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第五章 復活のはじまり
第六十九話 全て失った
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ドラクリアが燃え盛り、その炎でオクタヴィアンの城はドラクリアごと崩れ落ちた。
とりあえず隣のオクタヴィアンの屋敷跡に逃げて来た生存者達は、もう動くのもままならない程、疲労困ぱいだった。
崩れた時の土煙なども被ってしまい、皆ほこりまみれだが、まだ夜なのでそこまでひどいとは誰も思っていない。
吸血鬼のオクタヴィアンとテスラにも、さすがに疲労の色が出てきていた。
「あ、危なかった……テスラが城に置いてあったマントとフードを見つけてなかったら……それにグリゴアが聖水の瓶に十字架入れてくれたから、何とか……」
「ふむ。城の中なら何でもあると思ってな、探したんだよ。しかし予想よりも上手くいったな」
吸血鬼の二人はいまだに所々で赤い炎が上がっている城を眺めながら、この程度で事が済んだ事にホッとしていた。
一方、ブカレストから来たベルキとおじさんも、崩れた城を見ながら、安堵の表情を浮かべていた。
「おじさん、これで終わったの?」
「たぶんな……」
おじさんも、もうヘトヘトである。
そこにアンドレアスとヤコブが棺桶を一つ持ってきた。
「よ、よかったでさあ。ローラの棺桶、無事でしたわあ~」
それを聞いたベルキとおじさんはその棺桶の側に行くと、オクタヴィアンの顔を見た。
「いいよ。開けて」
二人は頷くと、ふたを開けた。
そこには静かに眠っているローラの姿があった。
松明の灯りで照らされてるローラは、この世のものではない程美しい。
「ローラ……」
ベルキは思わず肩を振るわせた。その肩をおじさんが軽く叩いた。
それを少し離れた所でローラの美しい寝姿を見ていたオクタヴィアンは、改めて終わった事を実感し、安堵の感情ともう家族が戻って来ない事の喪失感が入り混ざり、複雑な気持ちになった。
「ところでオクタヴィアン。右手、痛いんじゃないのか?」
テスラはオクタヴィアンの感情には気が付かずに、怪我の心配をしてきた。
確かにめちゃくちゃ痛いのだけれど。
「あ、い、痛いですっっ」
そこでテスラがいきなり何かを唱えると、目の前にノブタが一匹走ってきた。
「いいか? まずいが、これを飲めば治る」
それを言われたオクタヴィアンはノブタに噛みつくと、血をゴクゴク飲んだ。
「うーわあ~~~っっ。まっず~~~~~~っっ」
それでもテスラの言う通り、手の傷の痛みと溶けた部分はしっかりと戻っていった。
「獣の血は、非常食だと思えばいい」
「な、なるほど……」
「そんなにまずいんですか? うっわ! まっずっっ!」
目の前で取ってつけたようにヤコブがノブタの血を飲んで吐き出したので、それまで緊張感に包まれていた生存者達に笑いが起こった。
こんな中、オクタヴィアンが小声でテスラに話した。
「何か……ヴラド公……気の毒に見えました……」
「ふむ……そうかもしれんな。ラドゥは人を愛する事にまだ執着があったから、怪物にはならなかった。しかしヴラドは裏切られすぎて、人を突き放した」
「孤独になっちゃったんですよね……」
その二人の会話を聞いて、グリゴアは下を向いて、肩を震わせた。
そこにヘロヘロのバサラブが入ってきた。
「な、なあテスラちゃん。ところでこれでもうヴラドは死んだんだよね? もう復活はないんだよね?」
「いや、分かりません」
その言葉に皆が固まった。
「ヴラドは、吸血鬼というよりも、悪魔に身体を乗っ取られたような状態だったと思われます。私はああいった例を見た事がない。よって分かりません」
「ちょ、ちょ、じゃあどうしたら……」
「私の分かる範囲で申し上げますと、死んだヴラドの身体を日の光に浴びせれば、よほど大丈夫かと……。しかし……」
全員が、崩れ落ちた城の方を見て、愕然とした。
「よ、よし! 我ら全員で、この城を掘り起こそう! な!」
バサラブが何とかみんなを励まし始めた。しかし皆はそれに応える元気はない。
それを見ながら、テスラがオクタヴィアンに話を戻した。
「オクタヴィアン。おまえ、ホントに全てを失ったな」
オクタヴィアンは頷くと、この焼け野原になった自分の屋敷と、いまだにゴウゴウと音を立てて燃えている崩れた城をじっくりと眺めた。
一週間前までは、何事もなく、みんなで和気あいあいと暮らしていたのが、もう遠い昔に感じられる。
エリザベタ……ヨアナ……ローラ……使用人のみんな……
もう誰も戻っては来ない。
ここには悲しみしかない。
ここはみんなの墓場になってしまった……
そう思っても、あまりにこの場所が変わり過ぎて、頭では分かっていても、実感がわかなかった。
しかし、実感がわかない代わりに、いい事を思いついた。
「バサラブ様。ここに慰霊碑を建ててもらえませんか? ここには死者が多すぎます」
皆を説得していたバサラブは、オクタヴィアンのその提案に乗っかった。
「そりゃいい考えだよオロロックちゃん♪ ついでに城の跡地を教会にしてしまえば、ヴラドは復活しないんじゃないか?」
「ああ、それなら復活は防げるかもしれませんな」
テスラもその意見に賛成した。
「ローラもここに埋めるの?」
「埋葬な。それがいい」
ベルキとおじさんも賛成した。皆も「それがいい」と賛成した。
「しかしオロロックちゃん。君はどうするの? だってここ、君の土地でしょ? 他に引っ越すの?」
オクタヴィアンは遠い目をした。
「……ボクは、この土地を離れたいと思っています。ホントはテスラにボクのこの風貌の謎を解いてほしいと思いますけど……でも、ここにいるのは辛い、辛いです。まだ実感がわかない内に去ってしまいたい」
この言葉を聞いて、誰も何も言わなくなった。
しばらくの沈黙の後、テスラが声をかけた。
「そうだな。おまえの好きにするがいい。ここに居るのは辛いよな」
「はい……」
「……まあ、ホントはその毛の抜けた原因と出っ歯の牙を調べたかったが……」
それを聞いてオクタヴィアンは思い出した。
「あ、ああ! そういえば、ラドゥが言ってました。『親衛隊がいたずらで毛の抜ける呪いをかけた……』とか何とか……」
「何? それは本当か? ならば親衛隊からその呪いの言葉を聞き出さないと呪いは解けないぞ!」
「ええええ~っっ!」
テスラの言葉にオクタヴィアンは絶句した。
しかし……
「…………テスラ。もういいです。何か、鏡が見れないせいか、それどころじゃなくなっちゃったせいか……何か髪の毛の事はあまり気にならなくなりました」
「ふむ。そうか、それならもう私からは何も言うまい。まあ、悪魔を召喚して、その呪いを聞き出す事もできたかもしれんが……」
「え?」
それならもう少し残ってやってもらっても~……
オクタヴィアンはすっかり諦めていた髪の毛に希望の光が見えてきて、しっかり心変わりをし始めたその時だった。
「た、大変だあ~! テオフィルが、蘇った~~~~~~っっ!」
大慌てでこちらに馬車が走ってきたのだ。
「えええええええええええええええええええっっ!」
こうして、ただでさえ疲労困ぱいな一団は最後の力を振り絞ってテオフィル退治に向かった。
とりあえず隣のオクタヴィアンの屋敷跡に逃げて来た生存者達は、もう動くのもままならない程、疲労困ぱいだった。
崩れた時の土煙なども被ってしまい、皆ほこりまみれだが、まだ夜なのでそこまでひどいとは誰も思っていない。
吸血鬼のオクタヴィアンとテスラにも、さすがに疲労の色が出てきていた。
「あ、危なかった……テスラが城に置いてあったマントとフードを見つけてなかったら……それにグリゴアが聖水の瓶に十字架入れてくれたから、何とか……」
「ふむ。城の中なら何でもあると思ってな、探したんだよ。しかし予想よりも上手くいったな」
吸血鬼の二人はいまだに所々で赤い炎が上がっている城を眺めながら、この程度で事が済んだ事にホッとしていた。
一方、ブカレストから来たベルキとおじさんも、崩れた城を見ながら、安堵の表情を浮かべていた。
「おじさん、これで終わったの?」
「たぶんな……」
おじさんも、もうヘトヘトである。
そこにアンドレアスとヤコブが棺桶を一つ持ってきた。
「よ、よかったでさあ。ローラの棺桶、無事でしたわあ~」
それを聞いたベルキとおじさんはその棺桶の側に行くと、オクタヴィアンの顔を見た。
「いいよ。開けて」
二人は頷くと、ふたを開けた。
そこには静かに眠っているローラの姿があった。
松明の灯りで照らされてるローラは、この世のものではない程美しい。
「ローラ……」
ベルキは思わず肩を振るわせた。その肩をおじさんが軽く叩いた。
それを少し離れた所でローラの美しい寝姿を見ていたオクタヴィアンは、改めて終わった事を実感し、安堵の感情ともう家族が戻って来ない事の喪失感が入り混ざり、複雑な気持ちになった。
「ところでオクタヴィアン。右手、痛いんじゃないのか?」
テスラはオクタヴィアンの感情には気が付かずに、怪我の心配をしてきた。
確かにめちゃくちゃ痛いのだけれど。
「あ、い、痛いですっっ」
そこでテスラがいきなり何かを唱えると、目の前にノブタが一匹走ってきた。
「いいか? まずいが、これを飲めば治る」
それを言われたオクタヴィアンはノブタに噛みつくと、血をゴクゴク飲んだ。
「うーわあ~~~っっ。まっず~~~~~~っっ」
それでもテスラの言う通り、手の傷の痛みと溶けた部分はしっかりと戻っていった。
「獣の血は、非常食だと思えばいい」
「な、なるほど……」
「そんなにまずいんですか? うっわ! まっずっっ!」
目の前で取ってつけたようにヤコブがノブタの血を飲んで吐き出したので、それまで緊張感に包まれていた生存者達に笑いが起こった。
こんな中、オクタヴィアンが小声でテスラに話した。
「何か……ヴラド公……気の毒に見えました……」
「ふむ……そうかもしれんな。ラドゥは人を愛する事にまだ執着があったから、怪物にはならなかった。しかしヴラドは裏切られすぎて、人を突き放した」
「孤独になっちゃったんですよね……」
その二人の会話を聞いて、グリゴアは下を向いて、肩を震わせた。
そこにヘロヘロのバサラブが入ってきた。
「な、なあテスラちゃん。ところでこれでもうヴラドは死んだんだよね? もう復活はないんだよね?」
「いや、分かりません」
その言葉に皆が固まった。
「ヴラドは、吸血鬼というよりも、悪魔に身体を乗っ取られたような状態だったと思われます。私はああいった例を見た事がない。よって分かりません」
「ちょ、ちょ、じゃあどうしたら……」
「私の分かる範囲で申し上げますと、死んだヴラドの身体を日の光に浴びせれば、よほど大丈夫かと……。しかし……」
全員が、崩れ落ちた城の方を見て、愕然とした。
「よ、よし! 我ら全員で、この城を掘り起こそう! な!」
バサラブが何とかみんなを励まし始めた。しかし皆はそれに応える元気はない。
それを見ながら、テスラがオクタヴィアンに話を戻した。
「オクタヴィアン。おまえ、ホントに全てを失ったな」
オクタヴィアンは頷くと、この焼け野原になった自分の屋敷と、いまだにゴウゴウと音を立てて燃えている崩れた城をじっくりと眺めた。
一週間前までは、何事もなく、みんなで和気あいあいと暮らしていたのが、もう遠い昔に感じられる。
エリザベタ……ヨアナ……ローラ……使用人のみんな……
もう誰も戻っては来ない。
ここには悲しみしかない。
ここはみんなの墓場になってしまった……
そう思っても、あまりにこの場所が変わり過ぎて、頭では分かっていても、実感がわかなかった。
しかし、実感がわかない代わりに、いい事を思いついた。
「バサラブ様。ここに慰霊碑を建ててもらえませんか? ここには死者が多すぎます」
皆を説得していたバサラブは、オクタヴィアンのその提案に乗っかった。
「そりゃいい考えだよオロロックちゃん♪ ついでに城の跡地を教会にしてしまえば、ヴラドは復活しないんじゃないか?」
「ああ、それなら復活は防げるかもしれませんな」
テスラもその意見に賛成した。
「ローラもここに埋めるの?」
「埋葬な。それがいい」
ベルキとおじさんも賛成した。皆も「それがいい」と賛成した。
「しかしオロロックちゃん。君はどうするの? だってここ、君の土地でしょ? 他に引っ越すの?」
オクタヴィアンは遠い目をした。
「……ボクは、この土地を離れたいと思っています。ホントはテスラにボクのこの風貌の謎を解いてほしいと思いますけど……でも、ここにいるのは辛い、辛いです。まだ実感がわかない内に去ってしまいたい」
この言葉を聞いて、誰も何も言わなくなった。
しばらくの沈黙の後、テスラが声をかけた。
「そうだな。おまえの好きにするがいい。ここに居るのは辛いよな」
「はい……」
「……まあ、ホントはその毛の抜けた原因と出っ歯の牙を調べたかったが……」
それを聞いてオクタヴィアンは思い出した。
「あ、ああ! そういえば、ラドゥが言ってました。『親衛隊がいたずらで毛の抜ける呪いをかけた……』とか何とか……」
「何? それは本当か? ならば親衛隊からその呪いの言葉を聞き出さないと呪いは解けないぞ!」
「ええええ~っっ!」
テスラの言葉にオクタヴィアンは絶句した。
しかし……
「…………テスラ。もういいです。何か、鏡が見れないせいか、それどころじゃなくなっちゃったせいか……何か髪の毛の事はあまり気にならなくなりました」
「ふむ。そうか、それならもう私からは何も言うまい。まあ、悪魔を召喚して、その呪いを聞き出す事もできたかもしれんが……」
「え?」
それならもう少し残ってやってもらっても~……
オクタヴィアンはすっかり諦めていた髪の毛に希望の光が見えてきて、しっかり心変わりをし始めたその時だった。
「た、大変だあ~! テオフィルが、蘇った~~~~~~っっ!」
大慌てでこちらに馬車が走ってきたのだ。
「えええええええええええええええええええっっ!」
こうして、ただでさえ疲労困ぱいな一団は最後の力を振り絞ってテオフィル退治に向かった。
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