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忠臣
百五十石取り
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丹羽五郎左衛門の詰め所を出た安治は、顛末を報告すべく、再び筑前守の詰め所に向かった。
「脇坂甚内、丹羽様の詰め所より、只今戻りました。殿にお目通り願いたい。」
安治は、門番に告げた。
「先ほど、丹羽様の使者が帰っていったぞ。殿もそなたの帰りを待っていることであろう。ついてまいれ。」
門番は安治を広間に連れて行った。門番のいうとおり、筑前守は既に着座していた。筑前守は安治を認めると、莞爾として笑い、手招きした。
「甚内、よう戻った、近う!」
安治は言われるまま筑前守に近寄り、平伏した。
「丹羽様の使いから話は聞いた。此度のこと、実に大儀であった。」
筑前守は、いたく上機嫌だった。丹羽五郎左衛門がどのような書状を認めたかはわからぬが、相応に安治を持ち上げたのだろう。安治にとって嬉しいことには違いないが、少々“重たさ”も感じていた。
「恐れ入りましてございます。丹羽様との対面の顛末、申し上げます。丹羽様は拙者の顔を見るなり、此度の件は当方の落ち度ゆえご海容願いたいとの仰せを賜りました。もちろん、石の件につきましては当方に非はありませぬゆえ、それを曲げるつもりはありませぬが、さりとて拙者が丹羽様のご配下に手荒な真似を仕掛けたのは事実でございます。それにつきましては、拙者からも非礼をお詫び申し上げました。それを聞いた丹羽様は、改めて此度の件の不手際のお詫びを仰せ頂くと共に、羽柴殿には今後も縄張り普請に精進してもらうようお伝え願いたいとの仰せを賜りましてございます。以上、ご報告申し上げます。」
安治は、事実を淡々と伝えた。筑前守は、話の途中しきりに頷きながら、話を聞いていた。安治が、言い終えた後も、続きを促すかのように安治の目をじっと見ていた。
「甚内、それだけか?」
安治がそれ以上話さないのを見て、筑前守が口を開いた。
「恐れながら、丹羽様からの言付けは以上でございます。丹羽様は、別途、殿宛に書状をお渡しになると仰せでしたが、そちらにも今申し上げたとおりのことが認められていると存じ上げます。」
安治は顔にこそ出さなかったものの、不安を覚えた。何か、丹羽様に対して粗相をしたであろうか。余計な一言が逆鱗にでも触れたのであろうか。いや、丹羽様の顔色からもそのようなことはなかったように思うが…。
「甚内、どこまでも殊勝なやつよ。小憎たらしいくらいじゃて。」
筑前守は、ニヤッと付け加えた。
「丹羽様は、こう仰せではなかったか?“そなたのような配下を持つ羽柴殿は果報者である”と。」
確かに、丹羽五郎左衛門はそう言った。だがそれは、安治からすれば“言葉の綾”に過ぎないことであった。安治としては、大石の件について、丹羽五郎左衛門が理非を弁えてさえくれればよかった。安治自身の評価など、どうでもいいことであった。ましてそのようなことを筑前守に伝えるべきことではない。事の顛末とは何の関係もないからだ。
「恐縮でございます。丹羽様からそのようなお言葉を賜ったようにも感じておりますが、殿に伝えるべき顛末とは何のかかわりもない故、申し上げることではないと愚考した所存にございます。」
周りの者から見たら、売り込み下手と映るのかもしれない。もしかしたら、筑前守もそう思ったが故に、水を向けたのかもしれない。だが、これを殊更“功”と訴えるのも憚られる。こういったことが積み重なって、筑前守のご機嫌取り、と後ろ指を指されかねない。安治としては、それは避けたかった。あくまで、武士として立てるべき功で筑前守に認めてもらいたかった。
「お主らしいと言えば、お主らしい物言いじゃ。そんなお主の姿に、丹羽様も感心なされたのであろう。わしとしても鼻が高いわ。丹羽様のお褒めに預かったから申すわけではないが、此度の一件は、誠に殊勝であった。血を流すことなく、我が方の理を説いた功は、一番槍に勝るとも劣らぬ。よって、お主に百五十石を宛がうこととする。これからも、頼りにしておるぞ。」
「はは、恐悦至極に存じ上げ奉ります。」
安治は、平伏した。大きな戦功を立てているわけでもない安治が、早百五十石取りの身分となった。もし、あのまま浅井家に残っていたらと思うと、己の運の強さを感じずにはいられなかった。
次こそは、戦で功を上げねばなるまいな。安治は、固く誓った。
「脇坂甚内、丹羽様の詰め所より、只今戻りました。殿にお目通り願いたい。」
安治は、門番に告げた。
「先ほど、丹羽様の使者が帰っていったぞ。殿もそなたの帰りを待っていることであろう。ついてまいれ。」
門番は安治を広間に連れて行った。門番のいうとおり、筑前守は既に着座していた。筑前守は安治を認めると、莞爾として笑い、手招きした。
「甚内、よう戻った、近う!」
安治は言われるまま筑前守に近寄り、平伏した。
「丹羽様の使いから話は聞いた。此度のこと、実に大儀であった。」
筑前守は、いたく上機嫌だった。丹羽五郎左衛門がどのような書状を認めたかはわからぬが、相応に安治を持ち上げたのだろう。安治にとって嬉しいことには違いないが、少々“重たさ”も感じていた。
「恐れ入りましてございます。丹羽様との対面の顛末、申し上げます。丹羽様は拙者の顔を見るなり、此度の件は当方の落ち度ゆえご海容願いたいとの仰せを賜りました。もちろん、石の件につきましては当方に非はありませぬゆえ、それを曲げるつもりはありませぬが、さりとて拙者が丹羽様のご配下に手荒な真似を仕掛けたのは事実でございます。それにつきましては、拙者からも非礼をお詫び申し上げました。それを聞いた丹羽様は、改めて此度の件の不手際のお詫びを仰せ頂くと共に、羽柴殿には今後も縄張り普請に精進してもらうようお伝え願いたいとの仰せを賜りましてございます。以上、ご報告申し上げます。」
安治は、事実を淡々と伝えた。筑前守は、話の途中しきりに頷きながら、話を聞いていた。安治が、言い終えた後も、続きを促すかのように安治の目をじっと見ていた。
「甚内、それだけか?」
安治がそれ以上話さないのを見て、筑前守が口を開いた。
「恐れながら、丹羽様からの言付けは以上でございます。丹羽様は、別途、殿宛に書状をお渡しになると仰せでしたが、そちらにも今申し上げたとおりのことが認められていると存じ上げます。」
安治は顔にこそ出さなかったものの、不安を覚えた。何か、丹羽様に対して粗相をしたであろうか。余計な一言が逆鱗にでも触れたのであろうか。いや、丹羽様の顔色からもそのようなことはなかったように思うが…。
「甚内、どこまでも殊勝なやつよ。小憎たらしいくらいじゃて。」
筑前守は、ニヤッと付け加えた。
「丹羽様は、こう仰せではなかったか?“そなたのような配下を持つ羽柴殿は果報者である”と。」
確かに、丹羽五郎左衛門はそう言った。だがそれは、安治からすれば“言葉の綾”に過ぎないことであった。安治としては、大石の件について、丹羽五郎左衛門が理非を弁えてさえくれればよかった。安治自身の評価など、どうでもいいことであった。ましてそのようなことを筑前守に伝えるべきことではない。事の顛末とは何の関係もないからだ。
「恐縮でございます。丹羽様からそのようなお言葉を賜ったようにも感じておりますが、殿に伝えるべき顛末とは何のかかわりもない故、申し上げることではないと愚考した所存にございます。」
周りの者から見たら、売り込み下手と映るのかもしれない。もしかしたら、筑前守もそう思ったが故に、水を向けたのかもしれない。だが、これを殊更“功”と訴えるのも憚られる。こういったことが積み重なって、筑前守のご機嫌取り、と後ろ指を指されかねない。安治としては、それは避けたかった。あくまで、武士として立てるべき功で筑前守に認めてもらいたかった。
「お主らしいと言えば、お主らしい物言いじゃ。そんなお主の姿に、丹羽様も感心なされたのであろう。わしとしても鼻が高いわ。丹羽様のお褒めに預かったから申すわけではないが、此度の一件は、誠に殊勝であった。血を流すことなく、我が方の理を説いた功は、一番槍に勝るとも劣らぬ。よって、お主に百五十石を宛がうこととする。これからも、頼りにしておるぞ。」
「はは、恐悦至極に存じ上げ奉ります。」
安治は、平伏した。大きな戦功を立てているわけでもない安治が、早百五十石取りの身分となった。もし、あのまま浅井家に残っていたらと思うと、己の運の強さを感じずにはいられなかった。
次こそは、戦で功を上げねばなるまいな。安治は、固く誓った。
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