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第二章 復讐の終わり
夜間舞踏会
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遂に、夜間舞踏会のときがやってきた。
豪華絢爛なシャンデリアや食べ物、そして貴族たちのきらびかな格好。どれをとっても、一般市民には手の届かないようなパーティーだ。
そんなパーティーが行われる会場の外に、アレンたちはいる。彼らは会場から少し離れた広場に集まっていた。
パーティー用のドレスに着替えたレナは、黄色いヒラヒラのスカートのまま椅子に座る。そして少しでも役にたてるならと、新しい情報をアレンたちへと伝えた。
「……なるほど。つまりはこの舞踏会は、あの屑が主催したものなのか」
レナの話はこうだ。
まず、この舞踏会の主催はノワール。彼はこの国の第一皇子にして、ハワードの実兄だ。そんな男は今夜、新しい婚約者のお披露目をするという。
「それは、レナ嬢のことですよね?」
アレンは迷いのない瞳で言い放った。しかし……
レナは首を左右にふり、アレンの言葉を否定する。ため息混じりに呆れた様子で、会場となる建物を凝視した。
「私はあくまでも、遊びなんだそうです」
ルシア同様、捨てられたようなもの。そう、呟く。けれど悲観する声ではなく、むしろ呆れ果てたような。ノワールを最初から切り捨てることを前提として話しているような。
そんな雰囲気があった。
「そもそも私は、ノワール様に何もしていません。魅了魔法とか、そんなものも使っていないし」
「おや? そう、だったのかい? 私はてっきり、魅了魔法などを使っていたとばかり」
アレンの容赦ない一言に苦く笑み、再びレナは否定する。
「私があの人に近づいたときには、既にあんな性格でしたよ? 美人が好き! とも、言ってましたし」
「……本当に、救いようのない屑だな」
「まったくです! ……あ、話を戻しますが、ノワール様が婚約者として紹介するのは、私ではないのは確かです」
そうなると、いったい誰を婚約者に仕立てようと言うのか。これにはますます疑問が残った。
(あの屑のことだ。ルシア嬢と復縁は、絶対にないだろう。プライドだけは、人一倍高いしな。そうなると、本当に誰なんだ?)
心当たりのある女性はもういない。いくら屑だったとしてもメイドや町娘に、節操なしに手をつけることは考えにくかった。そうなる前に国王がとめに入ることは、目に見えていたからだ。
「あの国王も、とっとと引退してしまえばいいものを」
ハワードが後を継げば万事解決。そう、容赦ない一言をたたきこんだ。
これにはハワードも、レナやルシアですら肩をすくませてしまう。アレンの二面性……存外な口の悪さが目立っていたからだ。
そして、ハワードに口を塞がれるまでそれは続く。
「ああ、すまないね。どうにも、ハワード以外の王族は好きになれなくて」
「あ、アレン。気持ちはわかるけど、そのぐらいで」
「ん? そうだな」
どんどん話の論点がズレていることに気づき、アレンは咳払をした。
するとレナがスッと手を挙げる。彼女は言いにくそうにしながら、アレンとハワードを交互に見た。
「ま、前にも言ったと思いますが、この世界はBLゲームなんです。登場人物の男性の大半がそれでして……」
レナはすーはーと深呼吸し、両目をカッと見開く。かと思えばルシアの後ろに隠れて、そこから顔を出した。
「あ、アレン様、怒らないでくださいね?」
「え? あ、うん……?」
突然、何を言い出すのか。この少女は何を知っているのか。誰もが緊張の糸に絡め取られていった。
「男性の大半がそういう人ということは、ノワール様も例外ではありません。あの方の本当の目的は、ルシア様を陥れることでも、私と婚約することでもありません」
どうやらレナは、忘れていた記憶が思い起こされたらしい。けれどその内容はあまりにも残酷なもので、アレンに伝えるべきか悩んでいたと言う。
それでもここまで来てしまった以上、言わない選択肢などか彼女にはなかった。
「あの方の目的は……アレン様、あなたと婚約して、あなたを妻として迎え入れることです」
今夜のこの舞台で、ノワールは皆の前で発表するはず。それはアレンがその場にいてもいなくても変わらず、どんなことをしても決行する。
それが今回の舞踏会の真の目的だと、レナは怯えながら語った。
それを聞いたアレンは「は?」と、ドスの利いた声を放つ。ルシアやレナが怯え、ハワードが小さな悲鳴をあげてしまっても、気にとめることはなかった。
(私が、あの屑と結婚? 何の冗談だ!?)
両親を殺され、自身も辱しめられた。それはすべてノワールという、自分勝手な皇子が引き起こしたことでもある。
当然、嫌悪感、そして憎しみの対象でしかない男の婚約者になるなど言語道断だった。
「冗談じゃない。なぜ私が、あの屑で役にもたたない……いる必要のない男の妻にならなければならない? しかも、私の意見の有り無しに関わらず!」
(胃が痛い)
キリキリと痛む。
怒りだけが、彼の端麗な顔に殺意という毒を撒いた。
「……アレン、大丈夫だよ」
「ハワード?」
怒りに蝕まれそうになった直後、ハワードがアレンの手を優しく握る。見た目の厳つさなど気にもならないほどに柔らかな笑みで、アレンをそっと抱きしめた。
「兄上の真意はわからないけれど。俺が、君を守ると誓う。だって俺は、アレンを愛しているから。兄上を失脚させて、父上を説得する。そして、アレンが望むように……君が幸せになれるように、努力するから」
「は、わーど……ありがとう」
目頭が熱くなるのを隠すように、アレンは下を向く。ハワードの厚い胸板に顔を埋め、心の底から安堵を覚えた。
(ああ……どうして君のそばは、こんなにも落ち着くんだろう?)
愛している。そう口にしようとした瞬間、アレンは全身の身の毛がよだった。ゾワリと、心臓すらも恐怖するような感覚が押しよせてくる。
はあはあと荒い息遣い。額から流れる冷や汗など。数秒前までの優雅な姿はどこにもなかった。あるのは恐怖に溺れた自身だけ。
「アレン!?」
ハワードがアレンを抱きよせようとした瞬間、舞踏会場の扉がゆっくりと、確実に開いていく。そしてそこから現れたのは一人の青年で、厭らしいほどの笑みをしていた。
「あ、兄上……!」
会場の中にいると思われていた、四人の共通の標的。それがこの男、ノワール第一皇子だ。彼は短めの金髪と整った顔立ちを崩すことなく、ニヤリと不気味な笑みをしながらアレンたちの元へと向かってくる。
「ああ、こんなところにいたんだね? アレン。さあ、私との婚約発表の時間だ。一緒に来てくれないかな?」
アレンに近づきながら手を伸ばしてきた。けれどレナがアレンを庇うように、両手を広げて立ち塞がる。
ルシアも同様にレナの隣に立ち、ため息をついた。
「ノワール様、私、感謝していますのよ?」
ルシアが誰よりも先に、ノワールに向かっていく。そして鉄錆色の髪を払い、にっこりと微笑んだ。
「あなたが婚約破棄を申し出てくれたおかげで、友だちがたくさん出来ましたの。それから……」
パァ……ン!
気持ちの悪い笑みを絶やさないノワールへ、一気に平手打ちを与える。
ノワールはポカンとし、たたかれた頬を触った。
「……は? えっ? な、何で、私の頬を……」
「そんなの簡単なことですわ」
驚き続けるノワールをよそに、ルシアは無表情で手をブラブラさせた。目の前にいる男に哀れむような視線を送り、口を開く。
「いい加減になさいませ! あなたの我が儘で、どれほどの者が傷ついたか。それを、考えたことがございますか!?」
「……なっ!」
子を叱る母親のように、ノワールへ本音をぶちまけた。怒りながらも優雅に叱咤する様は、まさに女帝と言える。
「……私のことはまだ、許せましょう。ですが、アレン様への数々の罪。それだけは、どうしても許すことができません!」
その場の視線がアレンに注がれた。
「……ルシア嬢、後は私がやろう」
アレンは吐き気を抑えながら、ハワードとともにノワールを凝視する。苦しくてもがきたい。そう思いながらも、ここで倒れるわけにはいかなかった。
ハワードに支えられながらノワールへとよる。そして皇子への嫌悪感を顕にしながら、すうーと深呼吸した。
「ノワール殿下、なぜ、私を手篭め……無理やり襲ったのですか?」
(あのときの恐怖が、今も鮮明に甦ってくる。怖くて苦しくて、痛くて……それでも我慢するしかなくて)
もう二度と、あんな思いはしたくない。そう、独り言ちる。
ノワールは力なくその場に四つん這いになっていた。ブツブツと呪文のように何かを呟きながら、壊れた人形のようになっている。
アレンはその残念な姿に怒りを覚え、ついには片足で壁をドンッとした。
ノワールが「ひっ!」と怯えた様子になっても、彼の追撃はとどまるどころか強くなっていく。
「答えろ! なぜ、私をあんな目に遭わせた!? どうして、父と母を殺した!?」
気丈に振る舞ってはいながらも、彼の目には涙が溜まっていた。それでも真実を答えるまではとめるつもりはなく、アレンは怒りと悲しみの間で歯軋りをする。
そんな彼らのそばにいるレナは、ノワールの体から出ている黒い渦のようなものを見た。アレンやルシア、ハワードもそれに気ついてはいないよう。
そしてそれは聖女として、光魔法が使えるレナだからこそだった。
「あの黒い霧はラスボスの……うっ!」
頭が割れるような痛みを伴う。頭痛と呼ぶのも生易しいそれは、次第にレナの中で消えていた記憶を呼び覚ましていった。
「……ぁ……っあ!」
信じられないものを見る眼差しで、ノワールとアレンを交互に見つめた。そして頭痛を抑えながら、慌てながらハワードの服を引っぱる。
「ハワード様、アレン様をとめてください!」
鬼気迫る表情だ。
「やっと、やっと思い出したんです! 闇の正体……そして、ラスボスが誰なのかを!」
「えっ!?」
レナは早くとめてと、何度も懇願する。
「アレン様なんです! 本来のシナリオだと、すべてのルートのラスボスは、アレン様自身なんです!」
今、ノワールの体から出ている黒い霧。それは本来なら、アレンが背負うものだった。けれどそのシナリオが既に狂ってしまっていて、どういうわけか、闇はノワールの中にいる。
そしてその闇はアレンの元へと戻ろうとしていた。
豪華絢爛なシャンデリアや食べ物、そして貴族たちのきらびかな格好。どれをとっても、一般市民には手の届かないようなパーティーだ。
そんなパーティーが行われる会場の外に、アレンたちはいる。彼らは会場から少し離れた広場に集まっていた。
パーティー用のドレスに着替えたレナは、黄色いヒラヒラのスカートのまま椅子に座る。そして少しでも役にたてるならと、新しい情報をアレンたちへと伝えた。
「……なるほど。つまりはこの舞踏会は、あの屑が主催したものなのか」
レナの話はこうだ。
まず、この舞踏会の主催はノワール。彼はこの国の第一皇子にして、ハワードの実兄だ。そんな男は今夜、新しい婚約者のお披露目をするという。
「それは、レナ嬢のことですよね?」
アレンは迷いのない瞳で言い放った。しかし……
レナは首を左右にふり、アレンの言葉を否定する。ため息混じりに呆れた様子で、会場となる建物を凝視した。
「私はあくまでも、遊びなんだそうです」
ルシア同様、捨てられたようなもの。そう、呟く。けれど悲観する声ではなく、むしろ呆れ果てたような。ノワールを最初から切り捨てることを前提として話しているような。
そんな雰囲気があった。
「そもそも私は、ノワール様に何もしていません。魅了魔法とか、そんなものも使っていないし」
「おや? そう、だったのかい? 私はてっきり、魅了魔法などを使っていたとばかり」
アレンの容赦ない一言に苦く笑み、再びレナは否定する。
「私があの人に近づいたときには、既にあんな性格でしたよ? 美人が好き! とも、言ってましたし」
「……本当に、救いようのない屑だな」
「まったくです! ……あ、話を戻しますが、ノワール様が婚約者として紹介するのは、私ではないのは確かです」
そうなると、いったい誰を婚約者に仕立てようと言うのか。これにはますます疑問が残った。
(あの屑のことだ。ルシア嬢と復縁は、絶対にないだろう。プライドだけは、人一倍高いしな。そうなると、本当に誰なんだ?)
心当たりのある女性はもういない。いくら屑だったとしてもメイドや町娘に、節操なしに手をつけることは考えにくかった。そうなる前に国王がとめに入ることは、目に見えていたからだ。
「あの国王も、とっとと引退してしまえばいいものを」
ハワードが後を継げば万事解決。そう、容赦ない一言をたたきこんだ。
これにはハワードも、レナやルシアですら肩をすくませてしまう。アレンの二面性……存外な口の悪さが目立っていたからだ。
そして、ハワードに口を塞がれるまでそれは続く。
「ああ、すまないね。どうにも、ハワード以外の王族は好きになれなくて」
「あ、アレン。気持ちはわかるけど、そのぐらいで」
「ん? そうだな」
どんどん話の論点がズレていることに気づき、アレンは咳払をした。
するとレナがスッと手を挙げる。彼女は言いにくそうにしながら、アレンとハワードを交互に見た。
「ま、前にも言ったと思いますが、この世界はBLゲームなんです。登場人物の男性の大半がそれでして……」
レナはすーはーと深呼吸し、両目をカッと見開く。かと思えばルシアの後ろに隠れて、そこから顔を出した。
「あ、アレン様、怒らないでくださいね?」
「え? あ、うん……?」
突然、何を言い出すのか。この少女は何を知っているのか。誰もが緊張の糸に絡め取られていった。
「男性の大半がそういう人ということは、ノワール様も例外ではありません。あの方の本当の目的は、ルシア様を陥れることでも、私と婚約することでもありません」
どうやらレナは、忘れていた記憶が思い起こされたらしい。けれどその内容はあまりにも残酷なもので、アレンに伝えるべきか悩んでいたと言う。
それでもここまで来てしまった以上、言わない選択肢などか彼女にはなかった。
「あの方の目的は……アレン様、あなたと婚約して、あなたを妻として迎え入れることです」
今夜のこの舞台で、ノワールは皆の前で発表するはず。それはアレンがその場にいてもいなくても変わらず、どんなことをしても決行する。
それが今回の舞踏会の真の目的だと、レナは怯えながら語った。
それを聞いたアレンは「は?」と、ドスの利いた声を放つ。ルシアやレナが怯え、ハワードが小さな悲鳴をあげてしまっても、気にとめることはなかった。
(私が、あの屑と結婚? 何の冗談だ!?)
両親を殺され、自身も辱しめられた。それはすべてノワールという、自分勝手な皇子が引き起こしたことでもある。
当然、嫌悪感、そして憎しみの対象でしかない男の婚約者になるなど言語道断だった。
「冗談じゃない。なぜ私が、あの屑で役にもたたない……いる必要のない男の妻にならなければならない? しかも、私の意見の有り無しに関わらず!」
(胃が痛い)
キリキリと痛む。
怒りだけが、彼の端麗な顔に殺意という毒を撒いた。
「……アレン、大丈夫だよ」
「ハワード?」
怒りに蝕まれそうになった直後、ハワードがアレンの手を優しく握る。見た目の厳つさなど気にもならないほどに柔らかな笑みで、アレンをそっと抱きしめた。
「兄上の真意はわからないけれど。俺が、君を守ると誓う。だって俺は、アレンを愛しているから。兄上を失脚させて、父上を説得する。そして、アレンが望むように……君が幸せになれるように、努力するから」
「は、わーど……ありがとう」
目頭が熱くなるのを隠すように、アレンは下を向く。ハワードの厚い胸板に顔を埋め、心の底から安堵を覚えた。
(ああ……どうして君のそばは、こんなにも落ち着くんだろう?)
愛している。そう口にしようとした瞬間、アレンは全身の身の毛がよだった。ゾワリと、心臓すらも恐怖するような感覚が押しよせてくる。
はあはあと荒い息遣い。額から流れる冷や汗など。数秒前までの優雅な姿はどこにもなかった。あるのは恐怖に溺れた自身だけ。
「アレン!?」
ハワードがアレンを抱きよせようとした瞬間、舞踏会場の扉がゆっくりと、確実に開いていく。そしてそこから現れたのは一人の青年で、厭らしいほどの笑みをしていた。
「あ、兄上……!」
会場の中にいると思われていた、四人の共通の標的。それがこの男、ノワール第一皇子だ。彼は短めの金髪と整った顔立ちを崩すことなく、ニヤリと不気味な笑みをしながらアレンたちの元へと向かってくる。
「ああ、こんなところにいたんだね? アレン。さあ、私との婚約発表の時間だ。一緒に来てくれないかな?」
アレンに近づきながら手を伸ばしてきた。けれどレナがアレンを庇うように、両手を広げて立ち塞がる。
ルシアも同様にレナの隣に立ち、ため息をついた。
「ノワール様、私、感謝していますのよ?」
ルシアが誰よりも先に、ノワールに向かっていく。そして鉄錆色の髪を払い、にっこりと微笑んだ。
「あなたが婚約破棄を申し出てくれたおかげで、友だちがたくさん出来ましたの。それから……」
パァ……ン!
気持ちの悪い笑みを絶やさないノワールへ、一気に平手打ちを与える。
ノワールはポカンとし、たたかれた頬を触った。
「……は? えっ? な、何で、私の頬を……」
「そんなの簡単なことですわ」
驚き続けるノワールをよそに、ルシアは無表情で手をブラブラさせた。目の前にいる男に哀れむような視線を送り、口を開く。
「いい加減になさいませ! あなたの我が儘で、どれほどの者が傷ついたか。それを、考えたことがございますか!?」
「……なっ!」
子を叱る母親のように、ノワールへ本音をぶちまけた。怒りながらも優雅に叱咤する様は、まさに女帝と言える。
「……私のことはまだ、許せましょう。ですが、アレン様への数々の罪。それだけは、どうしても許すことができません!」
その場の視線がアレンに注がれた。
「……ルシア嬢、後は私がやろう」
アレンは吐き気を抑えながら、ハワードとともにノワールを凝視する。苦しくてもがきたい。そう思いながらも、ここで倒れるわけにはいかなかった。
ハワードに支えられながらノワールへとよる。そして皇子への嫌悪感を顕にしながら、すうーと深呼吸した。
「ノワール殿下、なぜ、私を手篭め……無理やり襲ったのですか?」
(あのときの恐怖が、今も鮮明に甦ってくる。怖くて苦しくて、痛くて……それでも我慢するしかなくて)
もう二度と、あんな思いはしたくない。そう、独り言ちる。
ノワールは力なくその場に四つん這いになっていた。ブツブツと呪文のように何かを呟きながら、壊れた人形のようになっている。
アレンはその残念な姿に怒りを覚え、ついには片足で壁をドンッとした。
ノワールが「ひっ!」と怯えた様子になっても、彼の追撃はとどまるどころか強くなっていく。
「答えろ! なぜ、私をあんな目に遭わせた!? どうして、父と母を殺した!?」
気丈に振る舞ってはいながらも、彼の目には涙が溜まっていた。それでも真実を答えるまではとめるつもりはなく、アレンは怒りと悲しみの間で歯軋りをする。
そんな彼らのそばにいるレナは、ノワールの体から出ている黒い渦のようなものを見た。アレンやルシア、ハワードもそれに気ついてはいないよう。
そしてそれは聖女として、光魔法が使えるレナだからこそだった。
「あの黒い霧はラスボスの……うっ!」
頭が割れるような痛みを伴う。頭痛と呼ぶのも生易しいそれは、次第にレナの中で消えていた記憶を呼び覚ましていった。
「……ぁ……っあ!」
信じられないものを見る眼差しで、ノワールとアレンを交互に見つめた。そして頭痛を抑えながら、慌てながらハワードの服を引っぱる。
「ハワード様、アレン様をとめてください!」
鬼気迫る表情だ。
「やっと、やっと思い出したんです! 闇の正体……そして、ラスボスが誰なのかを!」
「えっ!?」
レナは早くとめてと、何度も懇願する。
「アレン様なんです! 本来のシナリオだと、すべてのルートのラスボスは、アレン様自身なんです!」
今、ノワールの体から出ている黒い霧。それは本来なら、アレンが背負うものだった。けれどそのシナリオが既に狂ってしまっていて、どういうわけか、闇はノワールの中にいる。
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