泣き虫姫と変態王子の恋物語

山田 ぽち太郎

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【9話目】波乱の仕事納め

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12/28仕事納めの日。
毎年仕事納めの夜は、会社の忘年会で締め括る。

今回は、営業部の近くの席配置となり、少しゲンナリしていた。普段から何かと絡んでくる、営業部のセクハラ部長が居るからだ。

「美人受付嬢にお酌をしてもらえるなんて、今年も頑張って良かったなぁ、お前たち!」

ガッハハハーと快活に笑う彼は、原瀬 九太郎ハラセ クタロウ。働き盛りの51歳。営業畑で仕事をして、叩き上げで部長までのぼりつめた。

「あの平野さんにお酌して貰えるなんて、夢の様です!来年も営業頑張ります!また来年もお酌お願いします!!」

営業部の面々のグラスにビールを満たす。私のお酌で我が社の営業成績が上がるのなら、何万回だってお酌して回る。

「営業先から叱られて帰って来ても、平野さんの『お疲れ様です』って言葉に一瞬で癒されるもんな!」
「女の私も平野さんの『行ってらっしゃい』に元気付けられてます」

ワイワイ盛り上がっていると、原瀬部長が私の肩を強引に引き寄せて下卑た笑いを浴びせて来た。

「お前ら、いくら平野が入社15年目のベテラン受付嬢だからって、煽て過ぎじゃないのかぁ?お客さんだって、どうせ受付してもらうなら、20代のピチピチした可愛い子が良いだろうにね~」

ね~、と私の隣にいるエリカちゃんに下品な笑いを向ける。慌てて原瀬部長を落ち着かせようと、エリカちゃんと原瀬部長の間に割って入る。

「そうですね、特にエリカちゃんは可愛らしい子ですから。私の自慢の後輩です」
「だからぁ、俺の隣は平野みたいな行き遅れの年増じゃなくて、彼女みたいなピチピチした子にしてくれって言ってんの!」

ドンっと、胸元を突き飛ばされてワタワタとよろける。それを抱き止めてくれたのが、智正くんだった。

「女性を突き飛ばすなんて、営業部長さんは随分と酔っていらっしゃる様ですね。もう帰ったらどうですか?」
「あぁ?システム開発部の若造が、偉そうな口叩くな!俺らが会社で一番生産性を持ってるんだぞ!お前らの給料は俺らの頑張りで出てるんだからなぁ!!」
「その頑張りを根刮ぎ駄目にしてる奴が偉そうな口叩くなよ」

しーん、と会場が静まる。隣ではエリカちゃんが唸り声を上げて今、まさに飛びかからんと言う勢いだ。エリカちゃんは元ヤンで、喧嘩っ早いのが唯一の欠点。だから、このセクハラ部長、もとい原瀬部長からは距離を保たせたかったのに…。

「なーーんだ、お前。やけに突っ掛かるじゃねぇか。アレか?平野の事好きなのか?だとしたら悪かったな、今、勢いでコイツの胸触っちまったよ!俺としてはこんな年増の胸なんてこっちから願い下げだけどなぁ。何も年季の入った型落ち品に執着せんでも、お前の面ならよりどりみどりだろうに」

ぷはは、と嘲笑を酒臭い息と共に吐き出した原瀬部長に、会場全員が共通思念を持った事だろう。
取り分け隣のエリカちゃんと、背後の智正くんは相当な度量で原瀬部長を睨み倒している。

「………私、酔ったみたい!平野さん、ちょっと付き合って下さい!!!エリカちゃん、エリカちゃん、会場あっち側の端の端の端に居る秘書課の須藤さんにもお酌して来て!すぐ!今すぐに!!!!」

エリカちゃんにビール瓶を持たせると、サン・ハイ!と立ち上がらせて今の位置から正反対の方向へ回れ右をさせる。
「いや、コイツしばき倒してから行きますんで」と凶悪犯顔をしたエリカちゃんを周囲の視線から隠しつつ、何故か割り箸を逆手に持って猛然と立ち尽くす智正くんの首根っこを掴み「失礼しまぁす!」と一礼をして原瀬部長の元を離れる。
秘書課の須藤さんに簡単に事情を説明し、エリカちゃんを託す。秘書課の精鋭達が討伐に向かう面持ちで営業部の陣地へ向かうのを尻目に、智正くんと会場を後にした。


「んもうっ!おばさんを無駄に焦らせないでよ」

深夜の公園でくたぁ~と座り込むと、黙って後ろをついて来た智正くんに非難の言葉を向ける。

「…おばさんじゃないです」
「いやいや、そう言う論点じゃありませーん」
「だって、アイツの言ってる事おかしいですよ」
「それでも目上の人にはそれなりの態度で接しなきゃ。会社が決めた役職よ。蔑ろに出来ない。私達は会社の中で仕事をしてるんだから」
「……すみませんでした」
「ふふふ。でも、庇ってくれて有り難う。おばさん、ちょっと嬉しかったよ」

へにゃり、と笑ってみせると、智正くんは何とも言えない表情を見せた。

「庇い切れてない。アイツの口を先に縫い止めれば良かった。貴女はあんな奴の言葉に傷付く必要はない」
「あははー。大丈夫だよ、いつもの事だし、傷付く歳でもないからね。でも有り難う」
「違う!分かってない!!大丈夫じゃないんでしょ?いつも泣いてるじゃないか。あんな奴の言葉で貴女が泣く必要はないよ」
「……」
「やよいさん、僕と結婚して。僕に貴女を守る大義名分を与えて」
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