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【7話目】命短し仕事せよ乙女
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一夜明け、順調に職務をこなし終業10分前。
人知れず、冷静に、私はのたうち回っていた。
もちろん脳内で。
(…っ、あ゛ーーーーーー!!!!小っ恥ずかしい!!)
昨夜の自分の行いを振り返ると、居ても立っても居られない。
いや、冷静に仕事しますけどね。
ちゃんと座って笑顔で対応してますけどね。
(まるで高校生、いや、下手したら中学生でももっと上手く立ち回るかも…)
深く重い溜息が出そうになるが、対応中のお客様に気取られない様に、笑顔を更に厚くする。
「あの、平野さんって、いつも素敵な笑顔で対応してくれますよね。俺、ここへの営業、すごく楽しみなんですよ」
彼は確か老舗百貨店・池田屋の営業マン、山梨さんだ。今度の催事に我が社の下着をメインに出展したいと提案してくれているらしい。
うんうん。我が社の下着はデザインも品質も一流だからね。どこの百貨店に出しても遜色ないわ。
この子、なかなか見る目あるじゃない。
「恐れ入ります。弊社に格別な評価を頂いている池田屋様に、その様なお言葉を頂けるなんて業務の励みになります。ありがとうございます」
「いや、これは業務関係なく個人の感想なんですが…。…ハハハ、いや、また今度」
出しかけた名刺を胸ポケットにしまい、そそくさと退散する山梨さんを見送りながら、エリカちゃんがボソリと耳打ちする。
「出た、やよい先輩の【個人感想拒否】攻撃」
「…エリカちゃん、何それ」
「だってー、今のもですけど、明らかに個人的にお付き合いしたそうな人の感想を、会社名での感想に置き換えるだけで『お前の感想は御社の感想。己の社名に泥塗りたいのか?』って日々牽制してますもん、先輩」
「それが受付嬢の務めだもの」
「やよい先輩は美し過ぎるから、毎日の様にナンパされちゃいますもんね。私は受付嬢になって3回くらいですよ、個人的に名刺を頂いたのって」
「エリカちゃんは高嶺の花だから、声を掛けやすそうな私に取り敢えず渡してるんじゃないかな」
「もー、先輩は自分の魅力に疎過ぎますって!」
唇を尖らせて「本当に先輩は美しくて綺麗なんですからね!」と言ってくれるエリカちゃんが可愛くて、終業ベルが鳴ったことに気付かなかった。
「やよいさん、僕、外で待ってますね?」
急に耳元で囁かれて、跳び上がるくらいにビックリしてしまった。制服を着ていないプライベートなら、大きな声を出していたと思う。終業後と言えど、まだ受付嬢のスイッチを切っていない。お陰で、声の響くエントランスホールに私の雄叫びがこだますことはなかった。
「…平野さん、急に声をかけられたらビックリします」
「ん?誰ですか?」
「………」
「………」
「……………智正、くん…。今後は、急に背後から耳元で話しかけてこないで下さい」
「分かりました。会社では控えます」
底意地の悪い笑みをにーーっこりと浮かべて、右手を左胸にあてながら恭しくお辞儀をする彼。
「では、僕は外で待ってますので、急いで帰り支度をして来て下さいね」
「わざわざ、寒いところで待たなくても…。昨日みたいに屋内で待っていたらどうですか?」
「はい。寒いところで待ちますので…」
「だから、僕が凍える前に急いで出てきて下さいね」と、至高の職人が作り上げたかのような最高級の笑顔を、惜しげもなく披露しながら、左手の時計を人差し指でトントンと指し示す。最後にダメ押しの笑顔をこぼし「後で」と言い残して、その場を去って行った。
着いて行くと言い張るエリカちゃんを何とか宥めて、ロッカールームで軽くお化粧直しをした私の顔は、数年振りに乙女に戻っていた。
人知れず、冷静に、私はのたうち回っていた。
もちろん脳内で。
(…っ、あ゛ーーーーーー!!!!小っ恥ずかしい!!)
昨夜の自分の行いを振り返ると、居ても立っても居られない。
いや、冷静に仕事しますけどね。
ちゃんと座って笑顔で対応してますけどね。
(まるで高校生、いや、下手したら中学生でももっと上手く立ち回るかも…)
深く重い溜息が出そうになるが、対応中のお客様に気取られない様に、笑顔を更に厚くする。
「あの、平野さんって、いつも素敵な笑顔で対応してくれますよね。俺、ここへの営業、すごく楽しみなんですよ」
彼は確か老舗百貨店・池田屋の営業マン、山梨さんだ。今度の催事に我が社の下着をメインに出展したいと提案してくれているらしい。
うんうん。我が社の下着はデザインも品質も一流だからね。どこの百貨店に出しても遜色ないわ。
この子、なかなか見る目あるじゃない。
「恐れ入ります。弊社に格別な評価を頂いている池田屋様に、その様なお言葉を頂けるなんて業務の励みになります。ありがとうございます」
「いや、これは業務関係なく個人の感想なんですが…。…ハハハ、いや、また今度」
出しかけた名刺を胸ポケットにしまい、そそくさと退散する山梨さんを見送りながら、エリカちゃんがボソリと耳打ちする。
「出た、やよい先輩の【個人感想拒否】攻撃」
「…エリカちゃん、何それ」
「だってー、今のもですけど、明らかに個人的にお付き合いしたそうな人の感想を、会社名での感想に置き換えるだけで『お前の感想は御社の感想。己の社名に泥塗りたいのか?』って日々牽制してますもん、先輩」
「それが受付嬢の務めだもの」
「やよい先輩は美し過ぎるから、毎日の様にナンパされちゃいますもんね。私は受付嬢になって3回くらいですよ、個人的に名刺を頂いたのって」
「エリカちゃんは高嶺の花だから、声を掛けやすそうな私に取り敢えず渡してるんじゃないかな」
「もー、先輩は自分の魅力に疎過ぎますって!」
唇を尖らせて「本当に先輩は美しくて綺麗なんですからね!」と言ってくれるエリカちゃんが可愛くて、終業ベルが鳴ったことに気付かなかった。
「やよいさん、僕、外で待ってますね?」
急に耳元で囁かれて、跳び上がるくらいにビックリしてしまった。制服を着ていないプライベートなら、大きな声を出していたと思う。終業後と言えど、まだ受付嬢のスイッチを切っていない。お陰で、声の響くエントランスホールに私の雄叫びがこだますことはなかった。
「…平野さん、急に声をかけられたらビックリします」
「ん?誰ですか?」
「………」
「………」
「……………智正、くん…。今後は、急に背後から耳元で話しかけてこないで下さい」
「分かりました。会社では控えます」
底意地の悪い笑みをにーーっこりと浮かべて、右手を左胸にあてながら恭しくお辞儀をする彼。
「では、僕は外で待ってますので、急いで帰り支度をして来て下さいね」
「わざわざ、寒いところで待たなくても…。昨日みたいに屋内で待っていたらどうですか?」
「はい。寒いところで待ちますので…」
「だから、僕が凍える前に急いで出てきて下さいね」と、至高の職人が作り上げたかのような最高級の笑顔を、惜しげもなく披露しながら、左手の時計を人差し指でトントンと指し示す。最後にダメ押しの笑顔をこぼし「後で」と言い残して、その場を去って行った。
着いて行くと言い張るエリカちゃんを何とか宥めて、ロッカールームで軽くお化粧直しをした私の顔は、数年振りに乙女に戻っていた。
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