泣き虫姫と変態王子の恋物語

山田 ぽち太郎

文字の大きさ
8 / 15

【8話目】恋バナのお供は甘目の玉子焼き

しおりを挟む
手料理が食べたい、と駄々をこねられて、連れ立って近所のスーパーでお買い物。

何が食べたいの?と聞いたら
何故か畏敬のまなこを向けられて
自分の食べたいと思う物が作れるの?と聞き返された。
なんじゃそら。

「この歳ですから、ある程度は作れますよ~。異国の料理は無理だけど」
「…10代でも作れる人は作れるし、50代でも料理が出来ない人も居るよ」

彼は少しムスッとした顔で、買い物カゴを手に取った私の腕を優しく掴む。

「…カゴ。これからは僕が持つから」

ソワソワ、と心の柔らかい部分が刺激される。
女の子扱いされたのなんて何年振りだろう。

「やよいさんが料理が出来るのは、やよいさん自身の努力の結果でしょ。年齢だけが人を成長させる訳じゃないよね」

野菜を選びながらポツリと呟いた彼は、惚ける私に優しく微笑んだ。あの蜂蜜みたいな蕩ける笑顔だ。



「信じられない。同じキッチンなのに、出て来る料理のクオリティがまるで違う!」
「いやいや、褒め過ぎだよ。そんなに手の込んだ料理じゃないよ」
「やよいさんにとってはそうでも、僕にとっては違うんだって。素直に言葉を受け取りなさい」
「…有り難う」
「僕こそリクエストに応えてくれてありがとう」

ほうれん草のお浸し、カレイの煮付け、玉子焼き、白菜と肉団子の中華風スープ
あと常備菜を少々。

「頂きますしても良い?」
「ふふふ。うん、どうぞ、召し上がれ」

頂きます!と同時に、ガツガツと頬張る彼に自然と笑みがこぼれる。勢い良く食べているけれど、とても上品な箸運びで、美少年はこんな所作まで美しいんだなぁと感動した。

「玉子焼き!すごく僕の好きな味。…この玉子焼きが、お弁当に入ってたら仕事頑張れるなぁ」
「そうだねぇ。玉子焼きがお弁当に入ってたらテンション上がるよねぇ」
「うんうん。今、僕はやよいさんにお弁当作って欲しい!ってリクエストしたつもりなんだけどね?」
「え?…え?あ、そう、なの?」
「無理にとは言わないけどさ、作って貰えたらデスマーチでも秒で仕事終わらせてしまえそう」

ニコニコと食事を口に運ぶ彼を見たら、もっと沢山の料理を食べさせたくなってしまう。これは愛情なのか、母性なのか。

「ところで、今日の本題。…どうして私の隣人なの?」

スープの肉団子を頬張っていた彼は、私に待ってね、と言う様に目配せをして、スープを一口啜って口内を自由にしてからその問いに答えてくれた。

「本当に偶然だよ。去年の春、引っ越し先を探していた時に、偶然帰宅途中のやよいさんと同じ電車に乗って、何となく着いて行ったらやよいさん、このマンションに入って行って、何となーく調べたら偶然にも一部屋空きがあって、んで契約してみたら偶然やよいさんのお隣さんだったんだよね」

それ、ギリギリアウトじゃない?と言う言葉は、私の顔面が雄弁に語ってくれた。

「電車が一緒になったのは本当に偶然だもん。セーフ、セーフ」

そこから先が問題なんじゃん…。
…ん?去年の春に引っ越して来たって事は、随分前から私の事を知ってたって事?

「…やよいさんはさ、全社員の顔と名前を覚えてるのに、隣人の僕の存在にはちっとも気付かなかったよね。僕だけじゃなくて、やよいさんの周囲の環境に全く興味がない、みたいな」

そうかも知れない。いつの間にか私は、自宅と会社の往復に専念していて、私を取り巻く事柄を見るとも無しに傍観していた気がする。
自分の人生に積極的になれず、ただ、過ぎ去るだけ。

「悔しかった。僕が勝手に好きなだけだったけどさ、僕はやよいさんの事好きなのに、その想いに気付いてもらえなくて。本人は毎日の色んな事に一人で傷付いてるし、慰めも出来なくて、悔しかったな」
「…智正くん……」
「まぁ、これからは全力で慰めるし、そもそも傷付けもしないけどね」

いたずらっ子の様に笑う彼に飛び付いてしまいそうになる。
そうなの、私、傷付いてたの。毎日に摩耗されてた。
気付いてくれて有り難う。
守るって言ってくれて有り難う。


「でも、そんな辛く悔しい長い片想いも、忘年会後にやよいさんがベランダで雄叫びを上げてくれた事で完全に報われたけどね」

おかわりしてくるね!と席を立つ彼を、愕然とした面持ちで見送った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

とっていただく責任などありません

まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、 団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。 この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!? ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。 責任を取らなければとセルフイスから、 追いかけられる羽目に。

今宵、薔薇の園で

天海月
恋愛
早世した母の代わりに妹たちの世話に励み、婚期を逃しかけていた伯爵家の長女・シャーロットは、これが最後のチャンスだと思い、唐突に持ち込まれた気の進まない婚約話を承諾する。 しかし、一か月も経たないうちに、その話は先方からの一方的な申し出によって破談になってしまう。 彼女は藁にもすがる思いで、幼馴染の公爵アルバート・グレアムに相談を持ち掛けるが、新たな婚約者候補として紹介されたのは彼の弟のキースだった。 キースは長年、シャーロットに思いを寄せていたが、遠慮して距離を縮めることが出来ないでいた。 そんな弟を見かねた兄が一計を図ったのだった。 彼女はキースのことを弟のようにしか思っていなかったが、次第に彼の情熱に絆されていく・・・。

【完結】一番腹黒いのはだあれ?

やまぐちこはる
恋愛
■□■ 貧しいコイント子爵家のソンドールは、貴族学院には進学せず、騎士学校に通って若くして正騎士となった有望株である。 三歳でコイント家に養子に来たソンドールの生家はパートルム公爵家。 しかし、関わりを持たずに生きてきたため、自分が公爵家生まれだったことなどすっかり忘れていた。 ある日、実の父がソンドールに会いに来て、自分の出自を改めて知り、勝手なことを言う実父に憤りながらも、生家の騒動に巻き込まれていく。

Short stories

美希みなみ
恋愛
「咲き誇る花のように恋したい」幼馴染の光輝の事がずっと好きな麻衣だったが、光輝は麻衣の妹の結衣と付き合っている。その事実に、麻衣はいつも笑顔で自分の思いを封じ込めてきたけど……? 切なくて、泣ける短編です。

迷子の会社員、異世界で契約取ったら騎士さまに溺愛されました!?

翠月 瑠々奈
恋愛
気づいたら見知らぬ土地にいた。 衣食住を得るため偽の婚約者として契約獲得! だけど……? ※過去作の改稿・完全版です。 内容が一部大幅に変更されたため、新規投稿しています。保管用。

【完結】あなたに恋愛指南します

夏目若葉
恋愛
大手商社の受付で働く舞花(まいか)は、訪問客として週に一度必ず現れる和久井(わくい)という男性に恋心を寄せるようになった。 お近づきになりたいが、どうすればいいかわからない。 少しずつ距離が縮まっていくふたり。しかし和久井には忘れられない女性がいるような気配があって、それも気になり…… 純真女子の片想いストーリー 一途で素直な女 × 本気の恋を知らない男 ムズキュンです♪

【完結】第一王子と侍従令嬢の将来の夢

かずえ
恋愛
第一王子は、常に毒を盛られ、すっかり生きることに疲れていた。子爵令嬢は目が悪く、日常生活にも支障が出るほどであったが、育児放棄され、とにかく日々を送ることに必死だった。 12歳で出会った二人は、大人になることを目標に、協力しあう契約を交わす。

灰かぶりの姉

吉野 那生
恋愛
父の死後、母が連れてきたのは優しそうな男性と可愛い女の子だった。 「今日からあなたのお父さんと妹だよ」 そう言われたあの日から…。 * * * 『ソツのない彼氏とスキのない彼女』のスピンオフ。 国枝 那月×野口 航平の過去編です。

処理中です...