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ドキドキ同棲編

夏の記憶⑥【由香里視点】

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「そっち居たか?」
「居ねぇ!…お袋からも連絡入ってねぇ!!」
「俺はもう一回駅に行ってみる!」

にぃにぃといっくんがバイクでおねぇを探している。
アタシはねぇねぇと一緒に歩いて近所を探す。
ママはおねぇが帰って来た時の為に自宅待機だ。
本当ならアタシもママと一緒に家で待っていた方が良いのだろうが、絶対に着いていくと駄々をこねた。

「おねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!でーてーきーなーさぁぁぁぁぁい!!!!!」

アタシはがむしゃらにおねぇを探した。
アタシは怒っていた。
あれだけ一緒に居ようねって約束したのに、おねぇがアタシの手を離したらダメなのに。
おねぇが居ないと楽しくないのに。

「んもぉぉぉぉ!!!おねぇぇぇぇ!!!どぉぉぉぉこぉぉぉぉ????」
「こらこら由香里、あんまり叫ぶと喉が痛くなっちゃうよ」
「だって!はやくさがしてあげないと、おねぇがかわいそう…。ひとりぽっちは、さみしいよ」
「…花火大会を思い出しちゃった?」
「………ん!おねぇが、ゆっかを見つけたから、こんどは、ゆっかが、おねぇを見つける!!」
「…そうだね。早く見つけようね。希帆を見つけたらみんなでオムライスを食べようね」
「ゆっかはチキンライス!!」
「そうね、由香里は玉子なしだね」
「ゆっかの玉子さん、おねぇにあげるのよ~」
「……本当に、由香里は希帆が大好きだね」
「うん!おねぇが、いちばん、すき!!」

ねぇねぇが笑いながら泣いていた。
アタシはおねぇを見つけることに変な自信があったけど、ねぇねぇたちは正直不安だったと思う。
おねぇは変なところで行動力の塊みたいなとこがあるから、今見付けないと、もう二度と会えないんじゃないかって、そう考えていたと思う。
あちこち探し回ったけど、夕方になってもおねぇは見つからなかった。
にぃにぃといっくんは友達や後輩に声を掛けて、総出で近隣の町をしらみ潰しにバイクで捜索したし、ママはクラブを臨時休業して、お客さんまで巻き込んで、近所一帯をパトロールした。
それでもおねぇは見つからない。

「由香里、一回家に帰って休もうか?朝から歩き続けて疲れたでしょ?」

朝も一度探した公園を再び探し終えて、次にどこに向かおうか考えていると、ねぇねぇが労るように声を掛けてくれる。
ねぇねぇだってクタクタなはずだ。

「やだ!おねぇは、ゆっかが見つけるの!!」

アタシは意地になっていた。
おねぇはアタシを簡単に見付けたのに、どうしてアタシは見付けられないんだろう。
おねぇは何て言ってたっけ?

「……さいしょのところ…」

おねぇは何て言ってたっけ?

『この神社、最初の家の近くの神社によく似てる…。嫌なことがあったとき、その神社に行ったら、嘘みたいに気持ちが楽になるんだよ』

「……ねこのじんじゃ!!!」

アタシはバッと顔を上げて、ねぇねぇに叫ぶ。

「おねぇは、ねこのじんじゃにいるよ!!!!」

アパートから歩いて5分の野良猫がたくさん住み着いた神社。
忘れ去られたようなその神社は、アタシたち姉妹の寛ぎの場所だった。
アタシとねぇねぇは急いでその神社に向かう。
昼前にもその場所を探したが、一箇所見落とした場所がある。
アタシは素早くそこに潜り込んで、野良猫に埋もれたおねぇを見付け出した。
本殿の下に、子供しか通れないくらいの穴が開いている。
おねぇは13歳なのにまだまだ小さいから、そこを通れたのだ。
アタシが一度だけ、そこに迷い込んでしまった際には、おねぇが見付けてくれた。
その時おねぇが「ここに居たら誰にも見つかりそうにないね」と言っていたのを思い出したのだ。

「おねぇ!おねぇ!!おーきーてー!!」

ベチベチとおねぇの頬を叩くと、おねぇの瞼が僅かに開く。

「……由香里?…どうして……」

意識がハッキリしないのか、おねぇは呆けた顔でアタシを見返した。
おねぇの顔が茹だるように熱い。

「ねぇねぇ!!おねぇ、ここにいるよ!!!」

アタシは大声でねぇねぇに伝えると、再びおねぇに向き直る。

「おねぇ!ゆっかのことおいて、どっか行ったらいやだ!!ゆっかといっしょにいるって、おねぇが言ったことでしょ!!!」
「ごめん…」
「おねぇがいないと、たのしくない!おねぇがいるから、たのしいの!!たのしいのは、しあわせってことでしょ?おねぇがいるから、しあわせなのでしょ!!!」
「……ごめんね」

アタシたちはワンワン泣いて、野良猫たちの眠りをこぞって妨げた。
ねぇねぇが呼んでくれて、にぃにぃといっくんが直ぐにやって来てくれた。
アタシはにぃにぃに、おねぇはいっくんに、それぞれお姫様抱っこでママの待つアパートに帰る。
おねぇは軽い熱中症になっていて、次の日の夕方まで懇々と眠った。
目を醒ましたおねぇを、アタシは抱き締めながらお説教して、ねぇねぇ手作りのオムライスを食べて仲直りしたんだ。

アタシのおねぇはすっごく賢くて、すっごく強くて、すっごく弱い。
難しい公式を知っているくせに、おねぇのことを心配して街中を駆け回る人が大勢居ることを知らない。
酔っ払いの男に負けないくせに、酔っ払った産みの親の言葉には簡単に負けてしまう。
人一倍傷付きやすいのに、その傷を誰にも見せないで気持ちに蓋をしてしまう。

アタシのおねぇは賢い。
それなのにバカだ。
男に対してバカなんだ。

絶対にやめとけと思う男に一途になる。
おねぇの強さにも弱さにも絶対に気付かない男に一途になる。

おねぇの弱さを利用して、おねぇの強さを逆手に取る、そんなズルい男ばかりに騙されている。

でもアタシはおねぇの言うこと、することに絶対に反対しない。
アタシだけはおねぇの味方だから。
おねぇがアタシをずっと守ってきてくれたから、アタシはおねぇの言うことだけは守るって決めてるんだ。

おねぇが「この男が大切だ」と言うなら、アタシもその男を大切にする。
おねぇが自分で決めた「家族」なら、アタシにとっても「家族」だ。

アタシはおねぇの言うこと、することに絶対に反対しない。

けれど、おねぇじゃなくて、男の方には口を出す。
だってアタシのおねぇはバカだから。
男に対してバカだから。

アタシの脅しに屈するような軟弱者ならお呼びじゃない。
アタシの大切な賢くて強くて弱い姉を、ずっと愛してくれる奴じゃなきゃ。
アタシがずっと繋いできた、柔らかい手を下手な男に譲る気はない。

ずっと愛してくれる奴じゃなきゃ。
ずっと愛してやれる奴じゃなきゃ。
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