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転生者
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「おはようございますゲスト様、転生を開始します。キャラメイクをどうぞ」
そう短く女性の声が頭の中に響き……彼のゲームはスタートした。
「お、始まった始まった」
世界初にして最大の五感連動型VRMMORPG『アウグスティヌス』
世界最大のパソコン会社に、中国のゲームメーカーが共同開発することにより誕生したこのゲームは、今までのヴァーチャルリアリティという概念を根底から覆した。
コントローラーは不要。
装着したヘッドギアはプレイヤーの脳と直接接続され、比喩表現ではなくプレイヤーは五感でゲームを体験することができる。
物を触った感覚はもちろん、料理の香りに味、現実に比べれば大幅に緩和されているとはいえ、痛みすらも体感できる精巧な作りは、【最もリアルなRPG】として、発売から半年でプレイヤーが千万人を超えた大ヒット作品となった。
潜水艦のソナーを応用して作られたドットのテニスゲームから始まり、ゲームの歴史は早くも百年を超えようとしている。
映像技術、音響技術の進化は目まぐるしく、四ビットから始まったドット絵のゲームは三十年ほどで写真と区別ができないほどの美麗な世界へと変貌を遂げ、さらにはVR技術の確立により視覚と聴覚をゲームの中に侵入させることに成功をした。
その四十年後に五感すべてを侵入させられるようになった……これだけ聞くと短く感じるかもしれないが。その間、触覚、嗅覚、味覚のどれ一つとしてゲームの世界に侵入することができなかった点を考えれば、一度に五感すべてを侵入させたこのゲームがどれほどの技術革新であり、どれほど人々に衝撃を与えたかは想像に難くない。
かく言うこの少年もそんな新たな世界と伝説的な瞬間に出会い早三年。
年齢制限という壁を越え、少年はこの世界への仲間入りをすることを許された。
「職業はナイト、種族は人間。えーとパラメーターは攻略サイトの通りにしてっと」
三年越しの思いはひとしおであり、はやる気持ちを抑えつつキャラメイクを行う。
中にはキャラクターを作るのに一日を費やすという人間もいるが、三年間このゲームに焦がれ続けた少年は、一遍の迷いもなくキャラクターを作り上げていく。
「入力を受け付けました。転生を開始し、新たな人生が始まります。……スタートダッシュキャンペーンとして、レベル五十からゲームを開始します」
「最大レベル三百とはいえ……五十って結構大盤振る舞いだよな……」
ファンファーレの音が鳴り響き、少年の目の前にLEVEL UPの文字が表示され、やがて画面の色が透き通った青から夕焼け空のような赤色に代わる。
「やった……やっと始まる」
「……お待たせいたしましたナイト様……準備が整いました。 これより■■■…を開始します……」
「ん?」
一瞬、女性の声にノイズが走り、視界もカメラのフラッシュのようにホワイトアウトをし、すぐに元に戻る。
「ノイズ……やっぱ中古なのがダメだったかな」
失敗したな、なんて感想を漏らしつつも、不安げに画面に触れ動作確認をするが、ステータス画面もアイテム画面も、問題なくスムーズに動く。
「ゲーム開始まであと10秒……」
「……大丈夫か」
女性の言葉にもうノイズは走ることはなく、少年は一度安堵のため息を漏らすと少しの緊張に身をこわばらせながらその時を待つ。
「……5……4……3……2……1」
「っ……」
ごくりと息をのむ。 なんだか、本当に違う世界に旅立ってしまいそうな、そんな気配を少年は感じながら、不安と期待を入り混ざった不思議な感覚が胸中を乱す。
「プレススタート」
だがそれもわずかな時間でしかない。あたりに光があふれ、しばらくして視界が明瞭になると、そんな期待も不安も彼方へと消えさり、形容しがたい感動が心を埋め尽くす。
開始の合図をした女性の声が変わっていたが、そんなものが埋め尽くされた心に入り込む余地はない。
「俺も……ナイトさんになるんだ」
希望を抱き、望みを抱き、少年は空想へダイブする。
閑散とした部屋はいつの間にか石造りの祭壇のような場所に代わり、立ち上がるとその手にはずっしりと重いロングソードが握られている。
祭壇から下を見下ろすと、そこには武器を持った人間が四人。
突然現れた少年に戸惑うように剣を抜く。
「へぇ、よくできてるじゃん……超リアル」
少年はそんな陳腐な感想しか思いつかないことに、もっと国語の授業をしっかりと受けていれば良かったと後悔しながらも、敢えて称賛の言葉を口にする。
グラフィックのクオリティ、古びた祭壇の埃っぽい匂い、握った剣の感触……そのすべてがもはや本物としか思えず、そう表現することこそが、自分の持ちうるこのゲームに対する最高の称賛の言葉であり、それを口にしなければ、ゲームを始められないと思ったからだ。
「それでは、チュートリアルを始めます。まずは戦闘からです……アーユーレディ?」
頭に響く女性の声に反射的に少年は剣を構えると、視界にチュートリアルが表示され、それと同時になにかを叫びながら兵士の格好をした男二人が襲いかかってくる。
「えい、えい」
試しに剣を振るって見ると、壮大な効果音とともに目前の敵が宙を舞い両断され、手に伝わるリアルな感触に少年は眼を輝かせてゲームに没頭をした……。
こうして彼のゲームは始まった。
だが……その時少年は気づいていなかった。
自分が転生者であることに
そう短く女性の声が頭の中に響き……彼のゲームはスタートした。
「お、始まった始まった」
世界初にして最大の五感連動型VRMMORPG『アウグスティヌス』
世界最大のパソコン会社に、中国のゲームメーカーが共同開発することにより誕生したこのゲームは、今までのヴァーチャルリアリティという概念を根底から覆した。
コントローラーは不要。
装着したヘッドギアはプレイヤーの脳と直接接続され、比喩表現ではなくプレイヤーは五感でゲームを体験することができる。
物を触った感覚はもちろん、料理の香りに味、現実に比べれば大幅に緩和されているとはいえ、痛みすらも体感できる精巧な作りは、【最もリアルなRPG】として、発売から半年でプレイヤーが千万人を超えた大ヒット作品となった。
潜水艦のソナーを応用して作られたドットのテニスゲームから始まり、ゲームの歴史は早くも百年を超えようとしている。
映像技術、音響技術の進化は目まぐるしく、四ビットから始まったドット絵のゲームは三十年ほどで写真と区別ができないほどの美麗な世界へと変貌を遂げ、さらにはVR技術の確立により視覚と聴覚をゲームの中に侵入させることに成功をした。
その四十年後に五感すべてを侵入させられるようになった……これだけ聞くと短く感じるかもしれないが。その間、触覚、嗅覚、味覚のどれ一つとしてゲームの世界に侵入することができなかった点を考えれば、一度に五感すべてを侵入させたこのゲームがどれほどの技術革新であり、どれほど人々に衝撃を与えたかは想像に難くない。
かく言うこの少年もそんな新たな世界と伝説的な瞬間に出会い早三年。
年齢制限という壁を越え、少年はこの世界への仲間入りをすることを許された。
「職業はナイト、種族は人間。えーとパラメーターは攻略サイトの通りにしてっと」
三年越しの思いはひとしおであり、はやる気持ちを抑えつつキャラメイクを行う。
中にはキャラクターを作るのに一日を費やすという人間もいるが、三年間このゲームに焦がれ続けた少年は、一遍の迷いもなくキャラクターを作り上げていく。
「入力を受け付けました。転生を開始し、新たな人生が始まります。……スタートダッシュキャンペーンとして、レベル五十からゲームを開始します」
「最大レベル三百とはいえ……五十って結構大盤振る舞いだよな……」
ファンファーレの音が鳴り響き、少年の目の前にLEVEL UPの文字が表示され、やがて画面の色が透き通った青から夕焼け空のような赤色に代わる。
「やった……やっと始まる」
「……お待たせいたしましたナイト様……準備が整いました。 これより■■■…を開始します……」
「ん?」
一瞬、女性の声にノイズが走り、視界もカメラのフラッシュのようにホワイトアウトをし、すぐに元に戻る。
「ノイズ……やっぱ中古なのがダメだったかな」
失敗したな、なんて感想を漏らしつつも、不安げに画面に触れ動作確認をするが、ステータス画面もアイテム画面も、問題なくスムーズに動く。
「ゲーム開始まであと10秒……」
「……大丈夫か」
女性の言葉にもうノイズは走ることはなく、少年は一度安堵のため息を漏らすと少しの緊張に身をこわばらせながらその時を待つ。
「……5……4……3……2……1」
「っ……」
ごくりと息をのむ。 なんだか、本当に違う世界に旅立ってしまいそうな、そんな気配を少年は感じながら、不安と期待を入り混ざった不思議な感覚が胸中を乱す。
「プレススタート」
だがそれもわずかな時間でしかない。あたりに光があふれ、しばらくして視界が明瞭になると、そんな期待も不安も彼方へと消えさり、形容しがたい感動が心を埋め尽くす。
開始の合図をした女性の声が変わっていたが、そんなものが埋め尽くされた心に入り込む余地はない。
「俺も……ナイトさんになるんだ」
希望を抱き、望みを抱き、少年は空想へダイブする。
閑散とした部屋はいつの間にか石造りの祭壇のような場所に代わり、立ち上がるとその手にはずっしりと重いロングソードが握られている。
祭壇から下を見下ろすと、そこには武器を持った人間が四人。
突然現れた少年に戸惑うように剣を抜く。
「へぇ、よくできてるじゃん……超リアル」
少年はそんな陳腐な感想しか思いつかないことに、もっと国語の授業をしっかりと受けていれば良かったと後悔しながらも、敢えて称賛の言葉を口にする。
グラフィックのクオリティ、古びた祭壇の埃っぽい匂い、握った剣の感触……そのすべてがもはや本物としか思えず、そう表現することこそが、自分の持ちうるこのゲームに対する最高の称賛の言葉であり、それを口にしなければ、ゲームを始められないと思ったからだ。
「それでは、チュートリアルを始めます。まずは戦闘からです……アーユーレディ?」
頭に響く女性の声に反射的に少年は剣を構えると、視界にチュートリアルが表示され、それと同時になにかを叫びながら兵士の格好をした男二人が襲いかかってくる。
「えい、えい」
試しに剣を振るって見ると、壮大な効果音とともに目前の敵が宙を舞い両断され、手に伝わるリアルな感触に少年は眼を輝かせてゲームに没頭をした……。
こうして彼のゲームは始まった。
だが……その時少年は気づいていなかった。
自分が転生者であることに
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