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至高の騎士
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「……はぁはぁはぁ!?」
出口も、分かれ道も隠れる場所すら見つからない一本道のダンジョンをさらに走る。
「足の速い敵は、時折レアアイテムをドロップすることがあります……敵を倒すとソウルを吸収し体力が回復します……かぁ……薬草もったいないしなぁ」
転生者の追跡は続いている。
なぜこんなにも彼が私にご執心なのかは分からないが、理解などできない独り言をぶつぶつと繰り返しながら、延々と暗い迷宮の中鬼ごっこを続けている。
「その奥に扉……部屋があるよ!」
「部屋!?」
局長のナビゲートによりようやく、身を隠せそうな場所が現れたことに私は一筋の希望を見出し、体当たりをしてを開く……。
だが。
「そんな……」
そこにあったのは、行き止まりの部屋。
隠れる場所も、次の部屋へつながる扉も何もない……あるのは、台座に突き立てられたさび付いた巨大な盾が一つ。
「普通こういうのは剣でしょうに!?」
転生者相手に、盾がいったい何の役に立つのか。
私はそんな八つ当たりに近い不満を漏らしながらも、逃げ道はないかあたりを見回すが、目視では何も確認できない。
「局長!? 何か、抜け道とかないですか?」
私はとっさに、藁にもすがる思いで局長に通信を行うが。
「―――ヤ!? ―――クヤ君!? -う――し……い!? ―――ヤ――!」
響くのはノイズの音と、向こう側で慌てふためいていることだけは分かる局長の声のみ。
「つ、通信障害!? こんな時に!」
もはやとどめといわんばかりに私は完全に退路も仲間との通信手段も立たれてしまい、絶望に青ざめる。
「ダンジョンの最深部には、貴重なアイテムが隠されていることがあります……か、なんかさび付いた盾しかないけど……まぁ最初だからそんなもんか」
背後から響く冷たい声、まるで何かを読み上げているかのようなそんなしゃべり方をする男の声に、私は振り向き
その場にペタリと座り込んでしまう。
近くにいるだけで震えが止まらず……全身が命を諦めた。
息はもう限界で、心臓もこれ以上は無理だと泣き言を言っている……。
それでも走っていられたのは、まだ生きられるという希望が一筋でも残っていたから。
だが、そんな希望ももはやついえた。
「これが……転生者……」
戦う気にもなれないほど強大で……凶悪な力の塊。
「とりあえず先に、体力回復しておこう」
すらりとロングソードを振り上げる転生者。
その白刃に自らの顔が映し出される。
なんて顔だ……。
恐怖に染まり、死にたくないと願っているはずなのに誰がどう見てもその表情は死ぬことを受け入れてしまっている。
立ち向かうことも、逃げ出すことすら不可能なこの空間で、追い詰められた私はその異邦人を見つめることしかで
きない。
ロングソードを構え、死はゆっくりと私に近づく……。
「こ、来ないで……」
震える声でそう懇願に近い言葉を発するも、転生者には鳴き声程度にしか聞こえていないのだろうか? 私ではなく何もない場所を向いたまま。
「えーと……。NPCは、捕獲をすることで、あなたをサポートする奴隷にすることができます……レベルに応じ、所有できる奴隷は増えていきます。いいなこれ」
「な、なにいって……ひぎぃっ!?」
転生者の瞳の色が変わり、震える私の頭を転生者は鷲掴みにする。
乱暴な行動、そして割れそうなほどの握力。
「……あっ……ぐぅ……誰か……誰か、たすけて……」
ミシリという音……恐怖に涙しながら、消え入りそうな最後の自我で……私はそう、助けを求める。
それは最後のあがき……最後の言葉であると覚悟をしての叶うはずがないとわかりきった願い。
【いいだろう、ここに契約は結ばれた。理想はお前の物だ、マスター】
だが……運命はその言葉を、最後にはしてくれなかった。
「……っ!?あいた!?」
突然私の顔から手が離れ……私はその場に尻もちをつく。
お尻に走る痛みに呻きながらも前を見る。
そこには、騎士がいた。
転生者と私の間に割って入るかのように、その騎士は転生者の腕を掴み、私を引きはがし助け出してくれたのだ。
その存在に実体はなく、霊体なのか半透明ではあるが……それでもなお光り輝く白銀の鎧に、その右腕に握られた
黒色の大楯が、彼が騎士であるということを十分すぎるほどに物語っている。
何者かは分からない……だが、私はその騎士に、なぜか言いようのない絆を感じている。
「またモブか……回復はこっちですりゃいいか!」
しかし、突然の来訪者に対し、転生者は退屈そうにつぶやくと、男の腕を振り払いロングソードを引き抜き、切りかかる。
【――――!!】
しかし。
「え?」
騎士は、その刃を受け止めた。
「はぁ!?」
初めて響く、転生者の驚愕の声。
それも当然だ……騎士は、振るわれた刃を素手で受け止めたのだから。
ぴたりと止まったロングソード。
対して騎士の手には血の一滴も滲むことはなく、同時に。
【―――――!!】
乾いた音を響かせ、ロングソードのほうが砕け散る。
「なるほど、最悪のタイミングで流れ着いたか……ついてないなルーキー……」
「なっ? なっ! こいつ本当にモブ……!?」
あまりの光景に、転生者でさえも驚愕しうろたえる中……。
男は刃を握りつぶした拳を握り、転生者の顎に一直線に放つ。
響く風切音。
続いて何かが砕けるような音。
「モブキャラだと思った? 残念! 主人公でした!!」
そして、清々しいほど意味不明な大声をあげて、騎士は転生者を撃退した。
◆
出口も、分かれ道も隠れる場所すら見つからない一本道のダンジョンをさらに走る。
「足の速い敵は、時折レアアイテムをドロップすることがあります……敵を倒すとソウルを吸収し体力が回復します……かぁ……薬草もったいないしなぁ」
転生者の追跡は続いている。
なぜこんなにも彼が私にご執心なのかは分からないが、理解などできない独り言をぶつぶつと繰り返しながら、延々と暗い迷宮の中鬼ごっこを続けている。
「その奥に扉……部屋があるよ!」
「部屋!?」
局長のナビゲートによりようやく、身を隠せそうな場所が現れたことに私は一筋の希望を見出し、体当たりをしてを開く……。
だが。
「そんな……」
そこにあったのは、行き止まりの部屋。
隠れる場所も、次の部屋へつながる扉も何もない……あるのは、台座に突き立てられたさび付いた巨大な盾が一つ。
「普通こういうのは剣でしょうに!?」
転生者相手に、盾がいったい何の役に立つのか。
私はそんな八つ当たりに近い不満を漏らしながらも、逃げ道はないかあたりを見回すが、目視では何も確認できない。
「局長!? 何か、抜け道とかないですか?」
私はとっさに、藁にもすがる思いで局長に通信を行うが。
「―――ヤ!? ―――クヤ君!? -う――し……い!? ―――ヤ――!」
響くのはノイズの音と、向こう側で慌てふためいていることだけは分かる局長の声のみ。
「つ、通信障害!? こんな時に!」
もはやとどめといわんばかりに私は完全に退路も仲間との通信手段も立たれてしまい、絶望に青ざめる。
「ダンジョンの最深部には、貴重なアイテムが隠されていることがあります……か、なんかさび付いた盾しかないけど……まぁ最初だからそんなもんか」
背後から響く冷たい声、まるで何かを読み上げているかのようなそんなしゃべり方をする男の声に、私は振り向き
その場にペタリと座り込んでしまう。
近くにいるだけで震えが止まらず……全身が命を諦めた。
息はもう限界で、心臓もこれ以上は無理だと泣き言を言っている……。
それでも走っていられたのは、まだ生きられるという希望が一筋でも残っていたから。
だが、そんな希望ももはやついえた。
「これが……転生者……」
戦う気にもなれないほど強大で……凶悪な力の塊。
「とりあえず先に、体力回復しておこう」
すらりとロングソードを振り上げる転生者。
その白刃に自らの顔が映し出される。
なんて顔だ……。
恐怖に染まり、死にたくないと願っているはずなのに誰がどう見てもその表情は死ぬことを受け入れてしまっている。
立ち向かうことも、逃げ出すことすら不可能なこの空間で、追い詰められた私はその異邦人を見つめることしかで
きない。
ロングソードを構え、死はゆっくりと私に近づく……。
「こ、来ないで……」
震える声でそう懇願に近い言葉を発するも、転生者には鳴き声程度にしか聞こえていないのだろうか? 私ではなく何もない場所を向いたまま。
「えーと……。NPCは、捕獲をすることで、あなたをサポートする奴隷にすることができます……レベルに応じ、所有できる奴隷は増えていきます。いいなこれ」
「な、なにいって……ひぎぃっ!?」
転生者の瞳の色が変わり、震える私の頭を転生者は鷲掴みにする。
乱暴な行動、そして割れそうなほどの握力。
「……あっ……ぐぅ……誰か……誰か、たすけて……」
ミシリという音……恐怖に涙しながら、消え入りそうな最後の自我で……私はそう、助けを求める。
それは最後のあがき……最後の言葉であると覚悟をしての叶うはずがないとわかりきった願い。
【いいだろう、ここに契約は結ばれた。理想はお前の物だ、マスター】
だが……運命はその言葉を、最後にはしてくれなかった。
「……っ!?あいた!?」
突然私の顔から手が離れ……私はその場に尻もちをつく。
お尻に走る痛みに呻きながらも前を見る。
そこには、騎士がいた。
転生者と私の間に割って入るかのように、その騎士は転生者の腕を掴み、私を引きはがし助け出してくれたのだ。
その存在に実体はなく、霊体なのか半透明ではあるが……それでもなお光り輝く白銀の鎧に、その右腕に握られた
黒色の大楯が、彼が騎士であるということを十分すぎるほどに物語っている。
何者かは分からない……だが、私はその騎士に、なぜか言いようのない絆を感じている。
「またモブか……回復はこっちですりゃいいか!」
しかし、突然の来訪者に対し、転生者は退屈そうにつぶやくと、男の腕を振り払いロングソードを引き抜き、切りかかる。
【――――!!】
しかし。
「え?」
騎士は、その刃を受け止めた。
「はぁ!?」
初めて響く、転生者の驚愕の声。
それも当然だ……騎士は、振るわれた刃を素手で受け止めたのだから。
ぴたりと止まったロングソード。
対して騎士の手には血の一滴も滲むことはなく、同時に。
【―――――!!】
乾いた音を響かせ、ロングソードのほうが砕け散る。
「なるほど、最悪のタイミングで流れ着いたか……ついてないなルーキー……」
「なっ? なっ! こいつ本当にモブ……!?」
あまりの光景に、転生者でさえも驚愕しうろたえる中……。
男は刃を握りつぶした拳を握り、転生者の顎に一直線に放つ。
響く風切音。
続いて何かが砕けるような音。
「モブキャラだと思った? 残念! 主人公でした!!」
そして、清々しいほど意味不明な大声をあげて、騎士は転生者を撃退した。
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