ドSな銀髪美人は復讐と、恋人の愛を両天秤にかける

液体猫(299)

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四人で力を合わせて

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 アレンはレナの想いを受けとめ、これからどうするべきかを考えた。

 (ここがゲームの世界云々は置いておくとしても、どう動くべきかを決めなければならない)

 死亡する未来しかないと言われ、一瞬だけショックを受けてしまう。それでも彼はレナの言葉を信じることを決め、先の運命を回避することを模索した。
 とは言え、現段階では殆どの話が絵空事としか思えない。レナの言葉を信じていないわけではなかった。けれどはいそうですかと言えるほど、彼はお人好しではない。

「レナ嬢、君の言うことをすべて信じるには、あまりにも大きなリスクを伴う」

「わかっています。誰だって、そんなに簡単に信じられる話じゃないってことも。それでも私は、あなたの幸せだけを願っていたいんです!」

 レナの決意を感じる瞳に、アレンは静かに頷いた。
 
「具体的な話は、ハワードたちと合流してからにしないかい? 情報が足りなさすぎて、私たちだけでは手に負えないからね」

「……うっ。は、ハワード様、怒ってたりしませんかね?」

 今更ながらに、レナは自分が仕出かしたことの重大さに気づいたよう。聖女の力を悪用し、アレンを誘拐してしまった。しかもそれをハワードの目の前で。
 アレンのことが大好きで仕方ないハワードは、今回のことで怒り狂う可能性があった。
 後先を考えていなかった行動に、レナは落ちこむ。

 アレンもまた、ハワードが暴走をするのではないかと、少なからず思っていた。同時に、あの頼りになる腕に包まれたいとも考えてしまう。

 (……ああ、今すぐにハワードに抱かれてしまいたい。彼の温もりを、この手で感じたい)

 胸の奥からジンジンと熱くなっていった。
 か弱い少女がいる手前、弱音など吐けない。吐いてなどいられないからだ。けれどハワードの姿を見れば、おそらくそれは一気に崩れてしまうだろう。それほどまでにハワードへの想いが強かった。

「あ、そう言えば、君に一つ聞きたいことがあるのだが……」

「え?」

 アレンはふと、あることを思い出す。それを、気落ちしているレナに尋ねてみた。

「なぜ、私を誘拐する必要があったんだ?」

「ああ、それですか? うーんと……わ、私の気持ちと言いますか。推しでもあるあなたと、直接話してみたかったというのもあります」

 頬を赤らめ、指をもじもじさせた。子供っぽく口を尖らせ、ううーと唸る。

「な、何よりも、ここにいれば安全なので」

「安全? ……そう言えば、ここはどこなんだい?」

 レナは真面目な表情になり、扉を指差した。
 彼女の視線の先にある扉は、奇妙な模様が描かれている。

「……?」

 アレンは扉まで進み、手で触れてみた。黒いインクで描かれたそれは、見たことのない不思議な形をしている。

「それは聖女の力で作った、オリジナルの結界魔法です。ここにいれば、闇の干渉を受けることがありませんから。ここにいれば、アレン様は死ぬことがありませんし」

「なるほど。それで、ここに私を軟禁する予定だったと?」

「……」

 レナが頷くのを確認して、扉へと向き直った。

 (闇がすべての元凶ということはわかった。ただ、それがなぜ、私を死亡させることに繋がる? そこが、わからない)

 引っかることだらけ。そう呟くと、レナは攻略本のとあるページを開いてみせた。そこには隠しルートに進むための手順、そして攻略法が書かれている。
 けれどそこの中には一つ、気がかりなものが記載されていた。

「……これは?」

 そこには真っ黒なヒト型の誰かが、大きく描かれている。

 これは何かとレナへと問えば、彼女は気まずそうに視線を逸らした。やがて盛大なため息をつき、真剣な面持ちで語りだす。

「その方は、すべての元凶……物語の中ですべてを支配する、聖女と攻略対象たちが倒すべき人です。簡単に言えば、ラスボスです」

「ラスボス?」

 レナは踵を返し、背中をアレンに見せた。ベッドに腰を落ち着かせ、黒髪を指に巻きつけて遊ぶ。言いにくそうにしながら、アレンを凝望した。

「はい。ただ、そのラスボスは……」

 言いかけた直後、ドタバタと扉の外から数人の足音がした。それは扉の前でとまる。警戒する暇もないままに勢いよく扉が開き、そこから見知った男の姿が現れた。

「ハワード!?」

「アレン! 無事でよかった!」

 部屋に入ってくるなり、ハワードはアレンに抱きつく。身長二メートルを超す巨体で、細身のアレンを優しく抱きしめた。

 アレンは両目を丸くする。それでも彼の涙と、震えている体を離すことなどできなくて……愛しい人からの抱擁ほうように心の底から喜んだ。
 
 (ああ、やっぱり私は、ハワードの胸の温もりに包まれていたい。彼と離れてしまうとすごく胸が苦しくなって、弱気になってしまうから)

 その言葉を飲みこみ、愛してやまない婚約者を見上げる。ふと、ハワードからは優しい瞳が消えていた。代わりに憎悪という名の怒りのようなものを瞳に宿らせ、アレンではなくレナを睨みつけている。
 
「レナ嬢、俺のアレンをよくも……っ!?」

「待ってハワード」

 怒りに身をまかせてレナを怒鳴りつけようとしてることを察知し、アレンは彼をとめた。そしてレナへと向き直り、彼女と視線を交わす。
 未だに番犬のように牙を剥き出しにしているハワードを宥めつつ、端麗な顔に疲れのようなものを乗せた。
 ふと、そのときだ。ハワードに遅れて、鉄錆色髪の少女がひょっこりと顔を出す。その少女はアレンたちが協定を結んだルシアだった。

 彼女は落ち着き払いながら、優雅な姿勢で、コツコツと足音を鳴らす。そしてアレンとハワードの隣を通り過ぎ、レナの目の前に立った。スッと背筋を伸ばすルシアだったけれど、目には少しばかりの涙が溜まっている。

「……レナ様、アレン様を誘拐するなど……なさってはならないこと。ご自身が、いったい何をなさったのか。ご理解していますか?」

 静かに譴責けんせきする様は、その場の空気を一気に冷やしていった。
 レナはビクッと肩を震わせ、ハワードは恐怖に負けてアレンの後ろに隠れてしまう。

「あなたは男爵家の者。それが、公爵家のアレン様を誘拐など……恥を知りなさい」

 すっと、細められて両目には怒りのほのおが絡みついていた。一言一言でしっかりと諭し、耳に穴が開くほどの説教をする。
 
 レナは自分がやった数々の行いを自覚していた。返す言葉もなく、ルシアからの正当な苦言を聞くしかない。
 何度も頷き、そのたびに「ごめんなさい」を繰り返していた。

 そんなルシアによる説教タイムを聴きながら、アレンは頬を掻く。

 (うーん。これは、レナ嬢を助ける必要があるな)

 誘拐された張本人でもあるアレンは、持ち前の心の広さで二人の女性の間に入っていった。
 ルシアには睨まれ、レナは借りてきた猫のようにおとなしく震えている。女性陣の正反対の姿に、彼は苦笑にがわらいしか浮かんで来なかった。
 
「ルシア嬢、それについてですが……私からも説明させてもらえますか?」

 (真に恐ろしいのは女性、か。ルシア嬢を、あまり怒らせてはいけないね)

 両者を見下ろしながら軽く咳払いをする。レナと視線を合わせて頷き、ここで見聞きしたことのすべてを話していった。




「──にわかには、信じがたいお話ですね」 

 怒りのポルテージが下がったルシアは、ベッドに腰かけながらそう呟く。隣に座るレナを凝視して、再度本当かどうかを尋ねた。

 レナは「はい」とだけ言う。  

「あの方を……レナ様がノワール殿下をたぶらかした理由が、アレン様を救うためだったなんて」

「ごめんなさいルシア様、ああでもしないとあの馬鹿皇子から、あなたを守る術がなかったんです。あのままあの男の婚約者でい続ければ、ルシア様に待っているのは、娼婦しょうふへの転落」

 ノワールという皇子はとことん馬鹿だった。それでいて非道かつ、国や民を奴隷としか思っていない。そんな男の妻になれば、破滅への道一直線だ。
 
「さっきも言ったように、私はこの世界のシナリオを知っています。ルシア様の末路も」 

 だからこそ、自らを悪役にして奪うことを思いついた。ただ、それ以外の方法がなかったとも言える。   
 婚約者でいるか、それともやめるのか。それを決めるのは本人のみだ。いくらレナがルシアのことを思って悪役に徹していたとしても、余計なお世話でしかない。
 そう話すレナは覚悟を決めて、目を閉じた。

 ルシアは彼女が何を求めているのか。それに気づいたようだ。アレンを一度見て、彼が頷くのを確認する。そして拳を握った。

「……わかりました。レナ様、覚悟してください」

「……っ!」
 
 ルシアの平手がレナの頬を殴り……は、しなかった。ゆっくりと、静かにレナの白い頬に触れる。

「私のことを思って、やってくれたのでしょう? そのような優しい方を、どうして、たたけるのでしょうか?」

「……ル、シア様……」

 レナの頬に涙が、ボロボロと流れた。声を殺して泣き続ける。

「レナ様、一人で、よくここまで頑張りましたわね。でも大丈夫。これからはここにいる私たちが力を合わせて、闇を追い払いましょう」

「はい!」

 ルシアは彼女をそっと抱きしめた。


 女性たちの和解を確認したアレンは、ほっと胸を撫で下ろす。そして助けに来てくれたハワードの手をこっそりと握った。自身よりも頭一つ分ほど背の高いハワードを見上げ、ふっと微笑する。
 そして背伸びをし、彼の耳元に向かって、艶ごとがしたいなと誘惑めいた言葉を放った。
 
「今日の夜、屋敷に戻ったらハワードに、すべてをあげる」

 ねやごとへの誘いを、持ち前の色香とともに求める。

「君を、私の体で感じたいんだ。駄目かい?」

「……っ!?」

 ハワードは驚いた様子で喉を鳴らした。照れながらアレンの肩を抱き、口元に笑みを浮かべながら頷く。

 アレンは小悪魔染みた笑顔を浮かべ、夜のお楽しみの時間が待ち遠しいなと感じるのだった。
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