泣き虫姫と変態王子の恋物語

山田 ぽち太郎

文字の大きさ
9 / 15

【9話目】波乱の仕事納め

しおりを挟む
12/28仕事納めの日。
毎年仕事納めの夜は、会社の忘年会で締め括る。

今回は、営業部の近くの席配置となり、少しゲンナリしていた。普段から何かと絡んでくる、営業部のセクハラ部長が居るからだ。

「美人受付嬢にお酌をしてもらえるなんて、今年も頑張って良かったなぁ、お前たち!」

ガッハハハーと快活に笑う彼は、原瀬 九太郎ハラセ クタロウ。働き盛りの51歳。営業畑で仕事をして、叩き上げで部長までのぼりつめた。

「あの平野さんにお酌して貰えるなんて、夢の様です!来年も営業頑張ります!また来年もお酌お願いします!!」

営業部の面々のグラスにビールを満たす。私のお酌で我が社の営業成績が上がるのなら、何万回だってお酌して回る。

「営業先から叱られて帰って来ても、平野さんの『お疲れ様です』って言葉に一瞬で癒されるもんな!」
「女の私も平野さんの『行ってらっしゃい』に元気付けられてます」

ワイワイ盛り上がっていると、原瀬部長が私の肩を強引に引き寄せて下卑た笑いを浴びせて来た。

「お前ら、いくら平野が入社15年目のベテラン受付嬢だからって、煽て過ぎじゃないのかぁ?お客さんだって、どうせ受付してもらうなら、20代のピチピチした可愛い子が良いだろうにね~」

ね~、と私の隣にいるエリカちゃんに下品な笑いを向ける。慌てて原瀬部長を落ち着かせようと、エリカちゃんと原瀬部長の間に割って入る。

「そうですね、特にエリカちゃんは可愛らしい子ですから。私の自慢の後輩です」
「だからぁ、俺の隣は平野みたいな行き遅れの年増じゃなくて、彼女みたいなピチピチした子にしてくれって言ってんの!」

ドンっと、胸元を突き飛ばされてワタワタとよろける。それを抱き止めてくれたのが、智正くんだった。

「女性を突き飛ばすなんて、営業部長さんは随分と酔っていらっしゃる様ですね。もう帰ったらどうですか?」
「あぁ?システム開発部の若造が、偉そうな口叩くな!俺らが会社で一番生産性を持ってるんだぞ!お前らの給料は俺らの頑張りで出てるんだからなぁ!!」
「その頑張りを根刮ぎ駄目にしてる奴が偉そうな口叩くなよ」

しーん、と会場が静まる。隣ではエリカちゃんが唸り声を上げて今、まさに飛びかからんと言う勢いだ。エリカちゃんは元ヤンで、喧嘩っ早いのが唯一の欠点。だから、このセクハラ部長、もとい原瀬部長からは距離を保たせたかったのに…。

「なーーんだ、お前。やけに突っ掛かるじゃねぇか。アレか?平野の事好きなのか?だとしたら悪かったな、今、勢いでコイツの胸触っちまったよ!俺としてはこんな年増の胸なんてこっちから願い下げだけどなぁ。何も年季の入った型落ち品に執着せんでも、お前の面ならよりどりみどりだろうに」

ぷはは、と嘲笑を酒臭い息と共に吐き出した原瀬部長に、会場全員が共通思念を持った事だろう。
取り分け隣のエリカちゃんと、背後の智正くんは相当な度量で原瀬部長を睨み倒している。

「………私、酔ったみたい!平野さん、ちょっと付き合って下さい!!!エリカちゃん、エリカちゃん、会場あっち側の端の端の端に居る秘書課の須藤さんにもお酌して来て!すぐ!今すぐに!!!!」

エリカちゃんにビール瓶を持たせると、サン・ハイ!と立ち上がらせて今の位置から正反対の方向へ回れ右をさせる。
「いや、コイツしばき倒してから行きますんで」と凶悪犯顔をしたエリカちゃんを周囲の視線から隠しつつ、何故か割り箸を逆手に持って猛然と立ち尽くす智正くんの首根っこを掴み「失礼しまぁす!」と一礼をして原瀬部長の元を離れる。
秘書課の須藤さんに簡単に事情を説明し、エリカちゃんを託す。秘書課の精鋭達が討伐に向かう面持ちで営業部の陣地へ向かうのを尻目に、智正くんと会場を後にした。


「んもうっ!おばさんを無駄に焦らせないでよ」

深夜の公園でくたぁ~と座り込むと、黙って後ろをついて来た智正くんに非難の言葉を向ける。

「…おばさんじゃないです」
「いやいや、そう言う論点じゃありませーん」
「だって、アイツの言ってる事おかしいですよ」
「それでも目上の人にはそれなりの態度で接しなきゃ。会社が決めた役職よ。蔑ろに出来ない。私達は会社の中で仕事をしてるんだから」
「……すみませんでした」
「ふふふ。でも、庇ってくれて有り難う。おばさん、ちょっと嬉しかったよ」

へにゃり、と笑ってみせると、智正くんは何とも言えない表情を見せた。

「庇い切れてない。アイツの口を先に縫い止めれば良かった。貴女はあんな奴の言葉に傷付く必要はない」
「あははー。大丈夫だよ、いつもの事だし、傷付く歳でもないからね。でも有り難う」
「違う!分かってない!!大丈夫じゃないんでしょ?いつも泣いてるじゃないか。あんな奴の言葉で貴女が泣く必要はないよ」
「……」
「やよいさん、僕と結婚して。僕に貴女を守る大義名分を与えて」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

灰かぶりの姉

吉野 那生
恋愛
父の死後、母が連れてきたのは優しそうな男性と可愛い女の子だった。 「今日からあなたのお父さんと妹だよ」 そう言われたあの日から…。 * * * 『ソツのない彼氏とスキのない彼女』のスピンオフ。 国枝 那月×野口 航平の過去編です。

すれ違う心 解ける氷

柴田はつみ
恋愛
幼い頃の優しさを失い、無口で冷徹となった御曹司とその冷たい態度に心を閉ざした許嫁の複雑な関係の物語

今宵、薔薇の園で

天海月
恋愛
早世した母の代わりに妹たちの世話に励み、婚期を逃しかけていた伯爵家の長女・シャーロットは、これが最後のチャンスだと思い、唐突に持ち込まれた気の進まない婚約話を承諾する。 しかし、一か月も経たないうちに、その話は先方からの一方的な申し出によって破談になってしまう。 彼女は藁にもすがる思いで、幼馴染の公爵アルバート・グレアムに相談を持ち掛けるが、新たな婚約者候補として紹介されたのは彼の弟のキースだった。 キースは長年、シャーロットに思いを寄せていたが、遠慮して距離を縮めることが出来ないでいた。 そんな弟を見かねた兄が一計を図ったのだった。 彼女はキースのことを弟のようにしか思っていなかったが、次第に彼の情熱に絆されていく・・・。

おばあちゃんの秘密

波間柏
恋愛
大好きなおばあちゃんと突然の別れ。 小林 ゆい(18)は、私がいなくなったら貰って欲しいと言われていたおばあちゃんの真珠の髪飾りをつけた事により、もう1つの世界を知る。

きっと、あなたは知らない

mahiro
恋愛
高嶺の花と呼ばれている後輩に叶わぬ恋をした。 普通科と選抜クラス。 それだけでも壁があるのに、顔も頭も平凡な私なんかが後輩に好かれるわけがない。 そう思っていたのだけれど。

宮花物語

日下奈緒
恋愛
国の外れにある小さな村に暮らす黄杏は、お忍びで来ていた信寧王と恋に落ち、新しい側室に迎えられる。だが王宮は、一人の男を数人の女で争うと言う狂乱の巣となっていた。

Blue Moon 〜小さな夜の奇跡〜

葉月 まい
恋愛
ーー私はあの夜、一生分の恋をしたーー あなたとの思い出さえあれば、この先も生きていける。 見ると幸せになれるという 珍しい月 ブルームーン。 月の光に照らされた、たったひと晩の それは奇跡みたいな恋だった。 ‧₊˚✧ 登場人物 ✩˚。⋆ 藤原 小夜(23歳) …楽器店勤務、夜はバーのピアニスト 来栖 想(26歳) …新進気鋭のシンガーソングライター 想のファンにケガをさせられた小夜は、 責任を感じた想にバーでのピアノ演奏の代役を頼む。 それは数年に一度の、ブルームーンの夜だった。 ひと晩だけの思い出のはずだったが……

12年目の恋物語

真矢すみれ
恋愛
生まれつき心臓の悪い少女陽菜(はるな)と、12年間同じクラス、隣の家に住む幼なじみの男の子叶太(かなた)は学校公認カップルと呼ばれるほどに仲が良く、同じ時間を過ごしていた。 だけど、陽菜はある日、叶太が自分の身体に責任を感じて、ずっと一緒にいてくれるのだと知り、叶太から離れることを決意をする。 すれ違う想い。陽菜を好きな先輩の出現。二人を見守り、何とか想いが通じるようにと奔走する友人たち。 2人が結ばれるまでの物語。 第一部「12年目の恋物語」完結 第二部「13年目のやさしい願い」完結 第三部「14年目の永遠の誓い」←順次公開中 ※ベリーズカフェと小説家になろうにも公開しています。

処理中です...