2 / 15
【2話目】行き遅れ37歳は一人で闊歩する
しおりを挟む
我が社の受付嬢は私とエリカちゃんの2人。
お昼休憩は1人ずつ交代でとる。
就業中は私語厳禁。
これは私のモットー。
だから、エリカちゃんは始業前のあの出来事を、私に問いただす事が出来ずにヤキモキしていたに違いない。
それでも私の教えを正しく守り、仕事に専念して1日を終えた。
18時のベルが鳴る。
ロッカーに向かう途中、エリカちゃんに給湯室へ拉致された。
うんうん。偉いぞエリカちゃん。
一日中ソワソワはしてたけど、私の言い付けを破る事なくお仕事出来たね。花丸です!
そんな事を思いながら、周囲に誰も居ないか確かめる可愛い後輩を見つめる。
「やよい先輩!!!どう言う事ですか、今朝の騒動!」
鼻息荒く詰め寄ってくる姿も可愛いなんてズルいなぁ、なんて考えながら、彼女の頭を撫でて「落ち着いて?」と言葉をかける。
「落ち着けません!今朝のシステム開発部の平野さん、確か25歳の若造ですよね?やよい先輩に言い寄るなんて何を考えてるんですか!プロポーズって何ですか!?」
「いやいや。若造って、エリカちゃんの方が歳下じゃない。まぁ、でも確かに、こんなおばちゃんを揶揄わなくても良いのにねぇ」
「んもう!!いつも言ってますけど、やよい先輩はおばちゃんじゃないですよ!」
「ふふふ。エリカちゃんはアラフォーの私にも優しくしてくれるから好きよ~」
ぎゅっ、と抱き締めて彼女の背中をポンポンと優しく叩く。
本当に出来た後輩。大好きよ。
「私の方がやよい先輩のこと大好きです!やよい先輩は女子社員の憧れなんですよ!優しくて、上品で、そして格好良いんですから」
「きゃ~。嬉しい事言ってくれて有り難う。こんなに可愛い後輩に慕われて幸せ者だわ」
「先輩は本当に素敵な女性なんですからね。年齢とか些細な事で自分を卑下しないでください。…偉そうに、すみません」
バツが悪そうな顔をして、シュンと謝る彼女に出来るだけ優しく微笑んで、もう一度背中をポンポンと叩く。
「有り難う。今後は気をつけるね。…さ!帰る準備しましょうか」
「はい。…………っいえ!プロポーズの話、教えて下さい!危ない、やよい先輩お得意の聞き流しをされるとこだった」
「ん~、残念。流されてはくれなかったか~」
「やよい先輩の後輩ですからね!……でも、聞かれたくない事なら無理にとは言いませんけど」
「ふふふ。正直なところ、私自身もよく分からないのよね。忘年会の日に初めて話して、いきなり『結婚しませんか』って言われただけなの」
「お付き合いしませんか?じゃなくて、いきなり結婚ですか?何考えてるのか分からない人ですね…」
「12歳上のおばちゃんを揶揄っただけなんだろうけど、今朝みたいなことされると困っちゃうよね」
「先輩、また年齢の事言ってます、もう!」
ごめんごめん、と謝りながら、エリカちゃんの両肩を背後から押して給湯室を後にする。
「先輩は年齢に囚われすぎです」とブツクサ言う彼女を宥めながら、20代の彼女には伝わらないんだろうな、と小さく溜息を吐いた。
身支度を終え、ロッカールームから出るとロングのダッフルコートに身を包んだ、長身の美男子が目に入る。
「やよいさん、行きましょうか」
彼を見て思わず顔を顰めてしまった私に、エスコートするかの様に左腕を差し出して来た件の男。
まさか、この腕を取れと言うのか。
馬鹿にしないで欲しい。
年齢と言う呪いに蝕まれて身動きの取れない行き遅れの女が、眉目秀麗な若い男にエスコートされるなんて絵空事、無理に決まっている。
周囲からしてもそんな地獄絵図は見たくないだろう。
「一人で歩けます。駅前のスタバで良いですか?」
スタスタと彼の前を通り過ぎ、エントランスホールを普段より速足で歩く。
極めて冷静に、無表情で。
そう、まるで彼には興味ありませんと言う態度で。
「一人で歩かせたくないから、なんですけどね」
歩く事に集中していた私には背後の彼の言葉は聞こえなかった。
お昼休憩は1人ずつ交代でとる。
就業中は私語厳禁。
これは私のモットー。
だから、エリカちゃんは始業前のあの出来事を、私に問いただす事が出来ずにヤキモキしていたに違いない。
それでも私の教えを正しく守り、仕事に専念して1日を終えた。
18時のベルが鳴る。
ロッカーに向かう途中、エリカちゃんに給湯室へ拉致された。
うんうん。偉いぞエリカちゃん。
一日中ソワソワはしてたけど、私の言い付けを破る事なくお仕事出来たね。花丸です!
そんな事を思いながら、周囲に誰も居ないか確かめる可愛い後輩を見つめる。
「やよい先輩!!!どう言う事ですか、今朝の騒動!」
鼻息荒く詰め寄ってくる姿も可愛いなんてズルいなぁ、なんて考えながら、彼女の頭を撫でて「落ち着いて?」と言葉をかける。
「落ち着けません!今朝のシステム開発部の平野さん、確か25歳の若造ですよね?やよい先輩に言い寄るなんて何を考えてるんですか!プロポーズって何ですか!?」
「いやいや。若造って、エリカちゃんの方が歳下じゃない。まぁ、でも確かに、こんなおばちゃんを揶揄わなくても良いのにねぇ」
「んもう!!いつも言ってますけど、やよい先輩はおばちゃんじゃないですよ!」
「ふふふ。エリカちゃんはアラフォーの私にも優しくしてくれるから好きよ~」
ぎゅっ、と抱き締めて彼女の背中をポンポンと優しく叩く。
本当に出来た後輩。大好きよ。
「私の方がやよい先輩のこと大好きです!やよい先輩は女子社員の憧れなんですよ!優しくて、上品で、そして格好良いんですから」
「きゃ~。嬉しい事言ってくれて有り難う。こんなに可愛い後輩に慕われて幸せ者だわ」
「先輩は本当に素敵な女性なんですからね。年齢とか些細な事で自分を卑下しないでください。…偉そうに、すみません」
バツが悪そうな顔をして、シュンと謝る彼女に出来るだけ優しく微笑んで、もう一度背中をポンポンと叩く。
「有り難う。今後は気をつけるね。…さ!帰る準備しましょうか」
「はい。…………っいえ!プロポーズの話、教えて下さい!危ない、やよい先輩お得意の聞き流しをされるとこだった」
「ん~、残念。流されてはくれなかったか~」
「やよい先輩の後輩ですからね!……でも、聞かれたくない事なら無理にとは言いませんけど」
「ふふふ。正直なところ、私自身もよく分からないのよね。忘年会の日に初めて話して、いきなり『結婚しませんか』って言われただけなの」
「お付き合いしませんか?じゃなくて、いきなり結婚ですか?何考えてるのか分からない人ですね…」
「12歳上のおばちゃんを揶揄っただけなんだろうけど、今朝みたいなことされると困っちゃうよね」
「先輩、また年齢の事言ってます、もう!」
ごめんごめん、と謝りながら、エリカちゃんの両肩を背後から押して給湯室を後にする。
「先輩は年齢に囚われすぎです」とブツクサ言う彼女を宥めながら、20代の彼女には伝わらないんだろうな、と小さく溜息を吐いた。
身支度を終え、ロッカールームから出るとロングのダッフルコートに身を包んだ、長身の美男子が目に入る。
「やよいさん、行きましょうか」
彼を見て思わず顔を顰めてしまった私に、エスコートするかの様に左腕を差し出して来た件の男。
まさか、この腕を取れと言うのか。
馬鹿にしないで欲しい。
年齢と言う呪いに蝕まれて身動きの取れない行き遅れの女が、眉目秀麗な若い男にエスコートされるなんて絵空事、無理に決まっている。
周囲からしてもそんな地獄絵図は見たくないだろう。
「一人で歩けます。駅前のスタバで良いですか?」
スタスタと彼の前を通り過ぎ、エントランスホールを普段より速足で歩く。
極めて冷静に、無表情で。
そう、まるで彼には興味ありませんと言う態度で。
「一人で歩かせたくないから、なんですけどね」
歩く事に集中していた私には背後の彼の言葉は聞こえなかった。
0
あなたにおすすめの小説
灰かぶりの姉
吉野 那生
恋愛
父の死後、母が連れてきたのは優しそうな男性と可愛い女の子だった。
「今日からあなたのお父さんと妹だよ」
そう言われたあの日から…。
* * *
『ソツのない彼氏とスキのない彼女』のスピンオフ。
国枝 那月×野口 航平の過去編です。
Blue Moon 〜小さな夜の奇跡〜
葉月 まい
恋愛
ーー私はあの夜、一生分の恋をしたーー
あなたとの思い出さえあれば、この先も生きていける。
見ると幸せになれるという
珍しい月 ブルームーン。
月の光に照らされた、たったひと晩の
それは奇跡みたいな恋だった。
‧₊˚✧ 登場人物 ✩˚。⋆
藤原 小夜(23歳) …楽器店勤務、夜はバーのピアニスト
来栖 想(26歳) …新進気鋭のシンガーソングライター
想のファンにケガをさせられた小夜は、
責任を感じた想にバーでのピアノ演奏の代役を頼む。
それは数年に一度の、ブルームーンの夜だった。
ひと晩だけの思い出のはずだったが……
12年目の恋物語
真矢すみれ
恋愛
生まれつき心臓の悪い少女陽菜(はるな)と、12年間同じクラス、隣の家に住む幼なじみの男の子叶太(かなた)は学校公認カップルと呼ばれるほどに仲が良く、同じ時間を過ごしていた。
だけど、陽菜はある日、叶太が自分の身体に責任を感じて、ずっと一緒にいてくれるのだと知り、叶太から離れることを決意をする。
すれ違う想い。陽菜を好きな先輩の出現。二人を見守り、何とか想いが通じるようにと奔走する友人たち。
2人が結ばれるまでの物語。
第一部「12年目の恋物語」完結
第二部「13年目のやさしい願い」完結
第三部「14年目の永遠の誓い」←順次公開中
※ベリーズカフェと小説家になろうにも公開しています。
今宵、薔薇の園で
天海月
恋愛
早世した母の代わりに妹たちの世話に励み、婚期を逃しかけていた伯爵家の長女・シャーロットは、これが最後のチャンスだと思い、唐突に持ち込まれた気の進まない婚約話を承諾する。
しかし、一か月も経たないうちに、その話は先方からの一方的な申し出によって破談になってしまう。
彼女は藁にもすがる思いで、幼馴染の公爵アルバート・グレアムに相談を持ち掛けるが、新たな婚約者候補として紹介されたのは彼の弟のキースだった。
キースは長年、シャーロットに思いを寄せていたが、遠慮して距離を縮めることが出来ないでいた。
そんな弟を見かねた兄が一計を図ったのだった。
彼女はキースのことを弟のようにしか思っていなかったが、次第に彼の情熱に絆されていく・・・。
「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」
透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。
そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。
最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。
仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕!
---
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる