39 / 46
不穏な影
しおりを挟む
「ゔっ……ぐぅ」
───賢者アンネの一撃により敗北したレッドブルが意識を取り戻したのは、薄暗い洞窟の中であった。
「……偶然ここに落ちてきたってわけじゃなさそうだな」
全身に走る痛みを堪えながら体を起こしてみると、あたりには治療のに使用された霊薬や魔法陣の跡が残っており、体を見れば勇者と魔法使いに付けられた傷のほとんどが癒えていた。
一体誰が……。
そうレッドブルが思案をめぐらしたのとほぼ同時に。
「おや、お目覚めになったようですねレッドブル様」
そんな声が洞窟の奥から響く。
「誰だテメェ?」
警戒をするようにレッドブルは唸るように声の主に問いかけると。
「おぉこわいこわい。手負いで気が立っているのは分かりますが、私は命の恩人なのですからもう少し敬意を払っていただきたいものですねぇ」
洞窟の暗がりの中から、白衣に身を包んだ一人の男が現れた。
「恩人……ってーと、治療はお前が?」
レッドブルの問いかけに、男は肩を竦めながら「まぁね」と呟いて肯定をする。
「苦労したんですよ? 全身の大火傷に加えて内臓破裂……骨なんて頭蓋を含んだ半分以上が粉砕骨折……私じゃなければ間違いなく死んでいましたよ?」
嘘を言っている様子はなく、気さくに話しかけてくる男。
だが、暗闇から光るその瞳は虚で、まるで何かの品定めをしているかのような表情に、レッドブルは言いようのない不気味さを覚える。
「人間のくせに魔物に……それも俺を魔王軍幹部と知っていながら手を貸すなんてな。お前、いかれてるってよく言われるだろう?」
皮肉を込めながらレッドブルはそう男に対して軽口を叩くと。
「ふふふ、まぁ天才にはつきものの誹謗中傷ですよ。それに、貴方を助けることはわたしの利益にも繋がります」
「あん? まさか助けてくれたお礼に俺がお前の言う事を聞くとでも思ってんのか?」
「それこそまさかですよ。貴方を助けたのは簡単な話です、私が邪魔に思っている女と貴方が復讐したい女。それが合致していると言うだけです」
その言葉に、レッドブルの脳裏に自らをここまで追い詰めた頭のイカれた賢者の姿が浮かぶ。
「はっ、力を合わせりゃあの化け物に勝てるって? たしかに回復魔法の腕はあるみてぇだが。お前があの化物に対抗できるほどの魔法使いにゃ見えねえぞ?」
ヒョロヒョロの体に、魔力こそ高いがそれでも内包する魔力はあの賢者の1000分の1程度。
とてもでは無いが力量差を埋める要因にはならない。
加えて、あちらには賢者だけでなく魔竜ファブニールを一撃で屠った勇者がいるのだ。
レッドブルはため息を漏らして要求を却下しようとするが。
「たしかに力はありません。ですが、私は弱点を知っている」
男はそんなレッドブルを蠱惑的な言葉で誘惑した。
「なに?」
「あの賢者はたしかに馬鹿げた力を持っていますが、それには理由があります。そして貴方の能力を使えば、あの馬鹿げた力は無効化できる」
ニヤリと笑う男の言葉は、自らの持つ【アンロック】の力のことを指しているのだとレッドブルは悟る。
「だから俺を助けたのか? てめぇ、何処で俺のことを知りやがった」
「ふふふ、それは企業秘密ということでお願いします」
「あん?」
「私にも色々とあるのですよ。それに、貴方だって本気でそんなことを知りたいわけではないでしょう?」
「ちっ、ふざけた野郎だ」
ふざけた態度にレッドブルは悪態をつくが、この男の言う通り、そんなことはたしかにどうでもいい。
大事なのは、勇者の抹殺に魔王軍の脅威を排除することだ。
「それで、如何いたします?」
「決まってんだろ?力を貸してやる。だが、裏切ったらタダじゃおかねえぞ」
「心得ておりますよ。では、契約成立ということで、早速あの女の弱点ですが」
「まて、その前に一つ聞かせろ」
饒舌に話を進めようとする男を、レッドブルは静止する。
「はて、まだ何か?」
「素性はどうでもいいが、お前の目的を聞かせろ。じゃなきゃ信用ができん」
正直目的があろうがなかろうがこの男が信頼できるか否かに変化は訪れない。
だが、魔物の味方をするでもなく、それでいて人間の味方である賢者を敵視するその白衣の男。
レッドブルはそんなどっちつかずの男に興味が湧いたため、そんな質問を投げかける。
「変なこと聞きますねぇ」
「うるせぇ、さっさと教えろ」
半ば強引な態度に男は仕方ないですねぇとため息を漏らすと。
「私はただ、自分が作った作品を返してもらいたいだけですよ」
そう、悪辣さと執着心を混ぜ合わせたような歪な顔で微笑ったのであった。
□
───賢者アンネの一撃により敗北したレッドブルが意識を取り戻したのは、薄暗い洞窟の中であった。
「……偶然ここに落ちてきたってわけじゃなさそうだな」
全身に走る痛みを堪えながら体を起こしてみると、あたりには治療のに使用された霊薬や魔法陣の跡が残っており、体を見れば勇者と魔法使いに付けられた傷のほとんどが癒えていた。
一体誰が……。
そうレッドブルが思案をめぐらしたのとほぼ同時に。
「おや、お目覚めになったようですねレッドブル様」
そんな声が洞窟の奥から響く。
「誰だテメェ?」
警戒をするようにレッドブルは唸るように声の主に問いかけると。
「おぉこわいこわい。手負いで気が立っているのは分かりますが、私は命の恩人なのですからもう少し敬意を払っていただきたいものですねぇ」
洞窟の暗がりの中から、白衣に身を包んだ一人の男が現れた。
「恩人……ってーと、治療はお前が?」
レッドブルの問いかけに、男は肩を竦めながら「まぁね」と呟いて肯定をする。
「苦労したんですよ? 全身の大火傷に加えて内臓破裂……骨なんて頭蓋を含んだ半分以上が粉砕骨折……私じゃなければ間違いなく死んでいましたよ?」
嘘を言っている様子はなく、気さくに話しかけてくる男。
だが、暗闇から光るその瞳は虚で、まるで何かの品定めをしているかのような表情に、レッドブルは言いようのない不気味さを覚える。
「人間のくせに魔物に……それも俺を魔王軍幹部と知っていながら手を貸すなんてな。お前、いかれてるってよく言われるだろう?」
皮肉を込めながらレッドブルはそう男に対して軽口を叩くと。
「ふふふ、まぁ天才にはつきものの誹謗中傷ですよ。それに、貴方を助けることはわたしの利益にも繋がります」
「あん? まさか助けてくれたお礼に俺がお前の言う事を聞くとでも思ってんのか?」
「それこそまさかですよ。貴方を助けたのは簡単な話です、私が邪魔に思っている女と貴方が復讐したい女。それが合致していると言うだけです」
その言葉に、レッドブルの脳裏に自らをここまで追い詰めた頭のイカれた賢者の姿が浮かぶ。
「はっ、力を合わせりゃあの化け物に勝てるって? たしかに回復魔法の腕はあるみてぇだが。お前があの化物に対抗できるほどの魔法使いにゃ見えねえぞ?」
ヒョロヒョロの体に、魔力こそ高いがそれでも内包する魔力はあの賢者の1000分の1程度。
とてもでは無いが力量差を埋める要因にはならない。
加えて、あちらには賢者だけでなく魔竜ファブニールを一撃で屠った勇者がいるのだ。
レッドブルはため息を漏らして要求を却下しようとするが。
「たしかに力はありません。ですが、私は弱点を知っている」
男はそんなレッドブルを蠱惑的な言葉で誘惑した。
「なに?」
「あの賢者はたしかに馬鹿げた力を持っていますが、それには理由があります。そして貴方の能力を使えば、あの馬鹿げた力は無効化できる」
ニヤリと笑う男の言葉は、自らの持つ【アンロック】の力のことを指しているのだとレッドブルは悟る。
「だから俺を助けたのか? てめぇ、何処で俺のことを知りやがった」
「ふふふ、それは企業秘密ということでお願いします」
「あん?」
「私にも色々とあるのですよ。それに、貴方だって本気でそんなことを知りたいわけではないでしょう?」
「ちっ、ふざけた野郎だ」
ふざけた態度にレッドブルは悪態をつくが、この男の言う通り、そんなことはたしかにどうでもいい。
大事なのは、勇者の抹殺に魔王軍の脅威を排除することだ。
「それで、如何いたします?」
「決まってんだろ?力を貸してやる。だが、裏切ったらタダじゃおかねえぞ」
「心得ておりますよ。では、契約成立ということで、早速あの女の弱点ですが」
「まて、その前に一つ聞かせろ」
饒舌に話を進めようとする男を、レッドブルは静止する。
「はて、まだ何か?」
「素性はどうでもいいが、お前の目的を聞かせろ。じゃなきゃ信用ができん」
正直目的があろうがなかろうがこの男が信頼できるか否かに変化は訪れない。
だが、魔物の味方をするでもなく、それでいて人間の味方である賢者を敵視するその白衣の男。
レッドブルはそんなどっちつかずの男に興味が湧いたため、そんな質問を投げかける。
「変なこと聞きますねぇ」
「うるせぇ、さっさと教えろ」
半ば強引な態度に男は仕方ないですねぇとため息を漏らすと。
「私はただ、自分が作った作品を返してもらいたいだけですよ」
そう、悪辣さと執着心を混ぜ合わせたような歪な顔で微笑ったのであった。
□
0
あなたにおすすめの小説
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました
かにくくり
ファンタジー
魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。
しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。
しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。
勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。
そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。
相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。
※小説家になろうにも掲載しています。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる