実験体として勇者にされた僕 最強賢者の姉ちゃんに助けられて溺愛されたけど 過保護すぎるせいで全然強くなれません

nagamiyuuichi

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お姉ちゃんが守るから

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  姉ちゃんの胸から剣が突き出し、ぼたぼたと僕の顔に血がこぼれる。

  だけど姉ちゃんは、それでも僕に微笑みながら僕に魔法をかけ続けてくれている。

「なに、何してるんだよ姉ちゃん⁉︎ そんな、今の攻撃ぐらい、姉ちゃんなら簡単に⁉︎」

「げほっ……ごめんねユウ君……わ、私、たくさんユウ君に嘘をついてた。たくさん嘘をついて、ユウ君を騙してた、本当は、最低なお姉ちゃんなの……」

「何言ってんだよ……今、そんな話してる場合じゃ……」

「ほぉ? 心臓を貫いた筈ですが、封印魔法を施しながら自分に治癒魔法を同時にかけるとは器用な真似をしますね……流石は、彼の力をその身に封じていただけはあります……ね‼︎」

「う゛あ゛っ⁉︎」

  ズルリと姉ちゃんの胸から剣が引き抜かれ、ルシドは今度は肩口から姉ちゃんを貫く。

「姉ちゃん⁉︎ 何してんだよ‼︎ 僕のことなんてどうでもいいから、早くそいつをやっつけないと、姉ちゃんが⁉︎」

「いいの……大丈夫……大丈夫だから」

  ヒューヒューと喉から音を出しながら姉ちゃんはそれでも頑なに僕から離れようとしない。

  僕は姉ちゃんを助けようともがくが、封印の魔法は僕の体まで拘束をしているのか、びくともしない。

「ふふふ、回復し続けるなら好都合ですよ。死ぬまで切り刻み続けられますからねえ‼︎ずっとこの日を待っていましたよ……私から私の最高傑作を……絶対的な破壊の力、幾千もの魔物の魂と肉体……その力を全て繋ぎ合わせて作り上げた私だけの最強の兵器……ブレイブハザードを盗み出した貴方を、こうして‼︎ 血祭りに‼︎ あげるのをねえ‼︎」 

「う゛っあ゛っ⁉︎」

  声を上げながら姉ちゃんの体を一方的に切り刻むルシド。

「な⁉︎  何してんだよ姉ちゃん‼︎ なんで、なんで戦わないんだよ⁉︎ このままじゃ、本当に死んで……」  

「大丈夫……これでいいのユウ君……もう二度と、ユウ君にあんなことはさせないから‼︎」

「あんなこと……あんなことって……どういうこと?」

  僕の質問に、姉ちゃんは一瞬悲しそうな表情を見せ、まるで僕を哀れむような表情で「全部話すね」と呟いた。

「……ユ、ユウ君が連れ去られてから、私……いっぱい修行してユウ君を助けに行ったんだ……。でも、その時には、もう何もかもが手遅れだった……勇者復活なんて真っ赤な嘘。あの男にユウ君は、怪物にされていた……」

「怪物って……これ全部、あいつのせいなの?」

「そう……勇者の力と、かつての魔王に従えた魔物達の肉体……それを混ぜ合わせた究極兵器……あの男が作り出そうとしていたのはそんなものなの」

「そんな……」

「色々な魔物を体に詰め込まれて、直視できないほどの呪いをかけられて……私がついた時には、ユウ君はただただ苦しそうに、国を滅ぼしてた。その圧倒的な力で、全部を灰に変えてた……」

  苦しそうに口から血をこぼしながら、姉ちゃんは泣きそうな顔でそんなことを話し出す。
  
  それは紛れもなくハザドの国が消滅した日のことで、僕は自分が何をしたのかを思い知る。

「そんな……じゃあ、ブレイブハザードを起こしたのは……」

  勇者復活の失敗でも、突然怒った大災害でもない。
 
  砂漠と化した街……故郷も、僕の暮らしていた村の人たちを全員殺したのは……。

「ユウ君じゃないよ……ユウ君はただ、あいつの実験に利用された魔物の魂達に体を乗っ取られていただけ…………だから私は封印したの──私のスキルで」

「スキルって……姉ちゃんのスキルは改造じゃ……」

「ごめんね、それも嘘なの……私ができることは、封印の魔法と、封印したものの力を使うことだけ……私は、今までユウ君から預かってた力を使ってただけなの───」

「そんな……じゃあ、今までやってた改造は……」

「ユウ君の封印を少しだけ解放してただけ……少しずつ体に馴染ませて、時間がかかるけど制御ができるようにするために……それまでは……その呪いはお姉ちゃんが、押さえ付けてたの」

  頭の中でいまだに響きつづける【体をよこせ】という呪いの言葉。

  数秒聞いていただけで気が狂いそうだっていうのに、こんな物を、姉ちゃんはずっと一人で押さえ込んでいたって言うのか?

「なんで……何でそんなこと⁉︎ どうして‼︎」

  どうして、血も繋がっていない弟のために……そこまでするんだ。

  そんな僕の言葉に、姉ちゃんは「当然だよ」と優しく僕の頬を撫でると。

「──だって、血が繋がってなくても私はユウ君のお姉ちゃんだもん。」

  そう微笑った

  何度も何度も刃で背中を突き刺されながらも、姉ちゃんは抵抗することも手を止めることもせずに僕に封印を施していく。

「ちっ‼︎ いつまでそうしてやがる‼︎  さっさとくたばれこのクソアマァ‼︎」

  初めは愉快気に姉ちゃんを痛めつけていたルシドであったが、その表情にだんだんと余裕がなくなり始め、両手で剣を握って姉ちゃんを切り裂き始める。

「姉ちゃん⁉︎」

「大丈夫……すぐに、封印をし直して……あんな奴、お姉ちゃんがやっつけちゃうんだから。だからユウ君は安心してお姉ちゃんに任せていて……私のせいでユウ君はいっぱい苦しんだから。いっぱい痛い思いをしたし我慢をしたから。だから、今度はお姉ちゃんの番なの」

  僕が連れ去られたあの日、僕を見捨てた償いのために。

  今度は自分が犠牲になろうと姉ちゃんはそう言った。

  僕がかけた呪いのせいで……姉ちゃんは一人こんな物を背負い込んでいたのだ。

「違う……姉ちゃんは悪くない……悪いのは……」

  呪いをかけてしまった僕だ……そう言おうとした僕に姉ちゃんは首を振る。

「これからは私がずーっとユウ君を守ってあげるから、ユウ君は何も心配しなくていいし、苦しい思いも辛い思いももうしなくていいの。 お姉ちゃんが守ってあげるから、だから、だから……これからは思う存分笑って生きて……例え──死んでも、私が貴方を守る──から……」


  姉ちゃんの心臓が貫かれるのは、もう何度目か分からない。

  泣きたくなるほど痛いはずだ。
  声を上げて、逃げ出したくなって当然だ。
  だと言うのに、姉ちゃんは決して僕から離れようとしなかった。

  自分のことなんて省みずに、ただ僕を守るために笑って耐えている。

  いや、今に始まった話じゃない。

  姉ちゃんは、僕を助けてくれたあの日から……たった一人で僕を守ってくれたのだ。

  心臓を貫かれるたび、姉ちゃんの魔力が弱くなっていくのがわかる。
  だんだん呼吸も弱くなっていて……気がつけば姉ちゃんは自分の回復に充てる魔力すら僕の封印に注いでいる。

「ああぁもぅ‼︎  何二人で盛り上がってんだよ‼︎ とっくに魔力切れなのは分かってんだよ、さっさとくたばれこの死に損ないがあ‼︎」

  叫びながらルシドは剣を引き抜き、姉ちゃんの傷口に手をかざす。

「──やめっ‼︎?」

【破裂‼︎】

  何かが爆ぜる音が響く……それは風船が破裂するような、そんな音。

  それが何なのかは知りたくもない。

「──────大丈夫……」

  ただ、姉ちゃんはそう呟いてその場に倒れ、僕にかけられた封印の魔法が消える。

  体に纏わりついていた呪いは既に消えていて、慌てて姉ちゃんに駆け寄るも、姉ちゃんはすでに息をしていなかった。
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