至高の騎士、動きます〜転生者がこの世界をゲームと勘違いして荒らしてるので、最強騎士が分からせる〜

nagamiyuuichi

文字の大きさ
44 / 64

幕引き

しおりを挟む
「騒がしい奴だな、そんなに痛むなら治療の方を優先するか?」

 すたすたとアッガスへと向かうナイト=サン。

 背後で茫然としているソニックも目に突き刺さっている剣でさえも文字通り眼中にないとでもいうような様子の
彼は、そのグロテスクな光景のまま平然とアッガスの胸の傷に治癒魔法をかける。

「あ、ありがとう。じゃなくて! おま、目っ! 突き刺さってるって!」

「安心しろ、ダメージはない」

 平然とそう語るナイト=サン。

「はあ? いやいやおかしいだろ、だってお前目に……ってあれ?」

 その様子にアッガスは気を動転させるが。

 しかしナイト=サンが近づいてきたおかげか、その異常にすぐに気が付く。

「血が出てねえ」

 そう、深々と刺さった短刀……しかしその刺さった部分からは、血液一つ涙すらこぼれていない。

「一体どういう……」

「こういうことだ」

 ナイトさんはぶんと、一つ顔を振ると、からりと短刀が落ちる。

 その目には傷一つ存在せず……突き刺さったはずの短刀にも何も付着していない。

「……は?」

 正直、こういうことだと言われてもアッガスには理解はできず声を上げると、ナイトさんは「つまりだな……」と説明をしようと口を開く。

しかし。

「なんだよ……なんだよお前! 確かに急所を貫いたぜ! だっていうのに、たかがナイトがどうして僕のあの連
打を耐えきれるんだよ。いくら体力が高くたって、防御力が高くたって……クリティカルは防御力無視の攻撃だ。
なんで、なんで立ってられるんだよ!」

 アッガスの疑問を代弁するように、ソニックは声を張り上げる。

 その声にあきれるようにナイトさんはため息を漏らすと、アッガスを助け起こして振り返り。

「至高の騎士の上級スキル【猛獣除け】と呼ばれるものでな、武器にしてAランク、魔法にして第八番代魔法、スキルにしてAランク以下に相当する攻撃を無効……なかったことにする。 もちろん、level50以下の存在はAランクの魔法も装備も持てないからな……あの男のレベルは50丁度……攻撃は最初から何一つ効いていない」
そう、実力差を語る。

「は? は? はああぁ! なんだよ、なんだよそのスキル! 聞いたことねえよ! しかもなんだよAランク武
器ってよ! 第八番代魔法ってなんだよ! スキルAランクってなんだよ! そんなもの知らねえよ! あるわけないだろそんなもの! そもそも、このゲームのマスターレベルは50で」

「そうだな……ああそうだ、お前の時代ではな」

「はっ?」

 ナイトさんはそう語り、状況を理解できていないソニックにわかりやすく説明をする。

「お前が自慢げに語っているそのプレイヤーランクってのは……はるか昔の物だってことだ、お前の知っている~アウグスティヌス~は第十期の終了と同時にサービスを終了した……第四期というと混迷期だな~魔界闘士の屍を超えて行け~の頃とデータにはある」

「は? 十? お前、何言って」

 理解できない……いや、理解したくないとソニックは拒絶をする。

 しかし、その圧倒的力量差、レベルの差に……世界中のプレイヤーのうち上位百人に一度はたった男だからこそわかってしまう。

 自分は、過去の人間なのだと。

「この世界に呼び出される人間の時代はランダムだ、過去未来がごちゃ混ぜになって召喚される。だからお前のように気づかないままのやつもいてもおかしくはない」

「なんだよそれ……じゃあななにか? お、お前は、サービス終了後に召喚されたっていうのかよ?」

「あぁ、そうだ……我がマスターの手により召喚された」

 ナイト=サンはそう自信満々に矛盾を語る。

「バカじゃないか? そんなわけねーだろ! サービス終了したっていうのに、どうしてこの世界に来れるってい
うんだよ! サービス終了の意味わかってる? プレイヤーがいられなくなるんだよ……あのワールドに接続をしていないとこの世界には来れない! なのに、サービス終了した後にどうやってお前はこの世界に……」

 勝てるわけがない、そう体が理解したからこそ、頭はそれを嘘だと願う。

 彼の矛盾を、その男の虚言を暴くべく、そんなことはあり得ないと相手を糾弾しながら、ソニック・ムーブはナ
イト=サンへと言葉を叩きつける。

 それが無駄な努力とも、たとえ彼の言葉がすべて虚言であったとしても、埋めようのない実力差は変わらないと知ることもなく。

「言ったはずだ、俺は理想の騎士だと」

「はっ! 何言ってんだよ。いくらお前が強くたって、回避率百%の僕に勝てるわけ……」

「スキル……【絶対的中】」

「へ?」

 ナイト=サンは短くそう呟くと、拳を振り上げる。

「ソニックムーブ、お前はあのルーキーよりかは強かったよ」

「てめっ!?」

 腹部に叩き込まれたのは、生半可な忍ではよけきれないコークスクリューブロー。

「あがっ……はっ……」

 それを、ナイト=サンはHPを1だけ残す【手心】のスキルと同時に放つ。

「【絶対的中】は、第五期から追加されたレベル五から覚えられるノーマルスキルだ。所詮お前のその力は……その程度だったということだ」

「て……てめえ……」

 その場にうずくまりながら、体力のほとんどを削られたソニックは身もだえをする。
 
その一撃で、勝負は完全に決した。 

「殺さないのか? ナイト」

 とどめを刺さずに手心を加えたという言葉に、アッガスは首を傾げながら問いかけると。

「あぁ、殺す価値もない……自分がどうありたいのかも分からない奴は、この世界でもいずれ淘汰される」

「淘汰? この僕が……淘汰だって!?」

 実力差を知りながら、ソニックはその言葉を受け入れることができない。

 自らのプライド、過去の実績そのすべてが……今の自分のみじめさを許さないのだ。

「そうか……」

 アッガスはナイトの言葉を疑わない。

 ナイトの言うことはおそらく正しいのだろうと、目の前で自らの誇りに縋りつく男を見て、そう思えたからだ。

「行こうか……」

「ああ」

 短く言葉を交わし、ナイトさんは背を向ける。

「うああああああああああああああ!」

 プライドを傷つけられ、ソニックムーブは叫びながらナイトに切りかかる。戦術も何もない悪あがきのような攻撃。

 しかし、ナイト=サンは振り返ることはなく。

 代わりに、その胸には一本の矢が突き刺さる。

「え?」

 崩れ落ちるソニックムーブ……死に絶える最後の一瞬、顔をあげてその先を見ると、そこには精悍な顔つきで弓を構える、エルフ族の少女の姿があった。

「……意外と、早く淘汰されたな」

「ちくしょう……」

 水晶鉱脈に、そんなむなしい声が残響した。
  
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ

如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白? 「え~…大丈夫?」 …大丈夫じゃないです というかあなた誰? 「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」 …合…コン 私の死因…神様の合コン… …かない 「てことで…好きな所に転生していいよ!!」 好きな所…転生 じゃ異世界で 「異世界ってそんな子供みたいな…」 子供だし 小2 「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」 よろです 魔法使えるところがいいな 「更に注文!?」 …神様のせいで死んだのに… 「あぁ!!分かりました!!」 やたね 「君…結構策士だな」 そう? 作戦とかは楽しいけど… 「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」 …あそこ? 「…うん。君ならやれるよ。頑張って」 …んな他人事みたいな… 「あ。爵位は結構高めだからね」 しゃくい…? 「じゃ!!」 え? ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!

【完結】悪役に転生したのにメインヒロインにガチ恋されている件

エース皇命
ファンタジー
 前世で大好きだったファンタジー大作『ロード・オブ・ザ・ヒーロー』の悪役、レッド・モルドロスに転生してしまった桐生英介。もっと努力して意義のある人生を送っておけばよかった、という後悔から、学院で他を圧倒する努力を積み重ねる。  しかし、その一生懸命な姿に、メインヒロインであるシャロットは惚れ、卒業式の日に告白してきて……。  悪役というより、むしろ真っ当に生きようと、ファンタジーの世界で生き抜いていく。  ヒロインとの恋、仲間との友情──あれ? 全然悪役じゃないんだけど! 気づけば主人公になっていた、悪役レッドの物語! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。

処理中です...