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七本槍
将監蜂起
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天正十一年元旦、山崎城の大広間では新年の宴が催されていた。筑前守自身はおくびにも出さなかったが、配下の者どもは主が天下人になったと我がことのように喜んでいた。
宴が多いに盛り上がっている最中、水を差すかのように伝令が大広間に駆けこんできた。
「申し上げます!滝川将監殿、亀山城包囲の由!」
大広間は瞬時に静まり返った。元旦に敵が攻め入ってくるとは誰も思っていない。諸将は呆気に取られていた。そんな中、血の気の引いた顔で筑前守の前に進み出た男がいた。
「お、畏れながら手前の不手際でございます…。手勢を搔き集め、急ぎ亀山に向かい、一矢報いてまいります。」
筑前守の前で平伏している男は、亀山城主、関安芸守だった。わずかな手勢引き連れ、年賀の挨拶のため、山崎を訪れていた。関安芸守は、もともと三七の配下であった。ところが、三七が修理に秋波を送り始めた頃、筑前守に鞍替えしたのだ。己の意思で筑前守の膝下に加わろうとした関を筑前守は大層贔屓にした。そんな筑前守の期待に応えるように、関も筑前守に尽くした。そして、恭順の意を表するため、関は嫡子の四郎とともに城を空けてまでここに来たのだ。
「安芸守殿、お手を上げられよ。滝川将監の暴挙は、織田家に対する明確な謀叛に他ならぬ。そなた一人の問題ではない。」
筑前守は、このことを予期していたかのごとく、穏やかに関を労った。
「皆の衆。折角の宴もこれで終いじゃ。伊勢のたわけが、ぶちこわしてくれたわ。急ぎ出陣の準備をせよ。亀山城を奪い返す。甚内、全軍に陣ぶれをだせ。」
まさか、殿は関様を餌にしたのではあるまいな…。筑前守に一礼し、陣ぶれを伝えに走り回っている安治の脳裏に、ふとよぎった。これで筑前守は、堂々と滝川討伐が可能となる。将監に呼応する形で、修理も雪解けとともに出陣してくるだろう。筑前守は、誰に憚ることなくこれも迎え撃てる。まさに、願ったり叶ったりだ。槍の手入れを忘れずに、とはよく言ったものよ。安治は、筑前守がかけた言葉を思い出していた。
正月三日。既に出立の準備は整っていた。
「皆のもの、よく聞け。これより我らは、滝川将監を成敗しに向かう。じゃが、敵は滝川だけではない。遠からず柴田修理も越前を出てくるであろう。よいかこの戦は、織田家に楯突いた謀叛人を討つ戦じゃ。遠慮はするな。存分に働け!」
出立を前に、筑前守は檄を飛ばした。将兵たちは、一斉に鬨の声を上げた。
先陣は関安芸守が命じられた。筑前守の配慮でもあり、奮起も期待してのことである。安治は、与力として先陣に配属を命じられた。関とともに亀山城奪還戦に加わることになったのだ。
「関様。僭越ながら、某に斥候をお命じ下さいませ。」
安治は、関の前に進み出た。
「おお、脇坂殿。それは、助かる。わしも、誰ぞに斥候を頼もうと思うておったのじゃ。じゃが、貴殿は筑前守様の大事な家臣じゃ。深追いは無用ぞ。」
関は、快く安治を送りだした。
安治は、覚兵衛を筆頭に手勢二十名ほどを引き連れ、亀山城に向かった。道すがら、覚兵衛が轡を並べてきた。
「殿。ここで二手に分かれましょう。手前は半分の手勢を引き連れ、亀山城の周囲を探ります。」
「覚兵衛、何か気になることでも?」
「元旦早々戦を仕掛けてくる以上、滝川様も必勝を期すことでしょう。亀山城に軽くちょっかいをかけただけとは到底思えませぬ。簡単に亀山城を奪い返せるなどと、ゆめゆめ思わぬことが肝要かと。おそらく、滝川様は我らを釘付けにすべく、動いているはずかと。」
安治は、はっとした。安治が、斥候を志願したのは、一気呵成に亀山城を落とす手段はないものか探るつもりだったからだ。そんな安治の楽観を戒めるような、覚兵衛の進言である。もっとも、言われてみれば覚兵衛の言うとおりである。筑前守に戦を仕掛ける以上、筑前守を確実に葬らなければ、己が葬られることになる。安易な作戦など立てるはずもない。
「覚兵衛、もっともじゃ。関様が早仕掛けせぬよう、敵情を具に見ておくことが我らの務めじゃな。頼んだぞ。我らも城の偵察に徹する故、案ずるな。亀山で落ち合おうぞ。」
「承知仕った。ご免!」
そういうなり、覚兵衛は半分の手勢を引き連れ駆けていった。
亀山城に着いた安治は、覚兵衛の見立てが正しかったことを痛感させられた。亀山城の櫓には、鉄砲隊が配備され、万全の迎撃態勢がとられていた。関の部隊だけでは、返り討ちに遭うのが目に見えている。急ぎ関の下に戻り攻撃を控えるよう進言すると同時に、筑前守にも注進せねばならない事態である。
敵の射程から十分離れたところで待機していると、覚兵衛一行が近づいてきた。
「案外早かったではないか。であれば、既に敵が満ち溢れていたということじゃな。」
「御意。既に峯城も滝川勢に落とされ、滝川儀太夫が城を固めております。千や二千の兵で落とせるものでは到底ありませぬ。」
「大儀であった。亀山も見てのとおりじゃ。これは、殿のご判断を仰がねばなるまい。覚兵衛、急ぎ戻るぞ。」
宴が多いに盛り上がっている最中、水を差すかのように伝令が大広間に駆けこんできた。
「申し上げます!滝川将監殿、亀山城包囲の由!」
大広間は瞬時に静まり返った。元旦に敵が攻め入ってくるとは誰も思っていない。諸将は呆気に取られていた。そんな中、血の気の引いた顔で筑前守の前に進み出た男がいた。
「お、畏れながら手前の不手際でございます…。手勢を搔き集め、急ぎ亀山に向かい、一矢報いてまいります。」
筑前守の前で平伏している男は、亀山城主、関安芸守だった。わずかな手勢引き連れ、年賀の挨拶のため、山崎を訪れていた。関安芸守は、もともと三七の配下であった。ところが、三七が修理に秋波を送り始めた頃、筑前守に鞍替えしたのだ。己の意思で筑前守の膝下に加わろうとした関を筑前守は大層贔屓にした。そんな筑前守の期待に応えるように、関も筑前守に尽くした。そして、恭順の意を表するため、関は嫡子の四郎とともに城を空けてまでここに来たのだ。
「安芸守殿、お手を上げられよ。滝川将監の暴挙は、織田家に対する明確な謀叛に他ならぬ。そなた一人の問題ではない。」
筑前守は、このことを予期していたかのごとく、穏やかに関を労った。
「皆の衆。折角の宴もこれで終いじゃ。伊勢のたわけが、ぶちこわしてくれたわ。急ぎ出陣の準備をせよ。亀山城を奪い返す。甚内、全軍に陣ぶれをだせ。」
まさか、殿は関様を餌にしたのではあるまいな…。筑前守に一礼し、陣ぶれを伝えに走り回っている安治の脳裏に、ふとよぎった。これで筑前守は、堂々と滝川討伐が可能となる。将監に呼応する形で、修理も雪解けとともに出陣してくるだろう。筑前守は、誰に憚ることなくこれも迎え撃てる。まさに、願ったり叶ったりだ。槍の手入れを忘れずに、とはよく言ったものよ。安治は、筑前守がかけた言葉を思い出していた。
正月三日。既に出立の準備は整っていた。
「皆のもの、よく聞け。これより我らは、滝川将監を成敗しに向かう。じゃが、敵は滝川だけではない。遠からず柴田修理も越前を出てくるであろう。よいかこの戦は、織田家に楯突いた謀叛人を討つ戦じゃ。遠慮はするな。存分に働け!」
出立を前に、筑前守は檄を飛ばした。将兵たちは、一斉に鬨の声を上げた。
先陣は関安芸守が命じられた。筑前守の配慮でもあり、奮起も期待してのことである。安治は、与力として先陣に配属を命じられた。関とともに亀山城奪還戦に加わることになったのだ。
「関様。僭越ながら、某に斥候をお命じ下さいませ。」
安治は、関の前に進み出た。
「おお、脇坂殿。それは、助かる。わしも、誰ぞに斥候を頼もうと思うておったのじゃ。じゃが、貴殿は筑前守様の大事な家臣じゃ。深追いは無用ぞ。」
関は、快く安治を送りだした。
安治は、覚兵衛を筆頭に手勢二十名ほどを引き連れ、亀山城に向かった。道すがら、覚兵衛が轡を並べてきた。
「殿。ここで二手に分かれましょう。手前は半分の手勢を引き連れ、亀山城の周囲を探ります。」
「覚兵衛、何か気になることでも?」
「元旦早々戦を仕掛けてくる以上、滝川様も必勝を期すことでしょう。亀山城に軽くちょっかいをかけただけとは到底思えませぬ。簡単に亀山城を奪い返せるなどと、ゆめゆめ思わぬことが肝要かと。おそらく、滝川様は我らを釘付けにすべく、動いているはずかと。」
安治は、はっとした。安治が、斥候を志願したのは、一気呵成に亀山城を落とす手段はないものか探るつもりだったからだ。そんな安治の楽観を戒めるような、覚兵衛の進言である。もっとも、言われてみれば覚兵衛の言うとおりである。筑前守に戦を仕掛ける以上、筑前守を確実に葬らなければ、己が葬られることになる。安易な作戦など立てるはずもない。
「覚兵衛、もっともじゃ。関様が早仕掛けせぬよう、敵情を具に見ておくことが我らの務めじゃな。頼んだぞ。我らも城の偵察に徹する故、案ずるな。亀山で落ち合おうぞ。」
「承知仕った。ご免!」
そういうなり、覚兵衛は半分の手勢を引き連れ駆けていった。
亀山城に着いた安治は、覚兵衛の見立てが正しかったことを痛感させられた。亀山城の櫓には、鉄砲隊が配備され、万全の迎撃態勢がとられていた。関の部隊だけでは、返り討ちに遭うのが目に見えている。急ぎ関の下に戻り攻撃を控えるよう進言すると同時に、筑前守にも注進せねばならない事態である。
敵の射程から十分離れたところで待機していると、覚兵衛一行が近づいてきた。
「案外早かったではないか。であれば、既に敵が満ち溢れていたということじゃな。」
「御意。既に峯城も滝川勢に落とされ、滝川儀太夫が城を固めております。千や二千の兵で落とせるものでは到底ありませぬ。」
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