実験体として勇者にされた僕 最強賢者の姉ちゃんに助けられて溺愛されたけど 過保護すぎるせいで全然強くなれません

nagamiyuuichi

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勇者

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「姉ちゃん……嘘だよね……だって、あいつをやっつけるんでしょ? 僕を守ってくれるんでしょ? ねえ、それなのに何で……こんなところで寝てるんだよ……」

 「────」

  姉ちゃんは動かない……。

  こんなことになるなら……どうして僕は、あの時姉ちゃんに助けてなんて言ってしまったのだろう。

  なんで、マオに問い詰められた姉ちゃんに味方をしてあげられなかったのだろう。
「なんで……こんなことになっちゃったんだろうね。僕はただ、姉ちゃんと二人で居られればそれでよかったのに。雨漏りのしてる屋根で、二人で細々と暮らしていければそれでよかったのに……」

  動かない姉ちゃんの頬を優しく撫でると、耳障りな声が聞こえてきた。

「ふ、ふふふ‼︎ はははははははは、さぁこれで邪魔者はいません‼︎ 性懲りも無くチンケな封印を施したみたいですが……そんなものこいつさえいれば幾らでも解除できるんですよぉ‼︎」

【オオオオオアアァ……】

  パチンとルシドが指を鳴らすと、首を落とされたはずのレッドブルの体が起き上がる。
  だがそれは生きているとは言い難く、首から伸びた触手のような物がレッドブルの体から伸び、切り落とされた体と首を再度繋ぎ合わせていく。

「はっははははは‼︎ 魔王軍幹部も、私に改造されればもはやゾンビと変わらないですね‼︎ 生前は随分と偉そうにしていましたが……そんなもの、私の前では無意味です。それは、ユウ・ケントシュタイン……貴方にも言えることですよ‼︎」

  勝利を確信したのか、笑いながらレッドブルの死体を操りながら僕に迫るルシド。
  その表情は、あの日僕を勇者の実験体として連れ去った時と同じ表情で。

  僕はようやく気づく。

「……お前のせいか」

  こいつさえいなければ……。

  そう思った瞬間、僕の心の中が真っ黒に塗りつぶされる。

  怒りに呼応するように、体から再び肉塊がこぼれ落ち、僕の体に纏わりつく……。
  だが……それでも構わない……こいつを殺せるなら何だって……。


「はっははははは⁉︎ 素晴らしい、あの厄介な封印を自力で壊すとは……あぁ、やはり私は間違っていなかった‼︎  さぁ、その力を存分に振るって世界を焦土に変えてしまいなさい‼︎ 貴方こそ私が作り出した史上最高の破壊兵器‼︎ その力で、人も、魔王も、何もかもを滅ぼしてしまいなさい‼︎」

「……五月蝿い‼︎」

  勇者の剣は黒く染まり、僕は剣を振り、ルシドを守るように立ちはだかっているレッドブルごと、ルシドの腕を斬り落とす。

「ああああああぁ‼︎ はははは‼︎ 素晴らしい‼︎ 全てを破壊し尽くす兵器! 栄華を極めたハザド王国が滅んだ時、私は心の底から震えました。私の作った最高傑作が、この世界の最後の一ページを締めくくる!

  鮮血を撒き散らし、地面を転がりながらもルシドは笑っていた。

  こんな狂ったやつのために、僕たちは……姉ちゃんは苦しんだのかと思うと、殺意が湧き上がる。

  ──殺してやる……殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる……殺してやる……。

  剣を振りかざし、怒りのまま、恨みのまま、呪いを込めてルシドへと叩きつけよう。
  世界が消えようが、街が消えようが関係ない。
 
  もう姉ちゃんはいない……だったら、こんな世界ごと消えてしまえばいい。

  そう、全身を包む肉塊を受け入れながら僕は剣を振り上げる。

  全てを壊すつもりで……。

勇者災害ブレイブハザード

  だが。

  勇者の剣を振り上げた僕の手を、そっと後ろから抱き締めるように支えてくれる人がいた。

「ダメだよユウ君……ユウ君は勇者なんだから、みんなを守らないと」

「姉ちゃん?」

  振り返るが、当然姉ちゃんはそこには居ない。

  だけど……優しく僕を叱るその声は間違いなく姉ちゃんのもので……。

  その声と同時に僕の体から肉塊が剥がれ落ちていく。

  何をやってるんだ僕は……。

  ここで、みんなを殺してしまえば。
  同じことを繰り返したら……姉ちゃんの頑張りが全部無駄になってしまうと言うのに。

「っそうだね……ごめん姉ちゃん」

  本当に最後の最後まで、僕は姉ちゃんに守られてばっかりだ。

  そんな自分の愚かさに、未熟さに呆れながら……泣きそうになるのを必死に堪えて僕は再度ルシドをみて、剣を構える。

  気がつけば、勇者の剣は元の姿を取り戻して……ただの剣となっている。

「なっ‼︎ 違う、違う違う違うそうじゃない‼︎ そうじゃないですユウ・ケントシュタイン‼︎ それじゃあただの人間だ‼︎ ブレイブハザードを、ブレイブハザードを起こすのです‼︎」

「誰が、お前の言う通りになんてするもんか‼︎」

  僕は走る……兵器としてではなく、勇者として……ただの人間として。

「っ‼︎  駄目だ、駄目だ駄目だそれじゃあ駄目だ‼︎ そいつを止めろレッドブル‼︎」

  悲鳴に近い絶叫に、呼応するようにレッドブルのゾンビはこちらに向かって突進を仕掛けてくる……だが。

【ファイアーボールなのじゃ‼︎】

「っだあぁかあら⁉︎ 声出すんじゃねえよバカ⁉︎ 隠密のスキルが剥がれんだろうが‼︎」

  どこか場違いな声と共に、巨大な火の玉がレッドブルを吹き飛ばす。

  見るとそこには、ボロボロになりながらも元気そうなマオとフレンが立っていた。

「二人とも……」

「こちらは妾たちに任せよ‼︎ 宣言通り、あかべこをローストビーフにしてやるわ‼︎」

「いやいや‼︎ お前随分と粋がってるけどお前の火の玉全然効いてる様子がねえぞ⁉︎」

「え、うそ⁉︎」

「ああ、もう使えねえなこのだめ魔王は⁉︎  ユウ‼︎ 頼むからさっさとそっちを終わらせてこっちの援護をしてくれえぇ‼︎」

  元気そうにレッドブルの相手を引き受けてくれる二人。

  僕はそんな二人に少し微笑み、ルシドへと駆ける。

 「ルシドォ───ッ‼︎」

 「ひっ⁉︎ だめだ、殺されるのはいい‼︎ 私の最高傑作に殺されるなら……だが、ただの人間の、実験体に殺されるのだけは絶対に‼︎ 私は、私はブレイブハザードをもう一度この目で見なければ……私が人類最高のそして最後の科学者に……‼︎」

  悪あがきと言わんばかりにルシドは魔法陣を展開し、こちらに向けて爆炎を放つ。

  当然、悪あがきといえども相手は高位の魔術師、肩が焼かれ、右脇腹から鈍い音がして激痛が走る。

  だけど……。

「それがどうしたぁ───ッ‼︎」

  その程度の魔法で止まるわけもなく……僕は何の力もないただの剣で僕はルシドに斬りかかる。

  獣でも、魔物でも、災害でもない……僕は人として、僕はルシドに借りを返すのだ。

【──ッスマッシュ‼︎‼︎】

  勇者の技でも、魔物の技でも、ブレイブハザードでもない。

  僕が叩きつけるのは冒険者の……それこそ誰でも使えるような変哲のない技。

  それでも、魔法使い……しかも腕を失っているルシドにはその一撃すら満足に受け止めることもできない。

「そんな……私の、最高傑作が、こんな……ただの……」

   胸を袈裟に切り裂かれ、失望の色に染まりながら、ルシドはただの人間との戦いで命を落としたのであった。


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