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再来のレッドブル
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姉ちゃんが行方をくらましてから、一週間が経った。
初めは、落ち着いたら戻ってくるかもなんて淡い期待を抱いていたりもしたのだけれど、その考えは甘かったらしい。
「そっちは、何か手がかりは見つかった?」
一日の終わりが近づく黄昏時。
捜索を終えて酒場に集合した僕たちは、あるはずがないとわかっていながら互いの成果を報告する。
「すまねぇ。ブラックマーケットの奴らに協力を頼んでみたけどよ、誰もアンネを見てねぇって」
「こちらも訓練場とギルドを回ってみたのじゃが、誰も姿を見ていないと言っておる」
二人の報告に、僕はため息を一つ漏らす。
ここ一週間、毎日がこんな感じだ。
手がかりも目撃情報すらなく、焦りだけが纏わり付く。
「そっか」
「ユウの方はどうじゃった? 今日はダンジョンを巡ると言っておったが」
少しだけ期待をするようなマオの瞳に、僕は首を左右に振る。
「近場のダンジョンは巡ってみたけど痕跡はなかったよ」
「そうか」
「まったく、どこほっつき歩いてるんだよ姉ちゃんは」
八つ当たりをするように僕は蜂蜜酒を一気に飲み下してみるが、眩暈がするだけで気分が晴れることはなかった。
「しかし、これだけ探して見つからねぇとなると。アンネはもうこの街には居ねえのかも知れねぇな」
「っ、、、」
フレンの言葉に僕は胸が締め付けられるようになる。
あり得ない話ではない。
姉ちゃんはこの町では有名人だし。
隠密魔法が使えない姉ちゃんが、一週間も誰の目にも止まらずにいるということは不可能に近いだろう。
可能性を考えれば、僕を捨てて早々に旅立ってしまった可能性の方が高い。
「それはないよ、姉ちゃんが僕を置いて行くなんて・・・・・・信じられない」
でも、それは姉ちゃんが・・・・・・。
アンネ・ファタ・モルガナが僕の家族であることを辞めてしまったと言うことだ。
それだけはあり得ない。
いや、あって欲しくない。
「・・・・・・まぁ、ユウがそういうならそうなんだろうな」
それは、推理も論理性もへったくれもない僕の願望だったが、フレンは肩をすくめてその考えを肯定してくれた。
「じゃな。あれだけの執着を見せていたアンネが早々お主のことを手放すとは思えぬ。さっさと見つけ出して色々と問いただしてやろうぞ」
呆れたようにマオはそういうと、僕はふと自分の右腕を見る。
今はただの僕の腕だが、この腕に眠るもう一つの腕は魔王軍の元幹部、マオの部下のものであるらしい。
何故姉ちゃんがそんなものを持っていたのかは分からないし。
どうして僕にそんなものを植えつけたのかすら不明だ。
もしかしたら、僕は姉ちゃんの実験動物でしかなかったのか?
そんな不安に押しつぶされそうになりながら、僕は新たに蜂蜜酒を頼もうとすると。
「た、大変だあ!!」
不意に酒場にそんな声が響き、見るとそこにはボロボロの鎧を見に纏った冒険者が酒場へと転がり込んでくる。
息も絶え絶えであり、全身血まみれの男は首からAランク冒険者の証である金のギルドバッジが光っている。
「なんだなんだ!?」
「何でAランク冒険者がこんな所で血まみれに?」
「おいおい、あいつアーノルドのところの奴じゃないか」
「え?アーノルドって、ギルドアームストロングのか?」
突然の来訪者に、酒場に響いていた陽気な声は、不穏なざわつきへと変わる。
店員のお姉さんが、慌てて冒険者の手当てをしようと駆け寄るが、男は「それどころじゃない」と店員を押し退けると。
「アーノルドが、魔王軍にやられた‼︎ みんなすぐに街から逃げろ、奴らが町に攻め込んでくるぞ‼︎」
一瞬、この人が何を言ってるのか正確に理解ができなかった。
それもそうだろう。
アーノルドと言えば、世界で4本の指に数えられる冒険者だ。
だから誰もが、僕でさえも自分の聞き間違いであることを疑わなかった。
だが。
街の外……町に設置された拡声器から聞き覚えのある声が現実を突きつけるように響き渡る。
【勇者に告ぐ‼︎ この街は完全に我等魔王軍が包囲した‼︎ これから2時間後に、俺は全軍突撃の指示を出す。街の人間を皆殺しにされたく無かったら、西門を開けてこの俺と戦え‼︎ そうすりゃ、街の人間だけは助けてやる‼︎ いいな‼︎】
「レッドブル⁉︎」
拡声器により町中に響き渡った声は魔王軍幹部レッドブルの物だ。
「嘘だろ⁉︎あのあかべこ野郎あんだけアンネにボコボコにされてまだ生きてやがんのかよ⁉︎」
姉ちゃんとレッドブルとの戦いからまだ一週間と二日……いくら魔物が人よりも丈夫だからといって、あのアーノルドさんを倒すまでに回復しているなんていくらなんでもあり得ない。
「馬鹿もん、現実逃避をしとる場合か金髪⁉︎ 現にこうして街にあかべこが来ている上に、通信設備まで乗っ取られておるのじゃぞ⁉︎」
「そ、そりゃそうだけどよぉ⁉︎」
フレンを叱りつけるマオに、僕も心のうちで反省をする。
今はどうしてレッドブルが現れたのかを考えるのではなく、どうやってこの窮地から脱するかを考える時だ。
アーノルドさんはレッドブルが姉ちゃんに吹き飛ばされた付近の捜索を行なっていた。
つまり、この冒険者の人が言うようにアーノルドはレッドブルに撃破されたと言うのは本当の話なのだろう。
姉ちゃんはいない……戦ったところで勝ち目はないし、出ていったところでなぶり殺しにされるのがオチだ。
だけど……僕が出ていかないと街のみんなが殺されてしまう。
周りを見ると、先程まで陽気に酒を煽っていた冒険者たちが、不安そうな表情を見せている。
中には剣をとり魔王軍と戦おうと準備を進めている人もいたが……その誰の表情にも絶望の色が見えている。
そんな姿に、僕はぐっと唇を噛んで覚悟を決める。
「行こう……僕たちがなんとかしないと」
「正気かユウ⁉︎ アンネはいねーんだ‼︎ 行ってもなぶり殺しにされるだけだぞ⁉︎」
「そうじゃぞユウ⁉︎ 幹部は倒せずとも、妾たちなら魔物の包囲を突破するくらいならできるはずじゃ⁉︎ さすれば他の街に助けを求めに行くこともできよう? 冷静になれ‼︎」
自暴自棄になったように見えたのだろう……マオとフレンは僕を止めるようにそう諭すが、僕はその二人の言葉に首を左右にふる。
「それでも……逃げられるのは僕達だけだ。みんなを犠牲にして、勇者だけが逃げるなんて。僕はそんな格好悪いこと、できないよ」
自分でも分かるほど、声が震えている。。
相手は魔王軍幹部だ……怖くないわけがないし、本当は逃げ出したくてたまらない。
マオやフレンのいう通り、襲撃の混乱に乗じて逃げるのは正しいし賢い判断だろう。
だけど……我が身可愛さでこの街の人たちを犠牲にしたら、僕は大事なものを失ってしまう気がした。
少なくとも、姉ちゃんが格好いいと思ってくれるような男ではなくなってしまう。
例え姉ちゃんがそれを望まなくても、それだけは嫌だった。
そんな僕に。
マオとフレンは互いに顔を見合わせてため息を漏らすと。
「……まったく、それでは諦めるしかないのぉ」
「だな……」
肩をすくめてマオとフレンは立ち上がった。
「……えと、着いてくるつもり? これは僕の我儘だし、二人は別に付き合わなくても……いでっ⁉︎」
何も一緒に犠牲になるつもりはない……そう二人に言いかけた僕であったが、そんな言葉を遮るようにフレンのデコピンが僕の額を弾く。
「ばーか……お前が殺されたら、次は俺たちも魔王軍に殺されるに決まってんだろ? アーノルドもアンネもいねーんだ。だったらもう勇者を勝たせるしかねーだろ。どーせお前、ろくな作戦も考えてねーだろうからな」
「じゃな……なに、相手はたかがあかべこ一匹。さっさとローストビーフにして、アンネの捜索を続けるぞ、ユウ」
勝てる見込みもないのに、強がるように二人はそう言ってくれた。
「二人とも……うん、行こう!」
そんな二人に僕は思わず微笑んで、僕は勇者の剣を手に取り、魔王軍の元へと駆け出したのであった。
初めは、落ち着いたら戻ってくるかもなんて淡い期待を抱いていたりもしたのだけれど、その考えは甘かったらしい。
「そっちは、何か手がかりは見つかった?」
一日の終わりが近づく黄昏時。
捜索を終えて酒場に集合した僕たちは、あるはずがないとわかっていながら互いの成果を報告する。
「すまねぇ。ブラックマーケットの奴らに協力を頼んでみたけどよ、誰もアンネを見てねぇって」
「こちらも訓練場とギルドを回ってみたのじゃが、誰も姿を見ていないと言っておる」
二人の報告に、僕はため息を一つ漏らす。
ここ一週間、毎日がこんな感じだ。
手がかりも目撃情報すらなく、焦りだけが纏わり付く。
「そっか」
「ユウの方はどうじゃった? 今日はダンジョンを巡ると言っておったが」
少しだけ期待をするようなマオの瞳に、僕は首を左右に振る。
「近場のダンジョンは巡ってみたけど痕跡はなかったよ」
「そうか」
「まったく、どこほっつき歩いてるんだよ姉ちゃんは」
八つ当たりをするように僕は蜂蜜酒を一気に飲み下してみるが、眩暈がするだけで気分が晴れることはなかった。
「しかし、これだけ探して見つからねぇとなると。アンネはもうこの街には居ねえのかも知れねぇな」
「っ、、、」
フレンの言葉に僕は胸が締め付けられるようになる。
あり得ない話ではない。
姉ちゃんはこの町では有名人だし。
隠密魔法が使えない姉ちゃんが、一週間も誰の目にも止まらずにいるということは不可能に近いだろう。
可能性を考えれば、僕を捨てて早々に旅立ってしまった可能性の方が高い。
「それはないよ、姉ちゃんが僕を置いて行くなんて・・・・・・信じられない」
でも、それは姉ちゃんが・・・・・・。
アンネ・ファタ・モルガナが僕の家族であることを辞めてしまったと言うことだ。
それだけはあり得ない。
いや、あって欲しくない。
「・・・・・・まぁ、ユウがそういうならそうなんだろうな」
それは、推理も論理性もへったくれもない僕の願望だったが、フレンは肩をすくめてその考えを肯定してくれた。
「じゃな。あれだけの執着を見せていたアンネが早々お主のことを手放すとは思えぬ。さっさと見つけ出して色々と問いただしてやろうぞ」
呆れたようにマオはそういうと、僕はふと自分の右腕を見る。
今はただの僕の腕だが、この腕に眠るもう一つの腕は魔王軍の元幹部、マオの部下のものであるらしい。
何故姉ちゃんがそんなものを持っていたのかは分からないし。
どうして僕にそんなものを植えつけたのかすら不明だ。
もしかしたら、僕は姉ちゃんの実験動物でしかなかったのか?
そんな不安に押しつぶされそうになりながら、僕は新たに蜂蜜酒を頼もうとすると。
「た、大変だあ!!」
不意に酒場にそんな声が響き、見るとそこにはボロボロの鎧を見に纏った冒険者が酒場へと転がり込んでくる。
息も絶え絶えであり、全身血まみれの男は首からAランク冒険者の証である金のギルドバッジが光っている。
「なんだなんだ!?」
「何でAランク冒険者がこんな所で血まみれに?」
「おいおい、あいつアーノルドのところの奴じゃないか」
「え?アーノルドって、ギルドアームストロングのか?」
突然の来訪者に、酒場に響いていた陽気な声は、不穏なざわつきへと変わる。
店員のお姉さんが、慌てて冒険者の手当てをしようと駆け寄るが、男は「それどころじゃない」と店員を押し退けると。
「アーノルドが、魔王軍にやられた‼︎ みんなすぐに街から逃げろ、奴らが町に攻め込んでくるぞ‼︎」
一瞬、この人が何を言ってるのか正確に理解ができなかった。
それもそうだろう。
アーノルドと言えば、世界で4本の指に数えられる冒険者だ。
だから誰もが、僕でさえも自分の聞き間違いであることを疑わなかった。
だが。
街の外……町に設置された拡声器から聞き覚えのある声が現実を突きつけるように響き渡る。
【勇者に告ぐ‼︎ この街は完全に我等魔王軍が包囲した‼︎ これから2時間後に、俺は全軍突撃の指示を出す。街の人間を皆殺しにされたく無かったら、西門を開けてこの俺と戦え‼︎ そうすりゃ、街の人間だけは助けてやる‼︎ いいな‼︎】
「レッドブル⁉︎」
拡声器により町中に響き渡った声は魔王軍幹部レッドブルの物だ。
「嘘だろ⁉︎あのあかべこ野郎あんだけアンネにボコボコにされてまだ生きてやがんのかよ⁉︎」
姉ちゃんとレッドブルとの戦いからまだ一週間と二日……いくら魔物が人よりも丈夫だからといって、あのアーノルドさんを倒すまでに回復しているなんていくらなんでもあり得ない。
「馬鹿もん、現実逃避をしとる場合か金髪⁉︎ 現にこうして街にあかべこが来ている上に、通信設備まで乗っ取られておるのじゃぞ⁉︎」
「そ、そりゃそうだけどよぉ⁉︎」
フレンを叱りつけるマオに、僕も心のうちで反省をする。
今はどうしてレッドブルが現れたのかを考えるのではなく、どうやってこの窮地から脱するかを考える時だ。
アーノルドさんはレッドブルが姉ちゃんに吹き飛ばされた付近の捜索を行なっていた。
つまり、この冒険者の人が言うようにアーノルドはレッドブルに撃破されたと言うのは本当の話なのだろう。
姉ちゃんはいない……戦ったところで勝ち目はないし、出ていったところでなぶり殺しにされるのがオチだ。
だけど……僕が出ていかないと街のみんなが殺されてしまう。
周りを見ると、先程まで陽気に酒を煽っていた冒険者たちが、不安そうな表情を見せている。
中には剣をとり魔王軍と戦おうと準備を進めている人もいたが……その誰の表情にも絶望の色が見えている。
そんな姿に、僕はぐっと唇を噛んで覚悟を決める。
「行こう……僕たちがなんとかしないと」
「正気かユウ⁉︎ アンネはいねーんだ‼︎ 行ってもなぶり殺しにされるだけだぞ⁉︎」
「そうじゃぞユウ⁉︎ 幹部は倒せずとも、妾たちなら魔物の包囲を突破するくらいならできるはずじゃ⁉︎ さすれば他の街に助けを求めに行くこともできよう? 冷静になれ‼︎」
自暴自棄になったように見えたのだろう……マオとフレンは僕を止めるようにそう諭すが、僕はその二人の言葉に首を左右にふる。
「それでも……逃げられるのは僕達だけだ。みんなを犠牲にして、勇者だけが逃げるなんて。僕はそんな格好悪いこと、できないよ」
自分でも分かるほど、声が震えている。。
相手は魔王軍幹部だ……怖くないわけがないし、本当は逃げ出したくてたまらない。
マオやフレンのいう通り、襲撃の混乱に乗じて逃げるのは正しいし賢い判断だろう。
だけど……我が身可愛さでこの街の人たちを犠牲にしたら、僕は大事なものを失ってしまう気がした。
少なくとも、姉ちゃんが格好いいと思ってくれるような男ではなくなってしまう。
例え姉ちゃんがそれを望まなくても、それだけは嫌だった。
そんな僕に。
マオとフレンは互いに顔を見合わせてため息を漏らすと。
「……まったく、それでは諦めるしかないのぉ」
「だな……」
肩をすくめてマオとフレンは立ち上がった。
「……えと、着いてくるつもり? これは僕の我儘だし、二人は別に付き合わなくても……いでっ⁉︎」
何も一緒に犠牲になるつもりはない……そう二人に言いかけた僕であったが、そんな言葉を遮るようにフレンのデコピンが僕の額を弾く。
「ばーか……お前が殺されたら、次は俺たちも魔王軍に殺されるに決まってんだろ? アーノルドもアンネもいねーんだ。だったらもう勇者を勝たせるしかねーだろ。どーせお前、ろくな作戦も考えてねーだろうからな」
「じゃな……なに、相手はたかがあかべこ一匹。さっさとローストビーフにして、アンネの捜索を続けるぞ、ユウ」
勝てる見込みもないのに、強がるように二人はそう言ってくれた。
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