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遺跡の調査
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昔、私が小さかったころに、おばあちゃんが話してくれたおとぎ話がある……。
「昔々……世界に闇の魔王が突如現れ、世界を闇で覆い恐怖に包み込んでいった。すべての人間と王様は、魔王に立ち向かうべく戦いを挑んだが、いかなる武器、いかなる策略をもってしても、魔王を打ち倒すことはかなわなかった。日に日に力を増していく魔王、そして増えていく魔物の群れに困り果てた王様は、この世界の外側にいる【勇者様】に助けを求めることにした。異世界に住まう勇者様はその声にこたえ、神により与えられた【御業】を用いて、魔王軍を打ち滅ぼし、魔王を千年の眠りにつかせることに成功した。じゃが今その千年は過ぎ去り、今や魔王はその力を取り戻した」
「そんな……私たち、どうなっちゃうの?」
「案ずることはないよ、サクヤ。王様はすでに盟友の契約によって、転生者様の召喚に成功をしたからね」
「転生者様が魔王をやっつけてくれるの?」
「あぁそうさ。異世界からの転生者様と共にこの世界はある。だから、サクヤは彼らを助けになるために頑張るんだよ」
「うん! 頑張る!」
おとぎ話を聞いた次の年、おばあちゃんの言葉の通り転生者は魔王を倒した。
そしてその翌日に、転生者は自らを召喚した国を滅ぼした。
祖母の話は嘘ではなかった……確かに魔王は倒された。
だけど、その続きをおばあちゃんは語ってくれなかった……。
今、魔王を超える脅威、余所者は我が物顔でこの世界を侵食し続けている。
◇1
~~現在~~
「遺跡の調査、ですか?」
突然突き付けられた新しい任務内容を、何かの間違いではないかと思わず聞き返す。
「そう、この前の地揺れを覚えているだろう? あの地震で東の平野に巨大な地割れが起きたみたいでね。その中から遺跡が発見されたそうだ……君、そういうの得意だったろう?」
しかし残念ながら、私の聞き間違いでも何かの間違いでもなかったようで、眼鏡のフレームをいじくりながら、貼り付けたようなとぼけた笑みを浮かべる私の上司、王国騎士団魔道研究局・局長アーリーはひょうひょうとそう語り、私は一度表情をしかめてみる。
「確かに遺跡調査は何度か請け負ったことはありますけど……何度も言いますが私は召喚術師ですからね、局長」
遺跡の調査は考古学研究所の管轄だ……とやんわり局長に告げてみるが、帰ってくるのは角砂糖をなめているかのようなほんわかとした笑顔だけだった。
「ははは、まあそうだけど。遺跡と召喚術は切っても切れない関係にあるじゃないか、だったらサクヤ君の専門だろう? 国王直々の命令だ、張り切っていこうじゃないか」
カラカラと笑いながら局長は肩まで伸びた艶のある髪の毛を適当に結んだ後、デスクをバサバサと漁るとボロボロになった書類を私に手渡してくる。
「国王直々の命令の上に、局長は書類を重ねるんですね」
「こいつは手厳しいねサクヤ君。だけど、僕の仕事は一つ一つすべてが王に捧げるもの。ゆえに僕の仕事に貴賤はない、だから重なっても仕方がない」
少しやせ気味の体にだらしないくたくたの白衣。
整った顔立ちをしているのだが、いつも頬はこけてだらしなく無精ひげが伸びており、目の下には大きなクマができている。
やめろと何度も言っているのに昨日もまた徹夜をしたことは明らかであり、私はなんとなく渡された書類のいきさつを悟る。
「はぁ……またそんなことを言って、要はその仕事もほかから押し付けられただけでしょう? それだけ舌は回るのに、局長頼まれたら断れないですものね」
「え、ま、まっさかー」
私の言葉に局長はびくりと肩を震わせた後、冷や汗を浮かべながらわざとらしく紅茶をすする。ちなみにカップは数時間前から空っぽだ。
絵にかいたような図星に、私は大きくため息をついて局長から渡された書類を見る。
そこに書かれていたのは地割れの隙間から除くキューブ型の建物のスケッチだ。
「形状からして、私たちの世界のものじゃありません。れっきとした異世界のものですね」
「それは分かるよ、だからこそ早急な実地調査をお願いしたい。転生者の脅威はもはや国を揺るがすほどだ、この前は町が一つ消えた。情報は彼らに対抗する武器になる」
「そういうなら、王国騎士団長レベルの人間を向かわせるべきでしょう……魔物ぐらいは倒せても、転生者には歯が立ちませんよ私」
「地揺れの対策に騎士団長は追われているからね、今は離れるわけにはいかないのさ」
「だからと言って、私だけで調査するのはどうかと思うのですが」
騎士団員のため、必要に迫られれば盾を持ち剣をふるう……だが、それでも私はあくまで騎士団付きの研究員なのだ。
「なに、心配をすることはない。この地域は国の内側だからね、転生者もいないし魔物も危険度が低いものしかいないさ……」
「話題に上がるような危険度の転生者は……ですよね。盗賊やワイルドハントになった転生者が潜んでいないわけではありません」
「そんな心配しなくても大丈夫だよ。騎士団長とまではいかないけど、流石に君一人を向かわせるほど僕も楽観的じゃないさ。君みたいな優秀な人材を失うわけにはいかないからね、騎士団長に比べたら不満かもしれないが、冒険者ギルドの精鋭部隊を護衛につけるよ」
「ギルドの? よくまあ力を貸してくれましたね。いつもは喧嘩ばっかりしてるのに」
「まぁ、もとはといえば遺跡の調査は彼らからの申し出だからね……」
「なんだそういうことですか。古代文字を解読できるのは、私か局長ぐらいですからね」
その言葉に私は納得する。
いつもはいがみ合っているくせに、利益が絡んだ時の団結は早い騎士団とギルド。
仲がいいんだか悪いんだか。
「反面遺跡やダンジョンの探索は、ギルドの専門だ。騎士団よりも頼りになると思うよ」
「転生者が出なければですよね」
「手厳しいねぇ。でもそれは騎士団長が付いていようが同じことだろ? この世界で転生者におびえずに済む場所なんて存在しない。だからこそできる限りの情報を手に入れるのさ。さて、お話はここまでだ。魔道研究局局長として命じる……遺跡の調査を頼むよ、サクヤ君」
最後の手段、局長としての命令を発動し、局長は私に国王の刻印が刻まれた指令所を手渡してくる。
断ることは許されず、私はやれやれとため息を漏らし。
「……本当に安全なんですよね」
「保証するよ、違ったら君の好きなものをなんでもプレゼントしよう」
そう念押しした後、文書を受け取るのであった
「昔々……世界に闇の魔王が突如現れ、世界を闇で覆い恐怖に包み込んでいった。すべての人間と王様は、魔王に立ち向かうべく戦いを挑んだが、いかなる武器、いかなる策略をもってしても、魔王を打ち倒すことはかなわなかった。日に日に力を増していく魔王、そして増えていく魔物の群れに困り果てた王様は、この世界の外側にいる【勇者様】に助けを求めることにした。異世界に住まう勇者様はその声にこたえ、神により与えられた【御業】を用いて、魔王軍を打ち滅ぼし、魔王を千年の眠りにつかせることに成功した。じゃが今その千年は過ぎ去り、今や魔王はその力を取り戻した」
「そんな……私たち、どうなっちゃうの?」
「案ずることはないよ、サクヤ。王様はすでに盟友の契約によって、転生者様の召喚に成功をしたからね」
「転生者様が魔王をやっつけてくれるの?」
「あぁそうさ。異世界からの転生者様と共にこの世界はある。だから、サクヤは彼らを助けになるために頑張るんだよ」
「うん! 頑張る!」
おとぎ話を聞いた次の年、おばあちゃんの言葉の通り転生者は魔王を倒した。
そしてその翌日に、転生者は自らを召喚した国を滅ぼした。
祖母の話は嘘ではなかった……確かに魔王は倒された。
だけど、その続きをおばあちゃんは語ってくれなかった……。
今、魔王を超える脅威、余所者は我が物顔でこの世界を侵食し続けている。
◇1
~~現在~~
「遺跡の調査、ですか?」
突然突き付けられた新しい任務内容を、何かの間違いではないかと思わず聞き返す。
「そう、この前の地揺れを覚えているだろう? あの地震で東の平野に巨大な地割れが起きたみたいでね。その中から遺跡が発見されたそうだ……君、そういうの得意だったろう?」
しかし残念ながら、私の聞き間違いでも何かの間違いでもなかったようで、眼鏡のフレームをいじくりながら、貼り付けたようなとぼけた笑みを浮かべる私の上司、王国騎士団魔道研究局・局長アーリーはひょうひょうとそう語り、私は一度表情をしかめてみる。
「確かに遺跡調査は何度か請け負ったことはありますけど……何度も言いますが私は召喚術師ですからね、局長」
遺跡の調査は考古学研究所の管轄だ……とやんわり局長に告げてみるが、帰ってくるのは角砂糖をなめているかのようなほんわかとした笑顔だけだった。
「ははは、まあそうだけど。遺跡と召喚術は切っても切れない関係にあるじゃないか、だったらサクヤ君の専門だろう? 国王直々の命令だ、張り切っていこうじゃないか」
カラカラと笑いながら局長は肩まで伸びた艶のある髪の毛を適当に結んだ後、デスクをバサバサと漁るとボロボロになった書類を私に手渡してくる。
「国王直々の命令の上に、局長は書類を重ねるんですね」
「こいつは手厳しいねサクヤ君。だけど、僕の仕事は一つ一つすべてが王に捧げるもの。ゆえに僕の仕事に貴賤はない、だから重なっても仕方がない」
少しやせ気味の体にだらしないくたくたの白衣。
整った顔立ちをしているのだが、いつも頬はこけてだらしなく無精ひげが伸びており、目の下には大きなクマができている。
やめろと何度も言っているのに昨日もまた徹夜をしたことは明らかであり、私はなんとなく渡された書類のいきさつを悟る。
「はぁ……またそんなことを言って、要はその仕事もほかから押し付けられただけでしょう? それだけ舌は回るのに、局長頼まれたら断れないですものね」
「え、ま、まっさかー」
私の言葉に局長はびくりと肩を震わせた後、冷や汗を浮かべながらわざとらしく紅茶をすする。ちなみにカップは数時間前から空っぽだ。
絵にかいたような図星に、私は大きくため息をついて局長から渡された書類を見る。
そこに書かれていたのは地割れの隙間から除くキューブ型の建物のスケッチだ。
「形状からして、私たちの世界のものじゃありません。れっきとした異世界のものですね」
「それは分かるよ、だからこそ早急な実地調査をお願いしたい。転生者の脅威はもはや国を揺るがすほどだ、この前は町が一つ消えた。情報は彼らに対抗する武器になる」
「そういうなら、王国騎士団長レベルの人間を向かわせるべきでしょう……魔物ぐらいは倒せても、転生者には歯が立ちませんよ私」
「地揺れの対策に騎士団長は追われているからね、今は離れるわけにはいかないのさ」
「だからと言って、私だけで調査するのはどうかと思うのですが」
騎士団員のため、必要に迫られれば盾を持ち剣をふるう……だが、それでも私はあくまで騎士団付きの研究員なのだ。
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「話題に上がるような危険度の転生者は……ですよね。盗賊やワイルドハントになった転生者が潜んでいないわけではありません」
「そんな心配しなくても大丈夫だよ。騎士団長とまではいかないけど、流石に君一人を向かわせるほど僕も楽観的じゃないさ。君みたいな優秀な人材を失うわけにはいかないからね、騎士団長に比べたら不満かもしれないが、冒険者ギルドの精鋭部隊を護衛につけるよ」
「ギルドの? よくまあ力を貸してくれましたね。いつもは喧嘩ばっかりしてるのに」
「まぁ、もとはといえば遺跡の調査は彼らからの申し出だからね……」
「なんだそういうことですか。古代文字を解読できるのは、私か局長ぐらいですからね」
その言葉に私は納得する。
いつもはいがみ合っているくせに、利益が絡んだ時の団結は早い騎士団とギルド。
仲がいいんだか悪いんだか。
「反面遺跡やダンジョンの探索は、ギルドの専門だ。騎士団よりも頼りになると思うよ」
「転生者が出なければですよね」
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最後の手段、局長としての命令を発動し、局長は私に国王の刻印が刻まれた指令所を手渡してくる。
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