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白い妃
楊周《ヤンヂョウ》
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庭を超えて辿り着いたのは一つの部屋だった。そこは白の宮の妃が過ごす場所で、昼間は大抵ここに居を構えている。
香 麗然は扉の前に立ち、髪を軽く整えた。そして隣には曹朱ではなく、唯一の侍女でもある金明を並ばせる。
「──楊周妃、香死妃をお連れしました」
先頭に立つ曹朱が扉をたたいた。すると中から女性の「どうぞ」という声が聞こえてくる。
曹朱は後ろにいる二人と視線を交わし、頷きあった。
「失礼いたします」
香 麗然たちは仰々しく頭を下げて拱手する。
顔をあげた香 麗然の瞳に映ったのは明るい部屋だった。
天井にある朱い提灯がゆらゆらと揺れる。部屋の面積は広く、床は大理石でできていた。壁や柱は白い。
ふと、香 麗然は猫型の透かし窓が目にとまった。
(わあ。かわいい窓。そう言えば、私の宮にも、鳥の透かし窓があったわね)
そんなことを考えていると、優しい微笑が耳に入る。
微笑の元を辿れば、宝座という椅子に一人の女性が座っていた。
茶色の混じる黒髪を、きらびやかな髪飾りで纏めている。パッチリとした瞳、唇には淡い紅を塗っていた。目鼻立ちの整った美女で、年の頃は三十歳ほどか。
白い漢服をきちんと着ていて、とても大人っぽい女性だった。
「ふふ。ようこそ、いらっしゃいました。私は楊周、白の宮の妃ですわ」
椅子から腰をあげて、香 麗然に向かって拱手する。その姿はお手本のように整っていた。
「あ、香 麗然……いえ。この度、新しく妃になった香死妃と申します。突然の訪問にも関わらず、快く迎え入れてくれたこと、感謝いたします」
「……ふふ。本当に、快くだと思っているの?」
「え?」
楊周妃の優しい笑顔が、意地悪なものへと変わる。人を小馬鹿にしたような笑みを浮かべては、翳で口元を隠した。
(この人……さりげなく、喧嘩売ってる!? でも、何だろう? いやな香りがしない。むしろ、暖かくて落ち着くような…)
ぎりっと、拳を握る。そして楊周妃妃を敵認定した……直後、周囲の人たちから、ぷっと吹き出すような声が聞こえてくる。
周りを見れば、楊周妃や侍女たち。そして曹朱までもが肩を震わせていた。金明だけは苦笑いしている。
「……え? 何? 何なの?」
香 麗然は扉の前に立ち、髪を軽く整えた。そして隣には曹朱ではなく、唯一の侍女でもある金明を並ばせる。
「──楊周妃、香死妃をお連れしました」
先頭に立つ曹朱が扉をたたいた。すると中から女性の「どうぞ」という声が聞こえてくる。
曹朱は後ろにいる二人と視線を交わし、頷きあった。
「失礼いたします」
香 麗然たちは仰々しく頭を下げて拱手する。
顔をあげた香 麗然の瞳に映ったのは明るい部屋だった。
天井にある朱い提灯がゆらゆらと揺れる。部屋の面積は広く、床は大理石でできていた。壁や柱は白い。
ふと、香 麗然は猫型の透かし窓が目にとまった。
(わあ。かわいい窓。そう言えば、私の宮にも、鳥の透かし窓があったわね)
そんなことを考えていると、優しい微笑が耳に入る。
微笑の元を辿れば、宝座という椅子に一人の女性が座っていた。
茶色の混じる黒髪を、きらびやかな髪飾りで纏めている。パッチリとした瞳、唇には淡い紅を塗っていた。目鼻立ちの整った美女で、年の頃は三十歳ほどか。
白い漢服をきちんと着ていて、とても大人っぽい女性だった。
「ふふ。ようこそ、いらっしゃいました。私は楊周、白の宮の妃ですわ」
椅子から腰をあげて、香 麗然に向かって拱手する。その姿はお手本のように整っていた。
「あ、香 麗然……いえ。この度、新しく妃になった香死妃と申します。突然の訪問にも関わらず、快く迎え入れてくれたこと、感謝いたします」
「……ふふ。本当に、快くだと思っているの?」
「え?」
楊周妃の優しい笑顔が、意地悪なものへと変わる。人を小馬鹿にしたような笑みを浮かべては、翳で口元を隠した。
(この人……さりげなく、喧嘩売ってる!? でも、何だろう? いやな香りがしない。むしろ、暖かくて落ち着くような…)
ぎりっと、拳を握る。そして楊周妃妃を敵認定した……直後、周囲の人たちから、ぷっと吹き出すような声が聞こえてくる。
周りを見れば、楊周妃や侍女たち。そして曹朱までもが肩を震わせていた。金明だけは苦笑いしている。
「……え? 何? 何なの?」
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