泣き虫姫と変態王子の恋物語

山田 ぽち太郎

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【4話目】公衆の面前で羞恥プレイ

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「…平野さんとお話ししたのは、年末の忘年会が初めてだと記憶していますが」

コホン、と咳払いして本題へ入る。
彼の甘々なハニートラップにかからないよう、彼の瞳から視線を逸らした。

「も~、だから、僕の事は名前で呼んで?やよいさん、全社員の名前覚えてるでしょ?僕の名前も知ってるでしょ?」
「名前を呼ぶ道理がありません」
「ねぇ、お願い。じゃないと一生懸命に無機質に話そうと努力してる僕のお姫様が可愛すぎてこの場で押し倒したくなる」
「…!……冗談ですよね?」
「僕、今まで有言実行でやって来たからなぁ。それにやよいさん相手には誠実で居たいから、冗談は言わない」

急に真面目な顔をした彼の瞳に捕まって、息も吐けなくなってしまう。

誠実で居たいなら押し倒すなんて言わないでよ。
お姫様って言っても違和感がないのは、彼の容姿のお陰なの?一体どう言う人生を歩いて来たら、こんな新人類が出来上がるって言うの。

「…智正トモマサさん、忘年会での話は流石に冗談ですよね?人前で揶揄われる身にもなって下さい」
「冗談じゃないし、揶揄ってもないよ。僕はやよいさんと結婚する」
「だから!付き合ってもないのに結婚なんて、何の冗談ですかって聞いてるんですよ!!」

思いの外大きな声になってしまった。幸い、店内は帰宅途中で立ち寄った利用客で埋め尽くされており、悪目立ちする事はなかった。

「やよいさんにとって結婚は、お付き合いの延長線上にあるものなの?」
「…お付き合いしたら必ず結婚に結びつくとは思いませんが、少なくとも結婚する以前にはお互いを知る為にお付き合いする期間があって当然だとは思ってます」
「じゃあ、今日から僕たちは恋人同士ってことで」

満面の笑みを絵に描いたような笑顔で、滔々とうとうと話す彼を私は呆然と眺めるしかなかった。

「恋人に敬語も変だから、今から敬語はナシで。もし敬語を使ったら、その度にキスするからそのつもりでね」
「いやいや…、そんな横暴が通ると思ってるんですか……?」
「早速使っちゃうって、やよいさん、積極的だね?」
「いやいやいやいや!こんな公衆の面前でキスとかあり得ませんよね!!!!」

口角を上げながら、私の頬に両手をそわせ、そのまま綺麗な顔面を近付けてくる彼に全力でストップをかける。

「うん。って事は公衆の面前でなければキスしても良いって事だよね?僕の家で良い?帰ろうか」

テキパキとテーブル上のカップを片付けて、私にマフラーを器用に巻き付け、彼は私の右手を拘束した。

わ、恋人繋ぎ、初めてだ…。今まで付き合って来た人は、恥ずかしいとか暑いとか、手も繋がせてくれなかったから…。

ぽや~、と考えている内に混み合う店内を抜けて、イルミネーションが点灯する街中に出る。
クリスマスとお正月が終わり、残りの冬のイベントはバレンタインデーだ。イルミネーションもそれに合わせてか、ピンクや赤のものに変わっている。

人生初の恋人繋ぎに絆されて、ついつい前を歩く彼を素直に追ってしまう。
黙ってついてくる私を不思議に思ったのか、ふと彼が立ち止まる。

「やよいさん、さっきから黙ってどうしたの?気分でも悪い?お腹空いちゃった?」

俯く私に膝を折って目線を合わせて来る彼に、上手く起動しない頭をフル稼働させて、ようやく言葉を紡ぎ出す。

「だっ……て、こんな風にキラキラした街を、こんな風に手を繋いで歩くのなんて初めてだから、何か、…ドキドキしちゃったの…、仕方ないじゃんか!」

37歳にもなって恥ずかしいくらいの言い訳だ。
「仕方ないじゃん」って、「じゃん」って結ぶのが何だか若造りの様で気恥ずかしくて、最後に「か」を付けたのだけれど、どっちにしろ年甲斐も無い言葉遣いになってしまった。

37歳なのに、みっともない。外見だけ歳をとって、中身はちっとも成長しない。
だから、下卑た上司にあからさまなセクハラやパワハラを受けるのだ。
きっと目の前の彼の目にも、世間慣れしていない年増の狼狽が映っているだろう。

「…反則だよ、やよいさん」

呟く彼に「何が?」と聞き返す前に、私の唇は彼のそれに塞がれてしまった。

いやいやいやいや、ここ、公衆の面前じゃん!
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