香死妃(かしひ)は香りに埋もれて謎を解く 

液体猫(299)

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金明《ジンミン》妃の侍女

嫌いなものだから

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 実家から持ってきていた町娘の服に着替え、香 麗然コウ レイランは食堂へと向かった。
 そこは夕飯にありつこうとする兵士や宦官、そして侍女たちで埋め尽くされている。当然席など空いてない。
 香 麗然コウ レイランは夕ご飯が乗ったお盆を持ちながらキョロキョロと周囲を見渡す。ふと、食堂の隅に、見知った人物を発見した。

 (あ、あの後ろ姿、曹朱ツァオジュだ)
 
 どうやら彼は一人で食事をとっているよう。艶のある長い黒髪が、尻尾のように揺れていた。
 香 麗然コウ レイランは意気揚々と彼のもとへと向かう。そして声をかけ、隣へと座った。

「えへへ。さっきぶりね」

「座っていいなどと、言った覚えはないぞ?」

「まあまあ。そんな固いこと言いっこなしよ」

「……ん? 服、着替えたのか」

「ああ、これ? うん。一着しか貸してもらえなかったから、汚れちゃいけないと思って」

 ゆったりとした重ね着の衣装は後宮の中では浮くのだろう。その場にいる誰もが彼女を見ていた。けれど香 麗然コウ レイランは視線そのものに慣れた様子で、平然としている。

「……そうか」

 曹朱ツァオジュは一言だけ答え、箸を置いた。彼の食器の中身はほとんど空だ。けれど一つだけ。小さな小鉢には中身が残っていた。
 
「あれ? それ、食べないの?」

「うっ! お、俺はどうしても、これだけは無理なんだ」

 彼が残したのは海老の豆板醤トウバンジャン漬けのよう。まだ箸をつけていないから食えと、それを香 麗然コウ レイランのお盆に乗せた。
 彼女は遠慮なくそれを食べていく。
 そして自分のご飯に箸を伸ばすが、その最中、ある違和感に気づいた。 

「……んん? あれー?」

 皿を手にし、犬のようにクンクン嗅ぐ。

 (……やっぱりだわ。この匂いって)

 隣にいる彼に質問しようとした瞬間、食堂の扉が勢いよく開けられる。そこから現れたのは数名の兵だ。かなり慌てた様子で、厨房の方へと向かって行った。

「……?」

 曹朱ツァオジュが怪訝なの顔をして片眉を上げたとき、今度は食堂内で悲鳴があがる。食事をしていた者たちが苦しみながら次々と倒れていった。白目を向いてしまっている人、痙攣けいれんしている者もいる。
 
 香 麗然コウ レイラン曹朱ツァオジュは顔を見合わせ、倒れた人たちの元へと駆けよった。 彼らは一様に同じ症状を発症し、次々と息を引き取っていく。

「……いったいこれは、どういうことだ!?」

「っ、曹朱ツァオジュ殿、実は……」 

 食堂の中に慌てて入ってきた兵の一人が彼に話しかける。


 その内容に、香 麗然コウ レイランたちは耳を疑った。


 妃が食べるものは先に毒味役が食すことになっている。そして今回は、その毒味役の一人が亡くなったとのこと。さらにはおかしなことに、毒味役ですらない兵や侍女たちも、同じ症状に見舞われているらしかった。
 いったいこの後宮内で何が起きているのか。
 二人は驚くことしかできなかった。
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