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決戦
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戦場となる冒険者都市アルムハーンはその日、嘘みたいに雲一つない快晴となった。
かつてこの町アルムハーンは戦争に巻き込まれ、幾度も襲撃を受けたという。
堅牢な城壁は、地形によるアドバンテージをとることのできない冒険者たちが生み出した文字通り最後の砦。
ドワーフの職工が作り上げたレンガ造りの壁にはエルフにより防護結界が幾重にも張り巡らされており、ノームたちが描いた龍と盾の紋章が彼らの誇りを示すように黄金に輝く。
この地にかつて勇者あり。
何者にも染まらず、何者にも加担せず。
ただこの世界の人のために戦った最初で唯一の異邦人(転生者)がいた。
人々が手を取り、種族を問わず背中を預けあう。そんな当たり前のことを教えてくれた伝説の勇者が。
名産もなければ、名所もないこのアルムハーンにとっては、この壁こそが勇者の象徴であり、彼らの盾であり誇りなのだ。
日の光に照らされて輝く龍の紋章。
人同士の戦争が途絶え、代わりに転生者による蹂躙が行われ始めて十年。
冒険者都市アルムハーンはやっと思い出したのだろう。
戦争の前の高揚と緊張を……そして何よりも、勝利に沸き立ち、喚起する人々の栄光を。
もはやそこにいるのは蹂躙されるだけの存在ではない。
彼らは今日ここに、勝利するために立っている。
「まさか本当にやるなんてね、正気の沙汰とは思えないわ」
「英雄譚なんてものは正気の沙汰からは生まれないものだろう?」
「本当、口が減らないわね……まぁいいわ、それじゃあ」
「あぁ……始めよう」
短くかわされる会話のあと、二人は何も語らずにただ見つめあう。
張り詰めた空気に言葉のない視線の交差。
しかしながらその二人の思惑を代弁するかのように、あたり一帯の大地をいくつもの雷がたたきつける。
一触即発という状況を表現するならば、この状況以外に適当な言葉は存在しないだろう。
静寂。しかし彼らの周りには確かに膨大な魔力が渦巻いている。
「改めて勝利条件とルールを確認しよう」
ナイト=サンは不敵な笑みはそのままにそう静かにミコトへと言葉をかける。
それに対しミコトに言葉はなく、一つ頷いて答える。
「アルムハーン側の勝利条件は、お前から町を守り抜くこと。お前はアルムハーンを壊滅、および降伏をさせれば
勝利となる。お互い、使用する武器も魔法にも制限は設けない、フェンリルを魔法によりバックアップすることも
ルールに抵触はしない」
「余裕ね、三日前この村の人間全員を眠らされたの忘れたの?」
「あぁ、忘れてはいないさ。フェンリルはともかく、お前が村に干渉をすればこの勝負の敗北は確実だろう。だか
らこそ俺はここにいる」
冠位剣グランドを引き抜き、さらには大楯を構えるナイトさん。
隙のない、理想のような騎士の構えに、ミコトは一つ息を吐く。
「私を殺せば解決すると思っているなら今のうちに言っておくけれど、悪逆(レイドボス)到来(召喚)は、一度この世に到来した時点で契約のパスを切る。私が死んでもこの世界に残るわよ?」
忠告か、それとも挑発か。杖を構えた状態でナイトさんに声をかけるが。
「そうでなくては困る……あくまで村人の身で厄災を妥当しなければ、この世界の人間の力を見せつけるというこ
とにはならないからな」
予定通りとでも言わんばかりに、ナイトさんは表情を変えずにこたえる。
「まだそんな事言ってるのね……悪いけど勝負と銘打つなら手加減はしないわよ? あんたの信じた人たちがぺしゃんこにされちゃっても知らないから!」
振り上げた杖からは魔力があふれ出し。
その魔力に吸い寄せられるように紫電が杖へと集約する。
「そちらこそ、愛犬を失っても泣くんじゃないぞ」
しかし、ナイト=サンはひるむことなどなく、不敵な笑みをこぼしたままミコトを挑発する。
「ほざけ!!」
ナイト=サンの軽口に対し、怒りをあらわにするようにミコトは杖を振るう。
やがてその悪夢は再び世界へと産み落とされる。
【悪逆到来】
響き渡る雷鳴、そして大地に浮かび上がる巨大な魔方陣。
快晴であった空はいつしか雷鳴響き渡る黒色の雲に覆われ。
その空から産み落とされるかのように、雷をまといながら一匹の狼が大地へと降臨する。
【アオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!】
空と大地、その双方が震え歪んで見える。
落雷よりも巨大にして暴力的な遠吠えは【恐怖】を振りまきながら、主人により与えられた【アルムハーンを蹂
躙せよ】という命令の通り、大地へ降り立つと暴風を巻き上げながら目標へと一直線に走り出す。
それでも、ナイトさんが振り返ることはなく。ただ一閃、ミコトへと刃を振り下ろす。
振るわれる刃と、呼応するかのように展開される魔導障壁。
張り巡らされた障壁をいくつも破壊しながらも、冠位剣グランドはそれでもミコトの首の前でぴたりと止まる。
「かたいな」
「まさか振り返りすらもしないなんてね……」
「言ったはずだ。アルムハーンはフェンリルになど負けはしない」
「何ですって?」
はらりと、一凛の白い花がナイトさんの胸から零れ落ちる。
彼らの世界に存在しないその花は、彼ら初めての反撃の狼煙。
「しかとその目に焼き付けろ……弱いと侮った世界の反撃の物語を!」
雷鳴よりも大きく響き渡るナイト=サンの声。
そしてそれに呼応するかのように、オオカミの遠吠えが平原へと響き渡った。
◇
かつてこの町アルムハーンは戦争に巻き込まれ、幾度も襲撃を受けたという。
堅牢な城壁は、地形によるアドバンテージをとることのできない冒険者たちが生み出した文字通り最後の砦。
ドワーフの職工が作り上げたレンガ造りの壁にはエルフにより防護結界が幾重にも張り巡らされており、ノームたちが描いた龍と盾の紋章が彼らの誇りを示すように黄金に輝く。
この地にかつて勇者あり。
何者にも染まらず、何者にも加担せず。
ただこの世界の人のために戦った最初で唯一の異邦人(転生者)がいた。
人々が手を取り、種族を問わず背中を預けあう。そんな当たり前のことを教えてくれた伝説の勇者が。
名産もなければ、名所もないこのアルムハーンにとっては、この壁こそが勇者の象徴であり、彼らの盾であり誇りなのだ。
日の光に照らされて輝く龍の紋章。
人同士の戦争が途絶え、代わりに転生者による蹂躙が行われ始めて十年。
冒険者都市アルムハーンはやっと思い出したのだろう。
戦争の前の高揚と緊張を……そして何よりも、勝利に沸き立ち、喚起する人々の栄光を。
もはやそこにいるのは蹂躙されるだけの存在ではない。
彼らは今日ここに、勝利するために立っている。
「まさか本当にやるなんてね、正気の沙汰とは思えないわ」
「英雄譚なんてものは正気の沙汰からは生まれないものだろう?」
「本当、口が減らないわね……まぁいいわ、それじゃあ」
「あぁ……始めよう」
短くかわされる会話のあと、二人は何も語らずにただ見つめあう。
張り詰めた空気に言葉のない視線の交差。
しかしながらその二人の思惑を代弁するかのように、あたり一帯の大地をいくつもの雷がたたきつける。
一触即発という状況を表現するならば、この状況以外に適当な言葉は存在しないだろう。
静寂。しかし彼らの周りには確かに膨大な魔力が渦巻いている。
「改めて勝利条件とルールを確認しよう」
ナイト=サンは不敵な笑みはそのままにそう静かにミコトへと言葉をかける。
それに対しミコトに言葉はなく、一つ頷いて答える。
「アルムハーン側の勝利条件は、お前から町を守り抜くこと。お前はアルムハーンを壊滅、および降伏をさせれば
勝利となる。お互い、使用する武器も魔法にも制限は設けない、フェンリルを魔法によりバックアップすることも
ルールに抵触はしない」
「余裕ね、三日前この村の人間全員を眠らされたの忘れたの?」
「あぁ、忘れてはいないさ。フェンリルはともかく、お前が村に干渉をすればこの勝負の敗北は確実だろう。だか
らこそ俺はここにいる」
冠位剣グランドを引き抜き、さらには大楯を構えるナイトさん。
隙のない、理想のような騎士の構えに、ミコトは一つ息を吐く。
「私を殺せば解決すると思っているなら今のうちに言っておくけれど、悪逆(レイドボス)到来(召喚)は、一度この世に到来した時点で契約のパスを切る。私が死んでもこの世界に残るわよ?」
忠告か、それとも挑発か。杖を構えた状態でナイトさんに声をかけるが。
「そうでなくては困る……あくまで村人の身で厄災を妥当しなければ、この世界の人間の力を見せつけるというこ
とにはならないからな」
予定通りとでも言わんばかりに、ナイトさんは表情を変えずにこたえる。
「まだそんな事言ってるのね……悪いけど勝負と銘打つなら手加減はしないわよ? あんたの信じた人たちがぺしゃんこにされちゃっても知らないから!」
振り上げた杖からは魔力があふれ出し。
その魔力に吸い寄せられるように紫電が杖へと集約する。
「そちらこそ、愛犬を失っても泣くんじゃないぞ」
しかし、ナイト=サンはひるむことなどなく、不敵な笑みをこぼしたままミコトを挑発する。
「ほざけ!!」
ナイト=サンの軽口に対し、怒りをあらわにするようにミコトは杖を振るう。
やがてその悪夢は再び世界へと産み落とされる。
【悪逆到来】
響き渡る雷鳴、そして大地に浮かび上がる巨大な魔方陣。
快晴であった空はいつしか雷鳴響き渡る黒色の雲に覆われ。
その空から産み落とされるかのように、雷をまといながら一匹の狼が大地へと降臨する。
【アオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!】
空と大地、その双方が震え歪んで見える。
落雷よりも巨大にして暴力的な遠吠えは【恐怖】を振りまきながら、主人により与えられた【アルムハーンを蹂
躙せよ】という命令の通り、大地へ降り立つと暴風を巻き上げながら目標へと一直線に走り出す。
それでも、ナイトさんが振り返ることはなく。ただ一閃、ミコトへと刃を振り下ろす。
振るわれる刃と、呼応するかのように展開される魔導障壁。
張り巡らされた障壁をいくつも破壊しながらも、冠位剣グランドはそれでもミコトの首の前でぴたりと止まる。
「かたいな」
「まさか振り返りすらもしないなんてね……」
「言ったはずだ。アルムハーンはフェンリルになど負けはしない」
「何ですって?」
はらりと、一凛の白い花がナイトさんの胸から零れ落ちる。
彼らの世界に存在しないその花は、彼ら初めての反撃の狼煙。
「しかとその目に焼き付けろ……弱いと侮った世界の反撃の物語を!」
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