを正しく守り、仕事に専念して1日を終えた。

18時のベルが鳴る。

ロッカーに向かう途中、エリカちゃんに給湯室へ拉致された。
うんうん。偉いぞエリカちゃん。
一日中ソワソワはしてたけど、私の言い付けを破る事なくお仕事出来たね。花丸です!
そんな事を思いながら、周囲に誰も居ないか確かめる可愛い後輩を見つめる。

「やよい先輩!!!どう言う事ですか、今朝の騒動!」

鼻息荒く詰め寄ってくる姿も可愛いなんてズルいなぁ、なんて考えながら、彼女の頭を撫でて「落ち着いて?」と言葉をかける。

「落ち着けません!今朝のシステム開発部の平野さん、確か25歳の若造ですよね?やよい先輩に言い寄るなんて何を考えてるんですか!プロポーズって何ですか!?」
「いやいや。若造って、エリカちゃんの方が歳下じゃない。まぁ、でも確かに、こんなおばちゃんを揶揄わなくても良いのにねぇ」
「んもう!!いつも言ってますけど、やよい先輩はおばちゃんじゃないですよ!」
「ふふふ。エリカちゃんはアラフォーの私にも優しくしてくれるから好きよ~」

ぎゅっ、と抱き締めて彼女の背中をポンポンと優しく叩く。
本当に出来た後輩。大好きよ。

「私の方がやよい先輩のこと大好きです!やよい先輩は女子社員の憧れなんですよ!優しくて、上品で、そして格好良いんですから」
「きゃ~。嬉しい事言ってくれて有り難う。こんなに可愛い後輩に慕われて幸せ者だわ」
「先輩は本当に素敵な女性なんですからね。年齢とか些細な事で自分を卑下しないでください。…偉そうに、すみません」

バツが悪そうな顔をして、シュンと謝る彼女に出来るだけ優しく微笑んで、もう一度背中をポンポンと叩く。

「有り難う。今後は気をつけるね。…さ!帰る準備しましょうか」
「はい。…………っいえ!プロポーズの話、教えて下さい!危ない、やよい先輩お得意の聞き流しをされるとこだった」
「ん~、残念。流されてはくれなかったか~」
「やよい先輩の後輩ですからね!……でも、聞かれたくない事なら無理にとは言いませんけど」
「ふふふ。正直なところ、私自身もよく分からないのよね。忘年会の日に初めて話して、いきなり『結婚しませんか』って言われただけなの」
「お付き合いしませんか?じゃなくて、いきなり結婚ですか?何考えてるのか分からない人ですね…」
「12歳上のおばちゃんを揶揄っただけなんだろうけど、今朝みたいなことされると困っちゃうよね」
「先輩、また年齢の事言ってます、もう!」

ごめんごめん、と謝りながら、エリカちゃんの両肩を背後から押して給湯室を後にする。
「先輩は年齢に囚われすぎです」とブツクサ言う彼女を宥めながら、20代の彼女には伝わらないんだろうな、と小さく溜息を吐いた。


身支度を終え、ロッカールームから出るとロングのダッフルコートに身を包んだ、長身の美男子が目に入る。

「やよいさん、行きましょうか」

彼を見て思わず顔を顰めてしまった私に、エスコートするかの様に左腕を差し出して来た件の男。

まさか、この腕を取れと言うのか。
馬鹿にしないで欲しい。

年齢と言う呪いに蝕まれて身動きの取れない行き遅れの女が、眉目秀麗な若い男にエスコートされるなんて絵空事、無理に決まっている。

周囲からしてもそんな地獄絵図は見たくないだろう。

「一人で歩けます。駅前のスタバで良いですか?」

スタスタと彼の前を通り過ぎ、エントランスホールを普段より速足で歩く。
極めて冷静に、無表情で。

そう、まるで彼には興味ありませんと言う態度で。

「一人で歩かせたくないから、なんですけどね」

歩く事に集中していた私には背後の彼の言葉は聞こえなかった。
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